アイオライト・カンヴァス 【下】【前編完結済み】

オガタカイ

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23歳・白露 ー愛しいひとたちー

2.緊張のドライブ -2-

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「……ぐす、っあはは、ごめんね。自分で言ってて何言ってんのかわかんなくなってきちゃった……もう~年取ると涙脆くてだめねぇ~~。
ま、とにかくね?夕人くん。ハヤと同じで
あなたは私の大事な大事なか~~~わいい息子だから。何かあったらいつでも、何だって言って来なさい、ってこと‼︎
…ほら、”お母さん”って呼んでみなさいっ!」


まるで狭い車内で大団円を迎えるかのごとく、明るく締めくくるような早苗の言葉。



夕人は潤んだ瞳でぎゅ、っと瞬きし視線を上げる。


「ありがとう、ございます……。
……お、……っ…おかあ…さん……」


「……きゃあぁぁぁ~っっ~!もう、最高‼︎」


またガバッとハグされる。


「おっおい母さん…落ち着けよ……。気持ちはわかるけど」

(照れ照れの夕人可愛すぎぃ。俺もハグしたい…)

そんな風に思いながら速生は運転席から声をかける。



「だってぇ!夕人くんっあなた可愛すぎよぉ~~‼︎母である前に私、あなたのファンだからね夕人くん‼︎
あぁ~っイケメンアーティストの息子から早くサイン貰わなきゃ……仕事場の人に自慢したぁ~い‼︎
うっふふふ…はぁ、楽しみ……♡」

「…………」


ーーさすが親子、この二人そっくりだ……。


夕人はそんな風に思いながら苦笑いしつつ、ふと、窓の外の流れる景色に目をやる。



「あ…っ…………ここ……」


ガードレールの向こう。
見覚えのある景色に、夕人は少し身を乗り出し窓の外へじっと目を凝らす。そこに広がるのは……

青空と太陽の光が反射してきらめく、大きな河川、美しい水辺。





”夏の風景画”探し。



照りつける日差しの下、遠い夏の日。

父のデジタルカメラを手にーー…ただ身を任せるように、速生に連れられ訪れた、大きな河辺を見下ろす歩道橋。

たくさん歩いた…知らない街並み。

すべてがまるで初めてで、楽しくて、嬉しくて。ひたすらシャッターを切り続けた。

隣で自分のことをただ、優しく、慈しむように見つめている、彼からのあたたかい眼差しを感じながら。
目に焼き付けて離したくなかった、淡くて、美しい、あの頃の記憶が蘇る。

 


「……………」

ルームミラー越しに目が合う。


何も言わなくても。
お互いがなんとなくだけど、理解して、受け入れ合っている。
必要とし合っている。

今でも。
あのとき、あの頃と……結局、何も変わってはいないんだね。





ーーー好きだよ。速生。




込み上げてくる想いと涙を堪えながら、目で伝えてみた。





伝わるかな?


こんなにも、溢れて仕方ないこの身体だけでは受け止めきれないたくさんの、君への気持ち。



君だけでなく、君を取り巻く愛しいすべてへと向かうこのあたたかな想い。



受け取ってよ。


まだまだ恥ずかしくて、とてもじゃないけど、口には出せそうに無いけど……。






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