無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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封印~城の地下にある違和感~

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「フルトンさんの様子がおかしい?」

 その日の夜、いつものように部屋で寝るまでの間マイヤとくだらない話をしている最中、中庭でロイから聞いたフルトンさんのことをマイヤに話しておく。

「なんでもロイが言うには、最近上の空になってることも多いし、夜中にこっそり出かけてるとか」
「今日昼間に会った時には特に変わった様子は見られなかったがな……」

 マイヤにはフルトンさんの様子が変だとは思えないらしく、私の話を聞いても首を傾げるだけだった。

「でもロイはフルトンさんと一緒に暮しているんだし、私たちじゃわからない些細な変化もわかるんじゃないかしら?」
「たしかにな……もしかしたら最近毎日のように来ているあいつらのせいかもしれないな」
「あいつら?」

 それはひょっとして、数日前に港に行った時に見たあの白いローブを来た人たちのことだろうか?

「実のところ最近、カルマ教団なる宗教団体が毎日のようにやって来ては、王に会わせてくれとしつこくてな」
「あの人たち宗教団体だったの?」
「まあな……王も女王もこの国に宗教は必要ないと言って絶対に会う気はないと言って……あの人たち?」
「あっ」

 ついうっかり口が滑ってしまった。

「ほほう? まるで見たことがあるような口ぶりだな?」
「明日も早いし私そろそろ寝るわね?」
「その前にアタシと少しお喋りしようじゃないか? なあに、姫様の態度次第ではすぐに終わる」

 結局、城を抜け出して港に行ったことがあっさりとばれてしまい、それから一時間ほどみっちり怒られることになってしまった。
 それにしても宗教団体か……たしかカルマって母から昔聞いた昔話に出てくるこの世界を滅ぼそうとした邪神の名前よね?
 そんな邪神の名前を冠した宗教団体なんて、絶対ろくなものじゃないわね。


 明けて翌日。今日は定期的に行われているシオン先生の魔法の授業がある日だ。
 先生はいつもクルテグラという国にある魔術師たちの塔というところから、転移魔法を使ってこの国まで来ているらしい。
 ちなみこの国からクルテグラまで行こうとなると、船で二週間は掛かる距離らしい。
 その二週間は掛かる距離を転移の魔法で一瞬にして飛んでくるあたり、シオン先生がいかに優れた魔術師なのかを物語っている。

「この一年でエナ君はすっかり魔法の扱いに長けてきましたね」
「シオン先生の教え方が上手ですから」
「いえいえ、天使の力も作用しているとは思いますが、エナ君の魔法の才能は持って生まれた物でしょうね」
「私も頑張れば先生みたいに転移でいろんな場所に飛んだりできますか?」
「すぐには無理ですが、このまま順調に学んでいければ近いうちに簡単な転移位なら使えるようになるでしょうね」

 それを聞いて私のやる気が一段と増した。

「今日の授業で何かわからないところはありましたか?」
「えっと……授業とは関係なく、先生に聞きたいことがあるんですけど」
「なんですか?」

 昨日マイヤから聞いたカルマ教団という存在がどうしても頭の片隅に残っていたので、外の世界の事情にも詳しい先生なら何か知ってるかもと思い、意を決して尋ねてみることにした。

「シオン先生はカルマ教団をご存知でしょうか?」
「カルマ教団ですか……」

 先生の表情から、その存在を知っているばかりか厄介な連中なのだろうということが容易に伺い知れた。
 先生でもこんな表情をすることがあるんだなぁ……。

「最近毎日のように港に来て、王様に会わせてくれーって言ってくるらしいです」
「そうなんですか……面倒くさい連中に目を付けられてしまいましたね」
「やっぱり面倒くさい宗教団体なんですか?」
「そうですねぇ……とてもじゃないですが、彼らを宗教団体と呼ぶのですら少し抵抗があるレベルですね」

 聞けば、邪神カルマによってこの世界は一度滅びという名の浄化を与えれるべきであるという破壊的思想を持ち、カルマの復活の手がかりを求め貴重な遺跡を荒らしたり、犯罪まがいの行為を平然と行うなど、一部の間で問題視されている宗教団体らしい。
 だがよほど巧妙に誤魔化しているのか、教団のそう言った側面は一般にはあまり知られておらず、世間的には認知度はそこまで高くないのだとか。

