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鉄槌~正義の名のもとに~
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あまりあの封印の部屋の扉を開けているのは良くないとのことで、実質3分もしないうちに母は扉を閉めて私を連れて地下を出て王室へと戻ってきた。
私はというと未だに理解が追いついておらず、頭の中で様々な感情が渦巻いていた。
なぜこの国の地下に邪神カルマの力の一端を封じたと言われる石が置かれているのかもわからないし、そしてなぜそれを私たちの一族が封じ続けなければならないのかもわからない。
「色々聞きたいことがあるでしょう? 気になったことを全部聞いてもいいのよ? エナにはその権利があるもの」
母はそう言ってくれるものの、あまりの事態に頭が全く働かず何を聞いたらいいのかもわからなかった。
ただ一つ……そんな状態でもどうしても聞いておきたいことが一つだけ……。
「どうして……あの部屋のことを今このタイミングで私に教えたのですか……?」
「そうね……本当はもっと遅く……それこそエナが完全に天使の力を扱えるようになってから打ち明けるつもりだった……でもそうは言っていられない事情が出来てしまったの」
「事情?」
「もしかしたらもうエナも知ってるかもしれないけど、最近までこの国にカルマ教団なる宗教団体がなんども私たちと話をしたいと言って来ていました」
その話自体はマイヤからも聞いてるし、カルマ教団がどんな集団なのかもシオン先生から聞いている。
厄介な連中に目を付けられたという先生の言葉から、詳しい話を聞かなくても大体の事情は察することができた。
「恐らくだけど、彼らはこの国の地下にある邪神の力の一端を封じたあの石を狙っているのだと結論付けたわ」
「……もしもあの石がその人たちの手に渡ったらどうなってしまうのですか?」
「わからないわ……でも確実に良くないことが起こるのはわかっているの」
先生が言うにはカルマ教団は邪神カルマを復活させて、この世界に滅びという名の浄化を与えるのが目的だとか……それが本当ならこの城の地下にあるあの石が教団の手に渡ったら、邪神が復活してしまうのかもしれない。
もしもそうなってしまったら、この国はどうなってしまうのだろう?
父は? 母は? マイヤは? ロイは?
皆……私の大好きな人たちはいなくなってしまうかもしれない。
そんなのは……耐えられない。
「お母様、私はどうしたらいいのですか?」
「そうね……私が元気なうちは私の天使の力でこの国を護ることはできるけど、いつかこの力を扱えなくなる日がきっとくる……だからその時までにエナは自分の力を完全にコントロールできるようになってほしい」
「でもそれじゃ間に合わないかもしれないじゃないですか!」
いつかじゃない、私は今役に立ちたいのだ。
「エナの気持ちはよくわかるわ……でもこの天使の力は焦ったところですぐには使えるようにはならないの」
「でも私だってこの一年間、ずっと休まず天使の力を身体に馴染ませる儀式を続けてきたわ!」
「確かにエナはこの一年で魔法と天使の力を上手く扱えるようになった……けどまだ全然足りないの。さっきも言ったけど天使の力は一年くらい儀式を続けてきたからと言って簡単に使えるような物じゃないのよ?」
諭すような母の言い方を前に、私は何も言えなくなって俯いてしまった。
そんな私の様子を見かねたのか、母が椅子から立ち上がり私の元へとゆっくり歩いてきて、優しく包み込むように抱きしめてくれた。
「ありがとうエナ……あなたは誰よりも優しい子。いつだってあなたは誰かの役に立ちたいと思っている……まだ子供だと思っていたけど、エナの心の中にはすでに自分の理想とする王の姿がはっきりと見えているのね」
「お母様……?」
「今はその気持ちだけで充分……その気持ちはいつかあなたが大人になるその時まで、絶やさないようにしていてほしい……それがあなたに出来ることよ」
言いながら母が私の頭を優しく撫でてくれる。
ああ……この温もりはずるい。私は何も言えなくなってしまう。
結局それ以上私はなにも聞くことが出来ず、少し重たい気分を引きずるように自分の部屋へと戻った。
憔悴した私の様子を心配してくれたマイヤだったが、私は今日はもう疲れているからと言って逃げるように布団に潜り込んだ。
少し冷たい態度を取ってしまった……明日ちゃんと謝らないと……。
ああ……でも明日は私の誕生日パーティーだし、マイヤとゆっくり話す時間が取れないかも……。
ほんの数日前は誕生日が楽しみで仕方なかったのに、今はその反対に私の気分は落ち込んでしまっていた。
どうしてこうなったんだろう? 何が悪かったのだろう?
