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岐路~再びいなくなったエナ~
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「えっと、初めまして葉山宗一です」
「あなたのことは色々と聞いてますよ? それについての話をしたいところですが、まずは彼等から報告を聞かないといけませんので、少しお待ちいただけませんかね?」
誰から何を色々と聞いたのだろう……気になるけども今はラトルさんたちの報告の方が先だな。
俺たちの会話が終わったのを見計らったラトルさんとルカさんが一歩前に出た。
「ギルドをからも多分連絡来てると思うけど、国の周辺で四匹のスノウレイヴェを確認した」
「多分実際にはもっといると思うわ」
「そうですねぇ……国の調査隊も二人とは別のところを調査した結果、無数のスノウレイヴェの足跡や木に刻まれた爪痕……そして5匹のスノウレイヴェと遭遇したらしいですよ」
「5匹って大事じゃねえか」
あの白いライオンみたいな魔物がこの国周辺に集まっているのか?
ルカさんが言っていた通りスノウレイヴェとやらは本来雪山に生息している魔物であり、それがこんな比較的暖かいところまで降りてくるなどないとのこと。
雪山でなにかあったのだろうか? 例えば獲物となる魔物を全て狩り尽くしてしまったとか?
「国に言って大規模な討伐隊を組んだ方がいいと思うわ」
「さすがに俺たち二人だけじゃ広範囲はカバーできないしな」
「それは勿論。他に何か変わったことはありませんでしたか?」
「そういえば……!」
シオンさんの言葉を受けたルカさんが何かに気が付いたようにハッとなった。
「かなり凶暴化していたわね。本来のスノウレイヴェはもっと注意深く観察してから的確に獲物を狩る魔物だけど、そんな様子もなく遭遇するなりいきなり取り囲まれたもの」
「あれは相当腹が減ってたんだろうな」
「やはりなにか強力な魔物が山に住み着き、生態系が狂わされてスノウレイヴェたちが追い出されたと見るべきですね」
「スノウレイヴェが山から逃げるほどの強力な魔物……ねえ」
「絶対に遭遇したくないわね」
強力な魔物か……まさかと思うけど、白虎とかじゃないだろうな? 朱雀の話だとこの国のどこかにいるみたいなこと言ってたし、可能性としては割と高い気がする。
もしもこの件に白虎が絡んでるなら、当然俺たちが何とかしないといけなくなるんだけど……数日前に青龍の暴走を鎮めたばかりだというのになぁ。
「ともかくご苦労様でした……近いうちに二人には雪山調査の依頼を出します」
「お前さん相変わらず人使いが荒いな」
「この前雪山に調査しに行った冒険者たちはどうなったの?」
「それが帰ってこないんですよねぇ……お二人には雪山調査と同時に行方不明になった冒険者も探していただければと」
「俺ら二人だけでそんないっぺんに色々できねえよ!」
「大丈夫ですよ? 恐らく彼らも手伝ってくれると思いますからね」
そう言ってシオンさんが俺たちを見てニッコリと微笑んだ。
……いきなり何を言ってるんだこの人は?
「彼らにとってもこの件は恐らく無視できない案件だと思いますから」
「そうなのかシューイチ?」
「いや、知りませんよ!」
急にこっちに話を振られても困るんですけど!……という視線をシオンさんに送るも、先程と同じようにニッコリと微笑むだけだった。
何なのこの人? 笑えばなにもかも解決するとでも思ってるのか!?
「ではおふざけはこのくらいにして、今度はそちらの方々の要件を聞きましょうか」
そう言ってシオンさんがコホンと咳ばらいをして、ソファに深く座りなおした。
場の空気を強引にコントロールするのに長けた人だな……はっきり言って超やりにくい相手だ。
「えっと……俺たちは人を探しに来てまして」
「エナ君をですか?」
いきなりぶっこんで来たぞこの人!?
そりゃあ関係者だろうなとは思っていたけどさ!
