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もう一人の王子
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そこからの日々は暇さえあれば、弓の特訓だった。持っている姿は様になるのに、一向に的に当たる気配がない。私は今日も城内の森で矢を放っていた。見守るフォリンと剣を振るうエデンさんも近くにいる。私の放った矢はことごとく土に埋もれていた。
「もう少し、肩の力を抜いてごらん」
見かねたエデンさんが声をかけてくれる。
「的を見ると、緊張しちゃって」
的といっても木にハンカチをぶら下げただけなのだけど。
「ちょっと借りるよ」
そう言って私の弓を受け取ると、矢をつがえた。横から見る彼の目は真剣そのもので、手を離した瞬間、ピシっと弦のしなる音がした。
「す、すごい……」
彼の放った矢は見事にハンカチを射止める。
「じゃあ、次はナタリア、君の番だ」
エデンさんに持ち方を教わり、改めて弓をかまえた。ひらひらと風で揺れるハンカチに意識を集中させる。そのままの勢いで放った矢は、数センチずれて幹に刺さった。
「は、初めて当たった!」
ハイタッチしたのも束の間、エデンさんが笑顔で言う。
「次はフォリンに乗りながらだね!」
ガクッとうなだれた私にフォリンが近づいてくる。早く飛びたくてうずうずしているようだった。
次の日もその次の日も、私たちは練習を重ねた。フォリンに乗りながらの弓は想像以上に困難を極め、肩は悲鳴を上げていた。エデンさんは涼しい顔で、剣を振るい、時々兄のシアンさんと手合わせもしている。エデンさんが先に城に戻ると、珍しくシアンさんが一人でやってきた。
「やあ、ナタリア。調子はどうかな?」
彼の甘い香水が鼻をくすぐった。私は弓を持つ手を休め、彼の方を向く。
「地上だと少しずつ当たるようになってきたんですが、フォリンに乗ってだとまだまだで」
透けた金色の髪の彼はだんだんと距離をつめてきた。恥ずかしくて視線を下に落とすが、シアンさんの冷たい手が私の顎をそっと持ち上げて離さない。そのまま彼の顔が近づいてきていた。目のやり場に困って逸らすと、遠くから足音がした。手が離れていく――
「何してんだ、兄さん」
エデンさんが不満そうに睨む。シアンさんは何もしてないという風に両手を上げて見せた。私の方を見て確認してくるが、何も言えずただ首を横に振るばかりだった。
次の日からシアンさんはほとんど毎日練習に付き合ってくれるようになった。二人はどんどん剣術の腕を上げていく。私はフォリンに乗りながら弓をかまえるので精いっぱいだった。
「いったん休憩にしよう」
シアンさんの声に賛同して、木陰で休むことになった。私は切り株の一つに腰かける。シアンさんは茶菓子でも持ってこようと言うと城の方へ向かった。エデンさんが私の元へ来る。
「なぁ、ナタリア。兄さんに何か言われたのか?」
仁王立ちの彼の口調は厳しかった。
「う、ううん。何も言われてないよ」
たしかに言われてはなかった。
「じゃあ、何かされた?」
その問いに間が空く。エデンさんはしゃがみ込んで私の目を見た。
「何かされたんだろ」
「本当に何もされてないよ。エデンさんが来てくれたから……」
彼は自分のダークブラウンの髪をくしゃっとかき乱すと、力強く膝に手をあてた。
「兄さんは昔からナタリアのことが好きなんだ」
吐き捨てられたセリフに私は顔を上げる。
「え……」
「本当鈍感なんだな……」
「で、でもシアンさんには……」
エデンさんの手が私の髪をすく。
「そう、兄さんには婚約者がいる」
優しい笑顔が頭に浮かんだ。頭の中で綺麗な黄金の髪が風に靡く。その時、森の奥から葉が擦れる音がした。
「もう少し、肩の力を抜いてごらん」
見かねたエデンさんが声をかけてくれる。
「的を見ると、緊張しちゃって」
的といっても木にハンカチをぶら下げただけなのだけど。
「ちょっと借りるよ」
そう言って私の弓を受け取ると、矢をつがえた。横から見る彼の目は真剣そのもので、手を離した瞬間、ピシっと弦のしなる音がした。
「す、すごい……」
彼の放った矢は見事にハンカチを射止める。
「じゃあ、次はナタリア、君の番だ」
エデンさんに持ち方を教わり、改めて弓をかまえた。ひらひらと風で揺れるハンカチに意識を集中させる。そのままの勢いで放った矢は、数センチずれて幹に刺さった。
「は、初めて当たった!」
ハイタッチしたのも束の間、エデンさんが笑顔で言う。
「次はフォリンに乗りながらだね!」
ガクッとうなだれた私にフォリンが近づいてくる。早く飛びたくてうずうずしているようだった。
次の日もその次の日も、私たちは練習を重ねた。フォリンに乗りながらの弓は想像以上に困難を極め、肩は悲鳴を上げていた。エデンさんは涼しい顔で、剣を振るい、時々兄のシアンさんと手合わせもしている。エデンさんが先に城に戻ると、珍しくシアンさんが一人でやってきた。
「やあ、ナタリア。調子はどうかな?」
彼の甘い香水が鼻をくすぐった。私は弓を持つ手を休め、彼の方を向く。
「地上だと少しずつ当たるようになってきたんですが、フォリンに乗ってだとまだまだで」
透けた金色の髪の彼はだんだんと距離をつめてきた。恥ずかしくて視線を下に落とすが、シアンさんの冷たい手が私の顎をそっと持ち上げて離さない。そのまま彼の顔が近づいてきていた。目のやり場に困って逸らすと、遠くから足音がした。手が離れていく――
「何してんだ、兄さん」
エデンさんが不満そうに睨む。シアンさんは何もしてないという風に両手を上げて見せた。私の方を見て確認してくるが、何も言えずただ首を横に振るばかりだった。
次の日からシアンさんはほとんど毎日練習に付き合ってくれるようになった。二人はどんどん剣術の腕を上げていく。私はフォリンに乗りながら弓をかまえるので精いっぱいだった。
「いったん休憩にしよう」
シアンさんの声に賛同して、木陰で休むことになった。私は切り株の一つに腰かける。シアンさんは茶菓子でも持ってこようと言うと城の方へ向かった。エデンさんが私の元へ来る。
「なぁ、ナタリア。兄さんに何か言われたのか?」
仁王立ちの彼の口調は厳しかった。
「う、ううん。何も言われてないよ」
たしかに言われてはなかった。
「じゃあ、何かされた?」
その問いに間が空く。エデンさんはしゃがみ込んで私の目を見た。
「何かされたんだろ」
「本当に何もされてないよ。エデンさんが来てくれたから……」
彼は自分のダークブラウンの髪をくしゃっとかき乱すと、力強く膝に手をあてた。
「兄さんは昔からナタリアのことが好きなんだ」
吐き捨てられたセリフに私は顔を上げる。
「え……」
「本当鈍感なんだな……」
「で、でもシアンさんには……」
エデンさんの手が私の髪をすく。
「そう、兄さんには婚約者がいる」
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