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8月『大きいスイカ』
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「伊織ちゃんもこっちにおいでよ~」
さっきの誘いに乗っておけばよかった、心底そう思う。私はふっと息を吐くと、足元に広がる石の中からとりわけ小さいのを取って投げた。
「別に、ここの方が涼しいだろうし」
我ながらなんて愛想のない返事だっただろうか。サークルの親睦会も兼ねたキャンプはキラキラ女子の独壇場で、そもそも私にはハードルが高すぎたのだ。もう一度声をかけてくれないかな、普段は苦手なおさげ頭を見つめる。その隣には焼けた肌の青年がいて、二人は楽しそうにおしゃべりしていた。まぁ気づく訳もないよなと自嘲気味に膝を抱える。
ふと気配を感じて顔を上げると、初めて見る顔があった。紙皿に不格好なスイカが並んでいる。
「あ、あの、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」
「ううん」
「よかったらスイカ食べて下さい」
そういうと私の隣に腰を下ろした。
「ありがとう。でも、あなたの分は?」
「僕はさっき食べましたから」
さっきよりも静かな時間が流れている気がした。隣に人がいると種の出し方さえも忘れてしまう。ぎこちなく皿に顔を近づけた。私が食べ終わると彼は皿を捨てに行ってくれて、また一人になってしまった。川の方にいる集団に彼を探すが、見つからない。とうとう私は腰を上げた。
「た、田坂さん」
遠慮がちな声ですぐにわかった。
「さっきはありがとう。スイカって結構甘いんだね」
「よ、良かった。権堂君が選んだんだ」
「権堂君って?」
彼が指した方を見るとおさげ頭が隣に見えた。
「あぁ、あの人ね」
いかにも体育会系って感じ。心の中で付け足す。
「たくましくて格好良いですよね」
好きな人を語るみたいな彼の口調に思わず笑ってしまう。
「乙女か!」
そう言うと彼は驚くほど優しく笑った。
「だって、単行本七冊分くらいの重さのスイカを二個軽々持ってたんですよ」
必死に言う彼がまた微笑ましい。
「そういえば、名前聞いてなかったね」
「上本です。上本陽斗」
「素敵な名前」
自然と溢れた言葉で彼は恥ずかしそうに礼を言う。
「ねぇ、もっとスイカ食べたい」
「す、すぐに持ってきます!」
急いで駆けていく彼の背中は決してたくましくはないけれど、私には頼もしく見えた。たとえこの後目の前でスイカを落としたとしても。
さっきの誘いに乗っておけばよかった、心底そう思う。私はふっと息を吐くと、足元に広がる石の中からとりわけ小さいのを取って投げた。
「別に、ここの方が涼しいだろうし」
我ながらなんて愛想のない返事だっただろうか。サークルの親睦会も兼ねたキャンプはキラキラ女子の独壇場で、そもそも私にはハードルが高すぎたのだ。もう一度声をかけてくれないかな、普段は苦手なおさげ頭を見つめる。その隣には焼けた肌の青年がいて、二人は楽しそうにおしゃべりしていた。まぁ気づく訳もないよなと自嘲気味に膝を抱える。
ふと気配を感じて顔を上げると、初めて見る顔があった。紙皿に不格好なスイカが並んでいる。
「あ、あの、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」
「ううん」
「よかったらスイカ食べて下さい」
そういうと私の隣に腰を下ろした。
「ありがとう。でも、あなたの分は?」
「僕はさっき食べましたから」
さっきよりも静かな時間が流れている気がした。隣に人がいると種の出し方さえも忘れてしまう。ぎこちなく皿に顔を近づけた。私が食べ終わると彼は皿を捨てに行ってくれて、また一人になってしまった。川の方にいる集団に彼を探すが、見つからない。とうとう私は腰を上げた。
「た、田坂さん」
遠慮がちな声ですぐにわかった。
「さっきはありがとう。スイカって結構甘いんだね」
「よ、良かった。権堂君が選んだんだ」
「権堂君って?」
彼が指した方を見るとおさげ頭が隣に見えた。
「あぁ、あの人ね」
いかにも体育会系って感じ。心の中で付け足す。
「たくましくて格好良いですよね」
好きな人を語るみたいな彼の口調に思わず笑ってしまう。
「乙女か!」
そう言うと彼は驚くほど優しく笑った。
「だって、単行本七冊分くらいの重さのスイカを二個軽々持ってたんですよ」
必死に言う彼がまた微笑ましい。
「そういえば、名前聞いてなかったね」
「上本です。上本陽斗」
「素敵な名前」
自然と溢れた言葉で彼は恥ずかしそうに礼を言う。
「ねぇ、もっとスイカ食べたい」
「す、すぐに持ってきます!」
急いで駆けていく彼の背中は決してたくましくはないけれど、私には頼もしく見えた。たとえこの後目の前でスイカを落としたとしても。
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