「正直言って関わり合いにならないほうがいいんですが……しかし彼等はこの国の存在に気が付いたんですね」
「先生?」
「すいません、少し緊急の用事が出来ました。今日の授業はこれで終わりにしましょう」

 そう言って立ち上がった先生が、少し急いだ様子で荷物を纏めていく。

「どうしたんですか先生?」
「ないとは思いますが念のため……もしも教団の人間が君に接触してきても絶対に相手をしてはいけませんよ? それとカルマ教団のことはあまり他人には話さないようにしてくださいね」
「はっはい……」
「急なことで申し訳ありませんが、今日のところはこれで……ではまた」

 私への別れの挨拶もそこそこに、先生は私の部屋から出て行ってしまった。
 あの先生がここまで慌てるほど、カルマ教団は危ない団体なのだろうか?
 なんだか少しばかり不安になってきてしまった。


 そして、その不安は後に現実の物となる。



「どうしたのロイ?」
「……え? ああ、ごめんなさい」

 いつも通りお城の中庭でロイと話していたが、今日は少しばかり心ここにあらずといった様子で、ボーっと何かを考えてこんでいるみたいで、会話も途切れがちだ。

「なにか悩み事でもあるの? 私で良かったら話してもいいわよ?」
「えっと……前にフルトンさんの様子がおかしいと話しましたよね? 夜中になると屋敷を抜け出していると……」
「そんな話をしてたわね……それで?」
「この前どうしても気になって、屋敷を抜け出すフルトンさんの後をこっそり付けたんですよ」

 大人しい顔して、意外と大胆なことをするなぁ。

「港で数人の白いローブを着た人たちと待ち合わせをしていたみたいで、そこから用意していた小型のボートで夜の海へと消えて行ってしまったんです」

 白いローブを着た人たち……間違いない、カルマ教団だ。

「それ以上どうすることも出来なくて、結局また屋敷まで戻ったんですけど、翌朝にはフルトンさんは何食わぬ顔で屋敷まで戻って来てました」
「滅茶苦茶怪しいわね」
「相変わらず時々心ここにあらずみたいな様子になるし、最近は仕事も滞り気味になっていて屋敷にいる皆も少し疑問に思っているんですよ」

 その話が本当なら、フルトンさんはカルマ教団と裏で通じて何か企んでるということになる。
 でもなぜフルトンさんなんだろう?
 マイヤの話から察するに、カルマ教団は父と母に用事があるみたいな話だったのに。
 もしかしたらこの国の唯一の貴族であるガスクード家に上手く取り入ることができれば、父と母に謁見することが出来るかもしれないと思っての事だろうか? それにしたって夜中にこそこそとする必要があるとも思えないけど……。

「フルトンさんは、ロイには何か言ってはこないの?」
「特には……」
「心配な気持ちもわかるけど、もしフルトンさんがあなたに何か言って来ても絶対に真面目に取り合ったらだめよ?」
「どうしてですか……?」

 どうしよう……カルマ教団のことをロイに話してもいいのかな?
 先生からはあまり他人には話すなと言われているし……でもロイもフルトンさんのことが心配だろうし……。

「フルトンさんが会っている人たちはもしかしたら、カルマ教団っていう怪しい宗教団体の人間かもしれないの」
「カルマ……教団……?」

 ロイが変な事件に巻き込まれてたりするのが嫌だったこともあり、結局私はカルマ教団についてロイに話してしまった。
 曲がりなりにもロイは私の大切な友達なのだし、何かあってからでは遅いと思ってしまった故の行動だった。

「私に魔法を教えてくれてる先生も危険な宗教団体だって言ってたし、ロイも気を付けないとダメよ?」
「ありがとうございますエナさん。しかし……カルマ教団ですか」
「どうしたの?」
「……気のせいかもしれないんですけど、初めて聞いた気がしないんですよ、カルマ教団って」

 もしかして、カルマ教団が失われているロイの記憶に関わっているんだろうか?
 出来ることならロイには記憶を取り戻してもらいたいと思ってはいるけど、先生からあの教団が危険だと聞いてしまった以上、いくら失った記憶の手がかりがあるとしても関わってほしくはない。