好きで溢れた日常だったはずなのに、いつの間にか不穏な影が紛れ込んでしまっていた。
退屈な日常に刺激がほしいと心の奥底で常に思っていたけども……こんなことを望んでいたわけではない。
ほんの少しの冒険が出来るようなそんな小さな刺激が欲しかっただけなのに、どうして邪神とか宗教団体とかそんなものばかりが出てくるのだろう?
マイヤがいつか言っていた「そうなったらもうおしまいなんだ」という言葉を私は噛み締めながら、眠りに付いていった……。
明けて翌日、私がどんなに重い気分を引きずっていたとしても、そんなことはおかまなしに朝日は昇り一日の始まりを告げてくる。
きちんと寝たおかげか、昨日の寝る前の重たい気分は幾分か楽になっていた。
どうせ私がうじうじと色々悩んだところでどうすることも出来ないのだから、それなら今日の誕生日を目いっぱい楽しめばいいのだ!
難しいことはその後好きなだけ考えればいい!
「エナー? 起きてるかー?」
そんな風に気持ちを新たにしていると、部屋がノックされてマイヤが入って来た。
「おはようマイヤ」
「おっ? 今日はちゃんと起きているな? そんじゃわかってると思うけど、今日は忙しい一日になるだろうから、早速朝食を食べてすぐに準備をしていくぞ」
「うん! ……あの、マイヤ?」
「なんだ? 話があるなら手短に頼むぞ? 今日は忙しいからな」
「えっと……まあ後でいいわ」
「そうか? それじゃあ行くぞ」
昨日のことを謝ろうと思ったけど、そのくらいのことでいちいち時間を取らせるものどうかと思って、結局私は謝ることを先延ばしにしてしまった。
今日という日が無事に終われば、夜にマイヤと話す時間などいくらでもあるはずだ……だから謝るのはその時でいいだろう。
朝食を食べた私は、急いでこの誕生日の為に特注で作ってもらったドレスに身を包み、沢山の騎士が厳重に警備する馬車に引かれながら町中をパレードしていく。
民衆の全てが口々に私へ誕生日のお祝いの言葉を送ってくれるのを、笑顔で手を振ることで返していく。
パレードが終わった後は、お城の中庭に集まった民衆たちを前にして今日の為に一生懸命考えたスピーチを行う。
もちろん中庭にこの国の全ての住人が収まるわけがないので、何人かは城の外に溢れていしまっているが、シオン先生が私の声を広範囲に届けるマジックアイテムを用意していたおかげで、無事に国民全員に私の声を届けることが出来た。
ちなみにシオン先生は、どうしても外せない用事があるとのことで今日は来ていない。
まあその話自体は数日前に聞かされていたし、先んじて誕生日プレゼントももらっているので何の問題もない。
その後は少しの休憩を挟んだ後、城内の多目的ホールに国の要人たちを招き立食パーティーを行う。
主役である私がパーティー開始の挨拶を終えると、集まった要人たちが各々に談笑を始めて、会場は瞬く間に活気に満ちていった。
「やっと一息つける……」
まさに朝から目が回るような忙しさだった。
この立食パーティーは私も好きなように食べてもいいことになっているので、この日の為に学んでいた礼節の作法をフル活用しつつ、上品に美味しいご馳走を味わっていく。
「お疲れ様です、エナ王女」
「フルトンさん?」
フライドチキンを上品に食べている私の元に、ロイを引き連れたフルトンさんが近づいてきた。