「エナをご存じなんですか?」
「それは勿論、彼女に魔法のイロハを教えたのは私ですからね?」
「俺たちのことを知っていたのも、エナから聞いたからなんですか?」
「その通りです、色々と聞きましたよ? 例えば……神獣の事とか」
シオンさんの発した神獣というワードを聞いた俺たちの間で、緊張が走った。
どうやらこの人はエナの知り合いで、そしてそのエナもここにいるんだ。
そうと決まればまどろっこしい話はなしだ。
「エナに会わせてもらえませんか?」
「それは勿論構いませんが、一つ伺ってもよろしいですかね?」
先ほどまでの緩い雰囲気とは打って変わり、シオンさんの雰囲気が真面目な空気を纏い始めた。
「エナ君のことをどこまで知っているんですか? 彼女の生い立ちや彼女の力の事……そして彼女の背負う物……」
「はっきり言ってなにも知りません」
その答えを聞いたシオンさんが驚きで開いてるんだかわかんない目を少しだけ見開いた。
「随分とはっきり言いますね?」
「まあ事実ですからね? わかってることと言えば、エナが自分の持ってる力のことでずっと苦しんでたってくらいですね」
「それがわかっていながら、エナ君がこうしていなくなるまで放置していたと?」
「放置してたわけじゃないですよ、今度力を使って倒れることがあったら何もかも隠さず話す約束してたんですけど、それをする前にエナがいなくなったんですよ」
「力を使い倒れるその時までに、エナ君から聞こうとは思わなかったのですか?」
「自分から言ってくれるのを待つ方針だったんで」
シオンさんが腕を組みながら軽くため息を吐いた。その表情からは残念ながら何を考えているのかを伺い知ることは出来ない。
その様子を確認しつつも、俺は言葉を続けていく。
「でももう待つのは止めました。俺がエナの事情を知るのを躊躇して後回しにしてしまった結果が今回のエナの失踪に繋がりました。だから俺たちはエナを見つけて、今度こそエナの抱えている悩みやあの力のことをちゃんと知りたいと思ってます」
俺が後ろにいる皆に目配せすると、全員が揃って頷いてくれた。
「だからお願いします、ここにエナがいるのなら会わせてください!」
そう言って俺はシオンさんに向けて深々と頭を下げる。
土下座しなきゃ会わせないと言われれば、それこそ土下座したっていいと思ってる。
「少し意地悪してしまいましたね……顔を上げてください」
そう促されたので顔を上げると、シオンさんは先ほどとは違いとても優しい笑みを浮かべていた。
「元々ちゃんと君たちとエナ君と引き合わせてあげるつもりでしたよ? ただちょっとだけ君の覚悟を見たかったんですよ」
「覚悟?」
「彼女の抱える事情は大げさな話、この世界の今後を左右するほど重い物です。彼女の決断一つで存続か崩壊のどちらにも転ぶ可能性があります」
何やら複雑な事情を抱えてるだろうとは思っていたけど、そこまでのことなのか……。
「そして現在の彼女は丁度岐路に立たされている状態です。正直な話どちらに転ぶかはかの彼女次第ですが……彼女の親代わりをしていた私としましても、いい方向に転がってくれるのを祈るばかりですよ」
「あなたはエナのことをどこまで知ってるんですか?」
「出生から彼女の持つ特別な力まで……ほぼすべて知ってると言っても過言じゃないですね」
なるほど……そりゃエナがこの国に来るわけだ。エナにとって最後の拠り所となれるのが現在この人しかないのだろう。
「まあ君たちもこの世界の命運を左右するほどの事件に巻き込まれてるみたいですから、エナ君の事情が加わったところでどうということはないでしょうけどね」
「いや、出来ることならもうこれ以上厄介事はごめんなんですけど?」
「君は随分と正直ですね」
「まあそれが性分なんで」
ていうかこの人、俺たちが抱えてる事情をどこまで知ってるんだろう?
恐らくはエナから色々と聞いたのだと思うけど……さっき神獣の話もチラッとしたしな。
「エナ君と引き合わせる条件……というわけではないのですが、一つ君たちを優れた冒険者と見込んで、依頼したいことがあるんですよ」
「さっきラトルさんたちの話に出てきた雪山の件ですか?」
「お察しの通りです。エナ君のくれた情報を統合し私なりに考えた結果、今回の雪山の事件には神獣が関わっていると考えてます」
俺もさっき神獣が関わっているんじゃないかと思っていたけど、どうやらこの人も同じ推測を立てているらしい。
「本当はエナ君に頼んで、君の仲間であるフリルさんを連れてきてもらおうと思っていたんですが、手間が省けましたよ」
「……私?」
「そう、あなたです。エナ君の話では唯一暴走した神獣を鎮めることが出来るのですよね?」
「エナの奴、そんなことまで話したんですか?」
「ちなみに君が異世界人であり、全裸になったら無敵になることも知ってますよ?」
ちょっと待って、なんもかんも話しすぎだろ!?
