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23歳・白露 ー愛しいひとたちー
2.緊張のドライブ -3-
しおりを挟む『ーーー……キキィッ』
車は静かに停車する。
「ーーお客さんがた、着きましたよ。」
速生の声に夕人はずっと伏せていた目を上げる。
門扉、塀の前に横付けで停められた車。
ーーバタンッ ガチャ…
先に運転席から出た速生が後部座席のドアを開け、夕人に“降りれる?”と目配せする。
うん、とだけ答え、高級車の赤く艶々しい光るステップからゆっくり足を下ろした。
変わっていない……綺麗に整備された道路、歩道から続く掃き掃除の行き届いた庭、赤い身を付けた南天の木。
よく目にする名前の知らない小さな野鳥が、実を啄み、パタパタと飛び立っていく。
「ま、運転テクニックはまずまずね…褒めて遣わすわ、ご苦労。
ーーーハヤ、車庫入れ、私がやっとくからいいわよ。」
早苗はそう言うと速生から、キーを受け取る。
「こう見えてありとあらゆる営業車を運転させられてるんで…おかげさまで。
ーーー社畜舐めんなよ?」
助手席に置いた夕人のボストンバッグとブリーフケースを降ろし……紙袋を抱え、黙ったままの夕人へと目線を向ける。
心配そうに、複雑そうに見つめる。
「……………」
見慣れたはずの……だけど、実に5年ぶりに直接目にするその景色を見た瞬間、何とも言えない感情が胸のうちに湧き上がる。
ーーー懐かしい。
15歳の、あの雪の日。
ぼろぼろに傷付いた心をどうにか引き摺って、やっとのことで見つけた一筋の光、安息の場所。
この一軒家へと転居してきたあの日のことを思い出す。
「ハヤ、お父さん明日少しだけ帰って来られるみたいだから。
大体のことは伝えてあるから、大丈夫とは思うけど。またその時、二人で。
顔見せてあげなさいね」
「ああ……。ありがとう」
「じゃ、ほら。
お待ちかねよ。……頑張ってきな、息子」
その早苗の声に、速生は振り返り目線はーーー…相模家の玄関へ。
「お帰りなさい。夕人……」
「母さん。
ーーーーただいま。」
見慣れた玄関ドアの前。
夕人の母、朝美が立っていた。
速生は紙袋を手に抱え、
「ご無沙汰してます……」と深く頭を下げた。
一歩、二歩。夕人に近付き、相模家の門内へと足を踏み入れる。
「久しぶりね、速生くん。
ほら、じゃあ上がってーー…。
ーーー夕人。お父さん、中で待ってるわ」
「うん……。速生、行こう?」
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