一瞬だけ身構えそうになったけども、ロイからフルトンさんはもう元に戻っていると聞いていたので、いつものように接しようと心がける。
「パーティーは楽しんでいただけているでしょうか?」
「はい、本日は私だけでなく、ロイもお招きいただきありがとうございます」
「ありがとうございます」
ロイとフルトンさんが深々と私に頭を下げてきた。
フルトンさんはともかく、ロイにまでこんな態度を取られると少しばかり変な感じがしてしまう。
「ロイ、私は王様に挨拶をしてくるから、エナ王女の相手を頼めるかな?」
「はい、わかりましたフルトンさん」
「ではエナ王女、また後程……ああそうそう!」
私から踵を返し父のところへ向かおうとしたフルトンさんが立ち止まり、首から上だけをこちらに向けて口を開いた。
「本日はエナ王女のために素敵な催しを企画しておりますので、楽しみにしていてください」
「催し?」
そう返した私に、笑顔で返してきたフルトンさんが再び父の元へと歩いて行った。
「催しだって……ロイは何か聞いてる?」
「いえ、何も……」
二人で首を傾げあいつつも、ロイと談笑しつつ沢山のごちそうに舌鼓を打っていく。
忙しい一日だったけども、今こうしてロイと話しているのは楽しかった。
ロイは数日前に私のことを大好きだと言ってくれた。
その言葉はきっと私が思っているほど大した重さはないのかもしれなかったけど、少なくとも私の心に響く言葉だった。
父や母から言われるのとは違う、異性の口から出たその言葉……昔マイヤに「ロイだけはない」みたいなことを言ったけれども、もしかしたら私は……。
「ねえロイ……」
その時、パーティー会場に全ての始まりであり……そしてすべての終わりを告げる音が響き渡った。
パリンッとガラスの割れた音が響き渡る。
その音に反応し会場にいる皆が会話を止めて、その音がした場所に振り替える。
そこには胸を抑えながらうずくまっている父の姿があった。
「おっ……お父様!?」
思わず叫びながら父の元へ駆け寄る。
苦しそうに呻きながら倒れる父の傍らには、青ざめた顔をしつつ父の名を呼びかける母と、そんな二人を冷たい目で見降ろすフルトンさんがいた。
「あなた……バウル! しっかりしてバウル!!」
「お父様!!」
覗き込んだ父の顔は土気色になっており、明らかに異常事態だというのが一目でわかる。
倒れた父の傍には割れたワイングラス……まさかワインに毒を盛られた……?
母がそんなことをするわけがないし、ならいったい誰がそんなことを……!?
「王よ……少しばかり油断しすぎではありませんかな?」
「フル……トン……なぜ?」
その声に反応してフルトンさんを見上げると、目から光を失ったフルトンさんが不気味に微笑んでいた。
見ているだけで背筋が寒くなるその笑顔を前に、私の心は恐怖に支配されて何も言えなくなってしまう。
「なぜって? そんなのは決まっている! この国が……王が邪神の力を使いこの世界を混沌に陥れようとしているからだ!!」
「な……に……?」
「私は知っているぞ! この国の地下には邪神の力を封じた石があり、この国の王族は代々その石の封印を解くために研究を続けていることを!!」
後半の言葉の意味は全く理解できなかったが、どうしてフルトンさんがそのことを知っているのだろう?
そのことはこの国の王族しか知らないトップシークレットだと、母も昨日言っていたのに!?