「そうなのかシューイチ!?」
「えっと……まあ……」
「道理でなにかおかしいとは思っていたのよね……それにしても本当にこの世界の人間じゃないの?」
「そこを最初から説明するとちょっと長くなるんでまた今度でいいですか?」
予想だにしてなかった情報に、ラトルさんとルカさんが食いついてきた。
ていうかシオンさんはそんな荒唐無稽な話を信じてるのか?
「エナ君からその話を聞いて半信半疑でしたが、アーデンハイツにいるはずの君がわずか二日でこのクルテグラに来たのですから、それだけで信じるに値しますよ」
「まあかなり強引な方法で来ましたけどね」
「さてと……先ほどの依頼の件ですが、受けていただけるでしょうか?」
「多分知ってると思いますけど、俺たちはあと半年以内に四匹いる神獣を全て見つけ出して鎮める役割を押し付けられてますからね……そうなると受けざるを得ないんで」
「決まりですね。では今日中に国を通じてギルドへと依頼を出しておきますね」
エナを探しに来たはずなのに、なぜか神獣を鎮める方向になってしまった。
まあどの道、エナの件が片付いたら探すつもりではあったのだから、手間が省けたとみるべきか……。
「ではエナ君の部屋に案内しますから付いてきてください」
「んじゃ俺たちは先にギルドへ行って依頼の確認をしてくるか……」
「邪魔したら悪いものね。ギルドで待っているから用事が終わったらそこで合流しましょう」
「あっはい! 二人ともまた後で!」
そう言い残して、ラトルさんたちは先に部屋から出て行った。
「それじゃ行きますか」
二人を見送った後、シオンさんが手にしていたお茶を飲みをし席を立ち歩き出した。
その後に続いていくように部屋を出て廊下に沿うように歩いて行くと、ほどなくしてある部屋へと通じる扉の前までやってくる。
「エナ君、お客様を連れてきましたよ?」
ノックと共にシオンさんが部屋の主に呼びかけるも、中からは一向に返事が返ってこなかった。
「ふむ、先ほどまでいたはずなんですが……ちょっと失礼しますよ」
シオンさんが扉を開けてエナの部屋へと入っていく。
扉の隙間から部屋を覗くと、エルサイムの拠点のエナの部屋と同じように沢山の本が収められた本棚がちらりと見えた。
「すいませんが、君たちも入って来てもらってもいいですか?」
「……らしいで?」
「そんじゃお邪魔します」
シオンさんの許しが出たので、俺たちはぞろぞろとエナの部屋へと足を踏み入れていく。
ここに来るまでにシオンさんからチラッと聞いたのだが、エナはこの部屋で数年過ごしていたとのこと。
部屋を軽く観察するも、とても女の子が数年使っていたとは思えないほどこざっぱりとした部屋だった。
「えっと……エナがいないみたいですけど?」
「とりあえずこれを」
シオンさんが俺になにやら文字の掛かれた一枚の紙きれを差し出してきたので、手に取り文字を読むと一気に力が抜けてしまった。
「……あいつ」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「もしやエナさんの身に何かあったのですか?」
心配そうな面持ちのレリスにエナからのメッセージの掛かれた紙を手渡した。
「えっと……「雪山の調査に行ってきます」ですか……」
「何やエナの奴、一人で雪山に行ったんか!?」
「えっ、それって大丈夫なのかな!?」
さっきシオンさんが、エナに頼んでフリルを連れてきてもらうつもりだったみたいなことを言ってたから、恐らく……。
「これは私のミスですね……もう少しエナ君の心情を汲むべきでした……」
「フリルを連れてくる為にはどうしても俺たちと顔を会わせることになりますからね……顔を合わせづらいから一人で雪山に行ってしまったんでしょうね」
「……私のせい?」
「いや、フリルは何も悪くないぞ? この件で誰が悪いかと言ったら……」
そりゃあもう満場一致でエナが悪い。
なんだか少しばかり腹が立ってきたぞ。
「あなたのことは色々と聞いてますよ? それについての話をしたいところですが、まずは彼等から報告を聞かないといけませんので、少しお待ちいただけませんかね?」
誰から何を色々と聞いたのだろう……気になるけども今はラトルさんたちの報告の方が先だな。
俺たちの会話が終わったのを見計らったラトルさんとルカさんが一歩前に出た。
「ギルドをからも多分連絡来てると思うけど、国の周辺で四匹のスノウレイヴェを確認した」
「多分実際にはもっといると思うわ」
「そうですねぇ……国の調査隊も二人とは別のところを調査した結果、無数のスノウレイヴェの足跡や木に刻まれた爪痕……そして5匹のスノウレイヴェと遭遇したらしいですよ」
「5匹って大事じゃねえか」
あの白いライオンみたいな魔物がこの国周辺に集まっているのか?
