光の守護者は風を知るー最後の街の物語ー

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風が消えた日

作戦会議

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陽が外の様子を伺うように顔を出し始めた頃、僕たちは外西の遺跡へと向かうために西側の門へと向かっていた。
僕が初めて荒野を見たのは修行を始めてから三年後だった。
あの日、ロゼッタに連れられて初めて監視塔に昇った。
獣型の魔物や人型の魔物が、僕たちの方へと向かって突進してくる光景は、幼かった僕にとって世界の終わりを見ているに等しいくらいの恐怖を感じた。
逃げ出したい……気持ち悪い……。全身震え、声も出なかった。
そのときもロゼッタは言ってくれた。
――私がレイを護ります。だから怖がらなくて大丈夫。――と。
 その時のことを思い出すと、不思議と怖くはなかった。
僕の尊敬する師、ロゼッタが傍にいる。それだけで勇気が湧いてくるのだ。

少し歩くとあっという間に西門に到着した。
緊急事態ということもあって、"クォーツの民"で結成されている兵士団が西側に集まり、忙しなく動いていた。
辺りを見渡していると、僕たちに気づいた兵士が近づいてきた。
胸元には階級を表すブローチがついている。
階級は五段階あり、宝石の種類で決まっている。
彼がしているブローチは水晶で一番下の階級だ。
ちなみに僕がしているのは真ん中の階級のエメラルドで、ロゼッタは一番上の階級でルビーのブローチだ。
「ロゼッタ様!お待ちしておりました。こちらへ!ご案内します。」
ロゼッタに敬礼をしながら早口にそう言うと、一際大きいテントの方へと歩き始めた。
僕のことはきっと見えていなかったのだろう、視界の端にも入れなかったぞ、コイツ。
ロゼッタに対しても礼儀がなってないやつだという感想は置いておいて、何も言わずに彼の後ろを歩き始めたので、僕も慌てて続いた。

 案内されたテントの前には、ブロンドの髪をひとつに結び、切れ長の目が特徴の副官アメリアが待っていた。
「アメリア副官!ロゼッタ様とお弟子をお連れしました。」
「おお、ヒーランありがとう。持ち場に戻れ、私が変わろう。」
「はっ!」
名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、認知されていたことに感激したのか、鼻の穴を象のように広げて、ニヤニヤしながら彼は持ち場に戻っていった。
「ロゼッタ様、レイ、中へどうぞ。皆様いらっしゃいます。」
「ありがとう、アメリア。……レイ、行きましょう。」
「はい、師匠。」
背筋を伸ばして、堂々と、ロゼッタの後に続いてテントの中に入っていった。