「そんな奴らにこの国は任せておけぬ! 王がなぜこの国によそ者を入れさせないか……それは邪神の力を封じた石の情報を他の国に漏らすわけにはいかないからだ!」
「フルトンさん、あなたさっきから何を言っているの!?」
「女王……いや邪神の手先め! 私は全てを知っているのだ! 貴様も王と同罪だ!! 今日この場で正義の鉄槌を下してやる!!」
「ぎゃああああああ!!!!」
フルトンさんがそう叫んだ直後、突如悲鳴が会場内に響き渡った。
何事かと思いそちらに注視すると、腹に剣を突き刺されたこの国の要人が口から血を吐き出しながら倒れ絶命した。
「きゃああああ!!!??」
「なっなんだこれ……!?」
「ククク……フルトン様の許しが出たぞ! 同志たちよ、今こそ革命の時だ!!」
要人を剣で突き刺し殺した男がそんなことを叫ぶと、会場の入り口から沢山の白いローブを着た人たちがなだれ込んできた。
私はというと未だに理解が追いついておらず、頭の中で様々な感情が渦巻いていた。
なぜこの国の地下に邪神カルマの力の一端を封じたと言われる石が置かれているのかもわからないし、そしてなぜそれを私たちの一族が封じ続けなければならないのかもわからない。
「色々聞きたいことがあるでしょう? 気になったことを全部聞いてもいいのよ? エナにはその権利があるもの」
母はそう言ってくれるものの、あまりの事態に頭が全く働かず何を聞いたらいいのかもわからなかった。
ただ一つ……そんな状態でもどうしても聞いておきたいことが一つだけ……。
「どうして……あの部屋のことを今このタイミングで私に教えたのですか……?」
「そうね……本当はもっと遅く……それこそエナが完全に天使の力を扱えるようになってから打ち明けるつもりだった……でもそうは言っていられない事情が出来てしまったの」
「事情?」
「もしかしたらもうエナも知ってるかもしれないけど、最近までこの国にカルマ教団なる宗教団体がなんども私たちと話をしたいと言って来ていました」
その話自体はマイヤからも聞いてるし、カルマ教団がどんな集団なのかもシオン先生から聞いている。
厄介な連中に目を付けられたという先生の言葉から、詳しい話を聞かなくても大体の事情は察することができた。
「恐らくだけど、彼らはこの国の地下にある邪神の力の一端を封じたあの石を狙っているのだと結論付けたわ」
「……もしもあの石がその人たちの手に渡ったらどうなってしまうのですか?」
「わからないわ……でも確実に良くないことが起こるのはわかっているの」
先生が言うにはカルマ教団は邪神カルマを復活させて、この世界に滅びという名の浄化を与えるのが目的だとか……それが本当ならこの城の地下にあるあの石が教団の手に渡ったら、邪神が復活してしまうのかもしれない。
もしもそうなってしまったら、この国はどうなってしまうのだろう?
父は? 母は? マイヤは? ロイは?
皆……私の大好きな人たちはいなくなってしまうかもしれない。
そんなのは……耐えられない。
「お母様、私はどうしたらいいのですか?」
「そうね……私が元気なうちは私の天使の力でこの国を護ることはできるけど、いつかこの力を扱えなくなる日がきっとくる……だからその時までにエナは自分の力を完全にコントロールできるようになってほしい」
「でもそれじゃ間に合わないかもしれないじゃないですか!」
いつかじゃない、私は今役に立ちたいのだ。
「エナの気持ちはよくわかるわ……でもこの天使の力は焦ったところですぐには使えるようにはならないの」
「でも私だってこの一年間、ずっと休まず天使の力を身体に馴染ませる儀式を続けてきたわ!」
「確かにエナはこの一年で魔法と天使の力を上手く扱えるようになった……けどまだ全然足りないの。さっきも言ったけど天使の力は一年くらい儀式を続けてきたからと言って簡単に使えるような物じゃないのよ?」
諭すような母の言い方を前に、私は何も言えなくなって俯いてしまった。
そんな私の様子を見かねたのか、母が椅子から立ち上がり私の元へとゆっくり歩いてきて、優しく包み込むように抱きしめてくれた。
「ありがとうエナ……あなたは誰よりも優しい子。いつだってあなたは誰かの役に立ちたいと思っている……まだ子供だと思っていたけど、エナの心の中にはすでに自分の理想とする王の姿がはっきりと見えているのね」
「お母様……?」
「今はその気持ちだけで充分……その気持ちはいつかあなたが大人になるその時まで、絶やさないようにしていてほしい……それがあなたに出来ることよ」
言いながら母が私の頭を優しく撫でてくれる。
ああ……この温もりはずるい。私は何も言えなくなってしまう。
結局それ以上私はなにも聞くことが出来ず、少し重たい気分を引きずるように自分の部屋へと戻った。
憔悴した私の様子を心配してくれたマイヤだったが、私は今日はもう疲れているからと言って逃げるように布団に潜り込んだ。
少し冷たい態度を取ってしまった……明日ちゃんと謝らないと……。
ああ……でも明日は私の誕生日パーティーだし、マイヤとゆっくり話す時間が取れないかも……。
ほんの数日前は誕生日が楽しみで仕方なかったのに、今はその反対に私の気分は落ち込んでしまっていた。
どうしてこうなったんだろう? 何が悪かったのだろう?