ルカさんが言っていた通りスノウレイヴェとやらは本来雪山に生息している魔物であり、それがこんな比較的暖かいところまで降りてくるなどないとのこと。
雪山でなにかあったのだろうか? 例えば獲物となる魔物を全て狩り尽くしてしまったとか?
「国に言って大規模な討伐隊を組んだ方がいいと思うわ」
「さすがに俺たち二人だけじゃ広範囲はカバーできないしな」
「それは勿論。他に何か変わったことはありませんでしたか?」
「そういえば……!」
シオンさんの言葉を受けたルカさんが何かに気が付いたようにハッとなった。
「かなり凶暴化していたわね。本来のスノウレイヴェはもっと注意深く観察してから的確に獲物を狩る魔物だけど、そんな様子もなく遭遇するなりいきなり取り囲まれたもの」
「あれは相当腹が減ってたんだろうな」
「やはりなにか強力な魔物が山に住み着き、生態系が狂わされてスノウレイヴェたちが追い出されたと見るべきですね」
「スノウレイヴェが山から逃げるほどの強力な魔物……ねえ」
「絶対に遭遇したくないわね」
強力な魔物か……まさかと思うけど、白虎とかじゃないだろうな? 朱雀の話だとこの国のどこかにいるみたいなこと言ってたし、可能性としては割と高い気がする。
もしもこの件に白虎が絡んでるなら、当然俺たちが何とかしないといけなくなるんだけど……数日前に青龍の暴走を鎮めたばかりだというのになぁ。
「ともかくご苦労様でした……近いうちに二人には雪山調査の依頼を出します」
「お前さん相変わらず人使いが荒いな」
「この前雪山に調査しに行った冒険者たちはどうなったの?」
「それが帰ってこないんですよねぇ……お二人には雪山調査と同時に行方不明になった冒険者も探していただければと」
「俺ら二人だけでそんないっぺんに色々できねえよ!」
「大丈夫ですよ? 恐らく彼らも手伝ってくれると思いますからね」
そう言ってシオンさんが俺たちを見てニッコリと微笑んだ。
……いきなり何を言ってるんだこの人は?
「彼らにとってもこの件は恐らく無視できない案件だと思いますから」
「そうなのかシューイチ?」
「いや、知りませんよ!」
急にこっちに話を振られても困るんですけど!……という視線をシオンさんに送るも、先程と同じようにニッコリと微笑むだけだった。
何なのこの人? 笑えばなにもかも解決するとでも思ってるのか!?
「ではおふざけはこのくらいにして、今度はそちらの方々の要件を聞きましょうか」
そう言ってシオンさんがコホンと咳ばらいをして、ソファに深く座りなおした。
場の空気を強引にコントロールするのに長けた人だな……はっきり言って超やりにくい相手だ。
「えっと……俺たちは人を探しに来てまして」
「エナ君をですか?」
いきなりぶっこんで来たぞこの人!?
そりゃあ関係者だろうなとは思っていたけどさ!
