アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

オガタカイ

文字の大きさ
63 / 121
23歳・白露 ー愛するひとー

2.ノンカフェイン・ノン目覚まし。-1-

しおりを挟む





「……………」


「……………」


謎の沈黙。
なんでこんなに気まずいんだろう?とお互いに、ピリピリと少し張り詰めた空気のなか、どちらが先に口を開くのか待っている。


「…………あっ」

思い出したように夕人が声を上げる。

「………???」


「…ごめん、よくよく考えたら、俺コーヒー飲まないんだった。ちょっとダメで。
紅茶か、ハーブティーしかない…どれがいい?」


母さんが送ってきたやつなんだけど、とこれまた高級そうな缶ケースの蓋をパカ、と開けて、中のドリップタイプティーバッグを速生に見せる。


「あ、じゃ、俺、自分でやるよ?」

(ハーブティーなんて、飲むことないし……どれが何なのか違いもわからないし……)


速生はそう言ってキッチンのコンロ前に立つ夕人に近づいた。

ハーブティーの缶ケースを受け取る。
北欧のメーカーもののようで、可愛らしい動物のイラストが入っている。


なんだかある物全てが一々お洒落で、ここに住む夕人の印象が一層、特別感を増していく。



「……夕人、なんでコーヒーだめなの?」


横並びのシステムキッチン。
隣に立ったまま、速生は問いかける。


「え?あ、ああ……。
胃にっていうかーー…あと、夜寝れなくなっちゃうじゃん?俺、朝、ただでさえ起きれないのにさ。
……遅刻予防だよ」


「はは、お子ちゃまゆうと。」



「うっ、うるさいなぁ。
けど、これからは大丈夫だよな。
速生が起こしてくれーーー……」


何も考えずに口から出た言葉に、思わずはっとして黙る夕人。


「………………………」







「ーーー…毎朝,起こして良いの?直接?
それ、の…………返事、ってこと?」


「………………」



速生が夕人を見つめる。

潤んだ瞳で、嬉しそうに、だけどまだ期待はできない、と少しだけ恐る恐る、うかがうように、自制しながら。






「…………………」



ーーーやばい……俺、何言ってんだよ……。
いまこんな流れになるとか…ただでさえこの雰囲気、もう居た堪れないのに……

“はあ?何言ってんの意味わからない”って適当に返そうかな…


赤面しつつ動揺しながらちら、と視線を斜め上に向けてみると、
すぐ至近距離でじっと見下ろす速生の真剣そうな表情と、強い視線が刺さる。


早く、早く、返事してよ、YESだよな?そうだろ?と目が訴えている。


ーーーうわ、重っ。いま誤魔化したら、さすがにやばいかも……?ど、どうしよ………


そのあまりにも熱のこもるまっすぐな眼差しに捕らえられてしまい、
首から上が火照って仕方なくて。






ーーーこいつ、なんかまた背伸びた?こんな近くで上から見下ろしてくんなよな……感じ悪い……
ていうか、こんなにガッチリしてたっけ。肩幅とか、俺と違いすぎじゃん、何食ったらそんなんなるんだよ。
てか、なんか、圧がすごいんだけど?
口が滑っちゃっただけなのに……もはや怖いよ、その目、一緒に住まないと監禁するぞ?って脅されてるみたいだよ。
こういう時こそ得意の営業スマイルかましてみろよ、そんなギラギラした目でストレートにきくんじゃなくってさぁ、もっと、なんかこう……話術とか、あるじゃん…?…速生……、バカ速生………。


「…………………ーーー…」




ーーーていうか、そもそもまず決めることあるだろ?
家賃は折半?名義はだれ?間取りは?家具家電買い直す?
………場所は?
俺の学校と速生の会社のあいだにしない?

そしたら2人とも毎朝、同じくらいの時間に家を出られるよーーー…?





いろいろな言葉と想いが飛び交い忙しい頭の中、冷静な判断力など持ち合わせておらず。

もう、あれこれとややこしいことを考えるのは、しんどくなってきて。


『もういいや』、と、とにかく思いのまま、顔を赤らめたままーーー…




夕人は“こくん”、とただ首を縦に、小さく頷いた。





 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ミルクと砂糖は?

もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...