「ロイ、さっきも言ったけど……」
「大丈夫ですよ、カルマ教団には関わり合いにならないように注意しますから」

 そう言ってロイがニッコリと微笑む。
 いつもと変わらないロイの笑顔のはずなのに、どうしてだか私の心は不安で一杯だった。

「前にも言いましたけど、僕は記憶が戻らなくてもいいんじゃないかって思ってますからね? 昔の僕がどんな人間だったのかは知りませんが、今の僕はこの国が大好きですし僕に優しくしてくれる人たちやフルトンさん……そしてエナさんのことも大好きですから」
「ロイ……」

 この一年で回りがロイに優しくしてくれたように、ロイも優しさをもってそれに頑張って応えていることは私も知っている。
 だからきっと大丈夫よね……ロイ?

 だが私の心配をよそに、どういうわけかこの日からぱったりと港にカルマ教団たちは現れなくなり、この国は一応の落ち着きを取り戻した。
 おかげで毎日のように教団の対処に駆り出されいたマイヤも、ようやく肩の荷が下りたような表情を見せてくれた。
 フルトンさんも夜中に屋敷を抜け出すことも、様子がおかしくなったりすることもなくなったらしく、ロイもほっと胸を撫でおろしていた。
 あれほどしつこく毎日のように来ていたカルマ教団がどうしてこうもあっさり引き下がっていったのか、少しばかり疑問に思わなくもなかったけど、少しずつ近づいてくる私の八歳の誕生日への期待がそれを少しずつ忘れさせていった。


 そんな日が過ぎていき、いよいよ明日が誕生日という日……。

「明日はいよいよエナの八歳の誕生日ね」

 城の地下室で定期的に行われる、私の中にある天使の力を身体に馴染ませる儀式を終えて一息ついているところで、母が私に向けて話しかけてきた。

「エナに天使の血のことを打ち明けてから、もう一年も経ったのね……」
「あの時は突然の事で少しびっくりしました」
「明日の誕生パーティーを迎える前に、もう一つエナにこの国が抱える大事なことを一つ教えておかなくちゃね」
「もう一つの大事なこと……?」

 私の呟きに小さく頷いた母が、椅子から立ち上がり私についてくるように促した。
 儀式の部屋から出た私は、母の後に続いていく形で今まで入ったことのない地下の廊下を進んでいく。
 廊下を進んでいく度にどんどん暗くなっていき、目の間に広がる暗闇の先に何か強大な何かがうごめいているのを感じる。
 母が魔法で明かりをつけて、さらに廊下を進んでいくと大きな扉に行く手を阻まれた。
 その扉の前に立った瞬間確信した。さっきから感じている強大な何かの存在が、この扉の先にいるのだと。

「お母様……この部屋……」
「ちょっと待っててね、今カギを開けるから」

 懐から小さなカギを取り出した母が、扉の施錠を解除してゆっくりと扉を開けていく。
 扉が開いていくたびに、部屋の中から異質な魔力が漏れ出てくる。
 あまりの恐怖にその場から逃げ出しそうになったが、「大丈夫だから」という母を信じ、泣きそうになりながらも私はどうにか逃げずに母の後に続いてその部屋へと足を踏み入れた。
 部屋は随分と狭く、大きさ的には私の部屋の半分もないといった感じだったが、床や壁一面に魔力によって刻まれた術式が刻まれており、見るからに異様な光景だった。
 そして部屋の中央にはなにやら真っ黒な球体が無造作に置かれていた。

「この部屋は、邪神の力の一端を閉じ込めているこの石を封印しているの」
「邪神の力を閉じ込める石……?」

 わけが分からなかった。
 なんでそんなものがこの城の地下にあるのかもわからないし、どうして母がこれを私に見せてきたのかもわからなかった。

「この国に生まれた王族は、この邪神の力を閉じ込めた石を封印し続けるのが役目なの」
「え?」
「エナに天使の力の使い方を教えているのは、私がいなくなった後もこの石の封印を維持し続けるためなの」

 母のその言葉を聞いた瞬間、色々なことに納得が言ってしまった。
 城の地下に来るたびに感じていた異様な不安感の正体はこれだったのだ。

「本当ならこんなことにエナを巻き込みたくはなかったけど……ごめんなさいエナ」

 そう言って母が本当に悲しそうな顔で謝って来たけれど、私はというと何を言っていいのかもわからず唯々茫然としてしまっていた。
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