「エナをご存じなんですか?」
「それは勿論、彼女に魔法のイロハを教えたのは私ですからね?」
「俺たちのことを知っていたのも、エナから聞いたからなんですか?」
「その通りです、色々と聞きましたよ? 例えば……神獣の事とか」
シオンさんの発した神獣というワードを聞いた俺たちの間で、緊張が走った。
どうやらこの人はエナの知り合いで、そしてそのエナもここにいるんだ。
そうと決まればまどろっこしい話はなしだ。
「エナに会わせてもらえませんか?」
「それは勿論構いませんが、一つ伺ってもよろしいですかね?」
先ほどまでの緩い雰囲気とは打って変わり、シオンさんの雰囲気が真面目な空気を纏い始めた。
「エナ君のことをどこまで知っているんですか? 彼女の生い立ちや彼女の力の事……そして彼女の背負う物……」
「はっきり言ってなにも知りません」
その答えを聞いたシオンさんが驚きで開いてるんだかわかんない目を少しだけ見開いた。
「随分とはっきり言いますね?」
「まあ事実ですからね? わかってることと言えば、エナが自分の持ってる力のことでずっと苦しんでたってくらいですね」
「それがわかっていながら、エナ君がこうしていなくなるまで放置していたと?」
「放置してたわけじゃないですよ、今度力を使って倒れることがあったら何もかも隠さず話す約束してたんですけど、それをする前にエナがいなくなったんですよ」
「力を使い倒れるその時までに、エナ君から聞こうとは思わなかったのですか?」
「自分から言ってくれるのを待つ方針だったんで」
シオンさんが腕を組みながら軽くため息を吐いた。その表情からは残念ながら何を考えているのかを伺い知ることは出来ない。
その様子を確認しつつも、俺は言葉を続けていく。
「でももう待つのは止めました。俺がエナの事情を知るのを躊躇して後回しにしてしまった結果が今回のエナの失踪に繋がりました。だから俺たちはエナを見つけて、今度こそエナの抱えている悩みやあの力のことをちゃんと知りたいと思ってます」
俺が後ろにいる皆に目配せすると、全員が揃って頷いてくれた。
「だからお願いします、ここにエナがいるのなら会わせてください!」
そう言って俺はシオンさんに向けて深々と頭を下げる。
土下座しなきゃ会わせないと言われれば、それこそ土下座したっていいと思ってる。
「少し意地悪してしまいましたね……顔を上げてください」
そう促されたので顔を上げると、シオンさんは先ほどとは違いとても優しい笑みを浮かべていた。
「元々ちゃんと君たちとエナ君と引き合わせてあげるつもりでしたよ? ただちょっとだけ君の覚悟を見たかったんですよ」
「覚悟?」
「彼女の抱える事情は大げさな話、この世界の今後を左右するほど重い物です。彼女の決断一つで存続か崩壊のどちらにも転ぶ可能性があります」
何やら複雑な事情を抱えてるだろうとは思っていたけど、そこまでのことなのか……。
「そして現在の彼女は丁度岐路に立たされている状態です。正直な話どちらに転ぶかはかの彼女次第ですが……彼女の親代わりをしていた私としましても、いい方向に転がってくれるのを祈るばかりですよ」
「あなたはエナのことをどこまで知ってるんですか?」
「出生から彼女の持つ特別な力まで……ほぼすべて知ってると言っても過言じゃないですね」
なるほど……そりゃエナがこの国に来るわけだ。エナにとって最後の拠り所となれるのが現在この人しかないのだろう。
「まあ君たちもこの世界の命運を左右するほどの事件に巻き込まれてるみたいですから、エナ君の事情が加わったところでどうということはないでしょうけどね」
「いや、出来ることならもうこれ以上厄介事はごめんなんですけど?」
「君は随分と正直ですね」
「まあそれが性分なんで」
ていうかこの人、俺たちが抱えてる事情をどこまで知ってるんだろう?
恐らくはエナから色々と聞いたのだと思うけど……さっき神獣の話もチラッとしたしな。
「エナ君と引き合わせる条件……というわけではないのですが、一つ君たちを優れた冒険者と見込んで、依頼したいことがあるんですよ」
「さっきラトルさんたちの話に出てきた雪山の件ですか?」
「お察しの通りです。エナ君のくれた情報を統合し私なりに考えた結果、今回の雪山の事件には神獣が関わっていると考えてます」
俺もさっき神獣が関わっているんじゃないかと思っていたけど、どうやらこの人も同じ推測を立てているらしい。
「本当はエナ君に頼んで、君の仲間であるフリルさんを連れてきてもらおうと思っていたんですが、手間が省けましたよ」
「……私?」
「そう、あなたです。エナ君の話では唯一暴走した神獣を鎮めることが出来るのですよね?」
「エナの奴、そんなことまで話したんですか?」
「ちなみに君が異世界人であり、全裸になったら無敵になることも知ってますよ?」
ちょっと待って、なんもかんも話しすぎだろ!?