好きで溢れた日常だったはずなのに、いつの間にか不穏な影が紛れ込んでしまっていた。
退屈な日常に刺激がほしいと心の奥底で常に思っていたけども……こんなことを望んでいたわけではない。
ほんの少しの冒険が出来るようなそんな小さな刺激が欲しかっただけなのに、どうして邪神とか宗教団体とかそんなものばかりが出てくるのだろう?
マイヤがいつか言っていた「そうなったらもうおしまいなんだ」という言葉を私は噛み締めながら、眠りに付いていった……。
明けて翌日、私がどんなに重い気分を引きずっていたとしても、そんなことはおかまなしに朝日は昇り一日の始まりを告げてくる。
きちんと寝たおかげか、昨日の寝る前の重たい気分は幾分か楽になっていた。
どうせ私がうじうじと色々悩んだところでどうすることも出来ないのだから、それなら今日の誕生日を目いっぱい楽しめばいいのだ!
難しいことはその後好きなだけ考えればいい!
「エナー? 起きてるかー?」
そんな風に気持ちを新たにしていると、部屋がノックされてマイヤが入って来た。
「おはようマイヤ」
「おっ? 今日はちゃんと起きているな? そんじゃわかってると思うけど、今日は忙しい一日になるだろうから、早速朝食を食べてすぐに準備をしていくぞ」
「うん! ……あの、マイヤ?」
「なんだ? 話があるなら手短に頼むぞ? 今日は忙しいからな」
「えっと……まあ後でいいわ」
「そうか? それじゃあ行くぞ」
昨日のことを謝ろうと思ったけど、そのくらいのことでいちいち時間を取らせるものどうかと思って、結局私は謝ることを先延ばしにしてしまった。
今日という日が無事に終われば、夜にマイヤと話す時間などいくらでもあるはずだ……だから謝るのはその時でいいだろう。
朝食を食べた私は、急いでこの誕生日の為に特注で作ってもらったドレスに身を包み、沢山の騎士が厳重に警備する馬車に引かれながら町中をパレードしていく。
民衆の全てが口々に私へ誕生日のお祝いの言葉を送ってくれるのを、笑顔で手を振ることで返していく。
パレードが終わった後は、お城の中庭に集まった民衆たちを前にして今日の為に一生懸命考えたスピーチを行う。
もちろん中庭にこの国の全ての住人が収まるわけがないので、何人かは城の外に溢れていしまっているが、シオン先生が私の声を広範囲に届けるマジックアイテムを用意していたおかげで、無事に国民全員に私の声を届けることが出来た。
ちなみにシオン先生は、どうしても外せない用事があるとのことで今日は来ていない。
まあその話自体は数日前に聞かされていたし、先んじて誕生日プレゼントももらっているので何の問題もない。
その後は少しの休憩を挟んだ後、城内の多目的ホールに国の要人たちを招き立食パーティーを行う。
主役である私がパーティー開始の挨拶を終えると、集まった要人たちが各々に談笑を始めて、会場は瞬く間に活気に満ちていった。
「やっと一息つける……」
まさに朝から目が回るような忙しさだった。
この立食パーティーは私も好きなように食べてもいいことになっているので、この日の為に学んでいた礼節の作法をフル活用しつつ、上品に美味しいご馳走を味わっていく。
「お疲れ様です、エナ王女」
「フルトンさん?」
フライドチキンを上品に食べている私の元に、ロイを引き連れたフルトンさんが近づいてきた。
一瞬だけ身構えそうになったけども、ロイからフルトンさんはもう元に戻っていると聞いていたので、いつものように接しようと心がける。
「パーティーは楽しんでいただけているでしょうか?」
「はい、本日は私だけでなく、ロイもお招きいただきありがとうございます」
「ありがとうございます」
ロイとフルトンさんが深々と私に頭を下げてきた。
フルトンさんはともかく、ロイにまでこんな態度を取られると少しばかり変な感じがしてしまう。
