しえるのショートショート

杏栞しえる

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7月『甘すぎるパフェ』

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「ここのカフェ、結構有名だよね」
 駅から少し歩くと飲食店が並んでいた。
「そうだね……」
「試しに入ってみる?」
 意地悪そうな笑顔が目の前に来る。
「いいよ?」
 彼は意外そうに私を見て、もう一度カフェの方を眺めた。
「宮瀬、生クリーム苦手なんじゃなかったっけ」
「食べようと思えば食べれるしっ」
 ここで素直に引き下がっておけば良かったのに、私は可愛い女子にでもなりたがっていたのだろうか。

「じゃあ俺チョコバナナパフェで」
「私はこれを」
 指で示したのは一番甘くないであろういちごパフェだ。これならなんとかなる……はずだった。
「お待たせしました」
 少しふくよかな店員さんが運んできたのは、果実が少ししか乗っていないピンクのかたまり――
「宮瀬、あーん」
 ふざけて生クリームをすくってくる彼にそっぽを向いた。しかし、目に入ったのは幸せそうにパフェを分け合う同年代のカップル。悔しくて、女の子の甘い声もこれ以上聞きたくなかった。
 めげずに一口含む。アイスコーヒーで流し込みながらそれを繰り返した。彼の方を伺うと、とろけそうな顔をしてチョコアイスを口に運んでいる。この中に砂糖がどれくらい入っているのだろうか。パフェを見ながらふとそんな事を思ってみる。
「みーやーせっ」
 彼の声に顔を上げるとスマホが待ち構えていた。やっと撮れただの呑気なことを言いながら。
「写真ならこの前も撮ったじゃない」
「えー、全然笑ってなかったし」
「口角はあげたんだけど」
 真剣にフォルダを見返す彼を見て少しおかしくなってくる。その瞬間。
「隙あり!」
 彼はまた笑顔の私をゲットしたようだ。
「俺、いちごパフェと迷ったんだよね。宮瀬の美味しそうだなぁ」
 尻尾でも生えているのかと言いたくなるくらい、この人は犬だ。
「少し食べる?」
 ほら、耳がピンとなった。
「食べる食べる!」
 彼の方にパフェを移動させると当然のようにチョコバナナパフェがやってきた。
「うわっ結構甘いんだな。そっちの方が宮瀬には食べやすいかもよ」
 半信半疑でチョコアイスを口に運んだ。
「本当だ」
「でしょう?」
 この甘さなら好きかも。そう思っていると、彼がこちらを向いた。
「それの方が好きなんでしょ。食べていいよ」
「う、うん。ありがと」
 本当は彼女とスイーツ巡り、したかったんでしょとは言えない。ちらっと見えた検索履歴に『スイーツ 苦手 彼女』とあったからだ。
「次、どこ行く?」
 彼の声に我にかえる。
「あっ」
「ん? どうしたの?」
「なんでもない」
 彼の検索履歴に『甘すぎないスイーツ』と残されていた――
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