「そうなのかシューイチ!?」
「えっと……まあ……」
「道理でなにかおかしいとは思っていたのよね……それにしても本当にこの世界の人間じゃないの?」
「そこを最初から説明するとちょっと長くなるんでまた今度でいいですか?」
予想だにしてなかった情報に、ラトルさんとルカさんが食いついてきた。
ていうかシオンさんはそんな荒唐無稽な話を信じてるのか?
「エナ君からその話を聞いて半信半疑でしたが、アーデンハイツにいるはずの君がわずか二日でこのクルテグラに来たのですから、それだけで信じるに値しますよ」
「まあかなり強引な方法で来ましたけどね」
「さてと……先ほどの依頼の件ですが、受けていただけるでしょうか?」
「多分知ってると思いますけど、俺たちはあと半年以内に四匹いる神獣を全て見つけ出して鎮める役割を押し付けられてますからね……そうなると受けざるを得ないんで」
「決まりですね。では今日中に国を通じてギルドへと依頼を出しておきますね」
エナを探しに来たはずなのに、なぜか神獣を鎮める方向になってしまった。
まあどの道、エナの件が片付いたら探すつもりではあったのだから、手間が省けたとみるべきか……。
「ではエナ君の部屋に案内しますから付いてきてください」
「んじゃ俺たちは先にギルドへ行って依頼の確認をしてくるか……」
「邪魔したら悪いものね。ギルドで待っているから用事が終わったらそこで合流しましょう」
「あっはい! 二人ともまた後で!」
そう言い残して、ラトルさんたちは先に部屋から出て行った。
「それじゃ行きますか」
二人を見送った後、シオンさんが手にしていたお茶を飲みをし席を立ち歩き出した。
その後に続いていくように部屋を出て廊下に沿うように歩いて行くと、ほどなくしてある部屋へと通じる扉の前までやってくる。
「エナ君、お客様を連れてきましたよ?」
ノックと共にシオンさんが部屋の主に呼びかけるも、中からは一向に返事が返ってこなかった。
「ふむ、先ほどまでいたはずなんですが……ちょっと失礼しますよ」
シオンさんが扉を開けてエナの部屋へと入っていく。
扉の隙間から部屋を覗くと、エルサイムの拠点のエナの部屋と同じように沢山の本が収められた本棚がちらりと見えた。
「すいませんが、君たちも入って来てもらってもいいですか?」
「……らしいで?」
「そんじゃお邪魔します」
シオンさんの許しが出たので、俺たちはぞろぞろとエナの部屋へと足を踏み入れていく。
ここに来るまでにシオンさんからチラッと聞いたのだが、エナはこの部屋で数年過ごしていたとのこと。
部屋を軽く観察するも、とても女の子が数年使っていたとは思えないほどこざっぱりとした部屋だった。
「えっと……エナがいないみたいですけど?」
「とりあえずこれを」
シオンさんが俺になにやら文字の掛かれた一枚の紙きれを差し出してきたので、手に取り文字を読むと一気に力が抜けてしまった。
「……あいつ」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「もしやエナさんの身に何かあったのですか?」
心配そうな面持ちのレリスにエナからのメッセージの掛かれた紙を手渡した。
「えっと……「雪山の調査に行ってきます」ですか……」
「何やエナの奴、一人で雪山に行ったんか!?」
「えっ、それって大丈夫なのかな!?」
さっきシオンさんが、エナに頼んでフリルを連れてきてもらうつもりだったみたいなことを言ってたから、恐らく……。
「これは私のミスですね……もう少しエナ君の心情を汲むべきでした……」
「フリルを連れてくる為にはどうしても俺たちと顔を会わせることになりますからね……顔を合わせづらいから一人で雪山に行ってしまったんでしょうね」
「……私のせい?」
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