「ロイ、私は王様に挨拶をしてくるから、エナ王女の相手を頼めるかな?」
「はい、わかりましたフルトンさん」
「ではエナ王女、また後程……ああそうそう!」
私から踵を返し父のところへ向かおうとしたフルトンさんが立ち止まり、首から上だけをこちらに向けて口を開いた。
「本日はエナ王女のために素敵な催しを企画しておりますので、楽しみにしていてください」
「催し?」
そう返した私に、笑顔で返してきたフルトンさんが再び父の元へと歩いて行った。
「催しだって……ロイは何か聞いてる?」
「いえ、何も……」
二人で首を傾げあいつつも、ロイと談笑しつつ沢山のごちそうに舌鼓を打っていく。
忙しい一日だったけども、今こうしてロイと話しているのは楽しかった。
ロイは数日前に私のことを大好きだと言ってくれた。
その言葉はきっと私が思っているほど大した重さはないのかもしれなかったけど、少なくとも私の心に響く言葉だった。
父や母から言われるのとは違う、異性の口から出たその言葉……昔マイヤに「ロイだけはない」みたいなことを言ったけれども、もしかしたら私は……。
「ねえロイ……」
その時、パーティー会場に全ての始まりであり……そしてすべての終わりを告げる音が響き渡った。
パリンッとガラスの割れた音が響き渡る。
その音に反応し会場にいる皆が会話を止めて、その音がした場所に振り替える。
そこには胸を抑えながらうずくまっている父の姿があった。
「おっ……お父様!?」
思わず叫びながら父の元へ駆け寄る。
苦しそうに呻きながら倒れる父の傍らには、青ざめた顔をしつつ父の名を呼びかける母と、そんな二人を冷たい目で見降ろすフルトンさんがいた。
「あなた……バウル! しっかりしてバウル!!」
「お父様!!」
覗き込んだ父の顔は土気色になっており、明らかに異常事態だというのが一目でわかる。
倒れた父の傍には割れたワイングラス……まさかワインに毒を盛られた……?
母がそんなことをするわけがないし、ならいったい誰がそんなことを……!?
「王よ……少しばかり油断しすぎではありませんかな?」
「フル……トン……なぜ?」
その声に反応してフルトンさんを見上げると、目から光を失ったフルトンさんが不気味に微笑んでいた。
見ているだけで背筋が寒くなるその笑顔を前に、私の心は恐怖に支配されて何も言えなくなってしまう。
「なぜって? そんなのは決まっている! この国が……王が邪神の力を使いこの世界を混沌に陥れようとしているからだ!!」
「な……に……?」
「私は知っているぞ! この国の地下には邪神の力を封じた石があり、この国の王族は代々その石の封印を解くために研究を続けていることを!!」
後半の言葉の意味は全く理解できなかったが、どうしてフルトンさんがそのことを知っているのだろう?
そのことはこの国の王族しか知らないトップシークレットだと、母も昨日言っていたのに!?
「そんな奴らにこの国は任せておけぬ! 王がなぜこの国によそ者を入れさせないか……それは邪神の力を封じた石の情報を他の国に漏らすわけにはいかないからだ!」
「フルトンさん、あなたさっきから何を言っているの!?」
「女王……いや邪神の手先め! 私は全てを知っているのだ! 貴様も王と同罪だ!! 今日この場で正義の鉄槌を下してやる!!」
「ぎゃああああああ!!!!」
フルトンさんがそう叫んだ直後、突如悲鳴が会場内に響き渡った。
何事かと思いそちらに注視すると、腹に剣を突き刺されたこの国の要人が口から血を吐き出しながら倒れ絶命した。
「きゃああああ!!!??」
「なっなんだこれ……!?」
「ククク……フルトン様の許しが出たぞ! 同志たちよ、今こそ革命の時だ!!」
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