黒竜使いの少女ナタリア

杏栞しえる

文字の大きさ
6 / 36

温かな食卓

しおりを挟む
 プルルッ、ポッポー。プルルッ、ポッポー。正午を告げるふくろう時計だ。
「おや、もうお昼かい。エデン様、先ほどは無礼な態度を失礼いたしました。よろしければ、お昼を食べていきませんか」
 祖母はすっかりいつものトーンに戻っていた。
「僕の方こそ不勉強ですみません、いただきます」
「私、お腹ペコペコだ」
「グおん!」
「昨日の夜シチューを作ったので、それでも良いでしょうか」
 私たちは同時にうなずいて笑った。
「いただきます」
 フォリンの分も木の皿によそわれている。熱々のシチューに悪戦苦闘しているようだった。
「おいしい!」
 顔に手をあてながら緩む頬を抑えた。
「こんなにおいしいシチューは初めてです」
 エデンさんも柔らかい笑顔をする。
「王宮ではまだ冷たいものしか出ないのですか?」
「そうなんです。毒味が行われて、三十分以上経過しないと食べられないんです」
「ええ! じゃあ、あの紅茶は? どうして熱々だったの?」
「あの時は自分で淹れたからね。それに君が来ることは一部の人しか知らなかったんだ。毒味なんてしていたら大ごとになってしまうだろう」
「そうだったんだ」
 スプーンで丁寧に集められていくシチューをフォリンが羨ましそうに見つめる中、私はふいに手を止めた。
「そういえば、最近人さらいが出るって聞いたわ」
「そうなのか?」
「ええ、お母さんから聞いたの」
「そうとは知らず、昨晩は遅く帰してしまってすまなかった」
「いいえ、この通り何事もなく帰れたわ」
 問題ないと両手を広げて見せる。
「ナタリア、あなたにはフォリンがいるからいいけれど、私はエデン様のほうが心配だよ」
「僕は大丈夫です。男なので」
 彼は自信たっぷりに答える。彼の剣術の腕はかなり有名な話だ。
「シチュー、ごちそうさまでした。これから彼女と出かけたいところがあるのですが、ナタリアさんをお借りしてもよろしいでしょうか」
「もちろんです。話したいことも沢山あるでしょう」
 私はエデンさんと一緒にいていいことが、何よりも嬉しかった。
「エデンさんと出かけるなんて、子供のころのお祭り以来だわ!」
 彼は苦笑いしながらも、既に上着を羽織っていた。
「どこに行くの?」
「まだ内緒」
 温かな気持ちで外へ飛び出すと、フォリンも飛んでくる。
 元の大きさに戻ったフォリンは、ぎこちなく手を繋いで歩く私たちの後ろを静かについてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編) 王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編) 平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

処理中です...