 
テントの中は作戦室と呼ぶに相応しいほど広く、仮眠するためのベッドまで設置してある。
中央に大きな円卓ととオールドテイルを中心とした地図が広げてある。
円卓の椅子には先ほどロゼッタに報告へきた兵士長のヴァン、ロベルト、結界の維持をしていて、この街の代表ともいえる老齢の魔法使いレイモンドが座っていた。
「やっときたかぃ、ロゼッタ女史と坊主。」
「遅くなってごめんなさいね。ちょっと準備に手間取ってしまったの。」
ロゼッタは息をするように嘘をつく。
まぁ僕の心の準備に手間取ったといえばそうなのかもしれない。
 「まぁいいじゃないか。ロゼッタちゃん、おチビくん、とりあえず座りなさい……飴ちゃん食べるかい?」
「いいえ、レイモンド。飴はいりません。」
 ロゼッタがロベルトの隣に座ったのを確認して、壁際にあった座り心地の悪い簡易椅子に僕も腰を下ろす。
「美味しい飴ちゃんなのに。……とりあえず、状況から説明いいかね?」
「あぁ、じいさん頼む。」
「それじゃ。……報告時と変わらず、"陰の人"はそのまま遺跡内部に留まり続けておる。それは儂がずっと視ているから間違いない。内側から攻撃するでもなく、様子を伺ってるようじゃ。」
「魔物はどうでしょう、まだ集まっているのですか?」
「魔物は遺跡周辺を囲むようにしておるよ。数は、ヴァンかお主に報告に行ったときの倍はいるかもしれぬな。」
「かなり増えましたね。」
「はっ。ロゼッタ女史たちが優雅に準備してたからかもなぁ?」
 皮肉った言い方をしてきたロベルトは、殺気を振りまいていて、周りの全てを破壊しそうなほどの勢いだ。
「優雅に……というほどゆっくりしていたわけではないと思いますが?……フランのことで殺気立っているのはわかりますが、私とレイに当たらないでください。貴方の感情で周りを振り回すのはどうかと思いますけど?」
丁寧に言っているが、ロゼッタもほんの少しの苛立ちを混ぜて、牽制している。
正直、ふたりとも怖い。距離を取りたい。
「……まぁまぁ落ち着きなさいよ、ふたりとも。空気になってるヴァンくんが怖くて漏らしちゃったらどうするの。」
「……ははっ。レイモンド様、勘弁してくださいよ。」
巻き込まれたヴァンは口元が引きつっていた。
僕に振られなくてよかったと内心ほっとした。
実はレイモンドとはあまり面識がない。行事で何度か挨拶した程度なのだ。
レイモンドはふぉっふぉっと笑っていたが、サファイアのように澄んだ瞳が、一瞬僕を見たような気がした。
……僕おチビくんだから、漏らしたと思われてる?
だがそんな感じの視線ではなかった。こう、覚悟を問われているようなそんな感じだ。
「まぁとりあえず、今後の予定を話していこうか。この後予定通りロゼッタちゃんとおチビくん、……あとロベルトくんの三人で外西の遺跡に出発して貰って、陰の人を討伐するのが目標ね。陰の人の戦闘力は未知数だから無理はしないように。ちみ達がいなくなったら困る人が沢山いるんだから。一度撤退することも視野に入れて、戦闘するように。フランちゃんに関してはその場の判断に任せる感じで。できれば連れ帰ってきてね。……わかったかい?」
レイモンドのわかったかいは命令と同義だ。
ロゼッタが立ち上がったのに続いて僕も立ち上がる。
 ロベルトは自分も行けるとは思っていなかったのか、少し驚いた顔をしていたがすぐに目元をぎらつかせて立ち上がる。
 「承知いたしました。ロゼッタの名において弟子と共に必ず任を遂行いたします。」
「……我が失態を挽回する機会をくれたこと感謝いたします。ロベルトの名において任を遂行し、必ず弟子フランを連れ帰ります。」
ふたりが同時にお辞儀をするのをみて、僕も同じようにした。
 レイモンドはゆっくりと立ち上がり、僕たちを見据える。
 先ほどとは別人なんじゃないかと思うほど、威厳に溢れた強者の圧に恐怖を感じ、思わず下を向いてしまう。
「貴殿らの活躍、ここからしかと拝見する。オールドテイルはレイモンドが必ずや護り通す。この地に住む"クォーツの民"としての責務、しかと果たそうぞ。ロゼッタたちはしばし待機。準備が整い次第ヴァンが報告する。以上。」
レイモンドの宣誓で会議は終わった。
レイモンドは僕たちにお守りじゃよと言って防御魔法を施してくれた。
目に見えない何かが、体を覆うように張り付いているような感覚があったが、直ぐにその違和感はなくなった。
「レイモンド、ありがとう。それでは私たちは外に出ましょう。」
レイモンドとヴァンに見送られながら、僕たちはテントを後にする。
準備ができれば門の外へと出発だ。
不安でいっぱいなのは変わらないが、ロベルトがいるというのはとても心強い。
レイモンドの施してくれた防御魔法がある。
少しだけ勇気が湧いてきて、拳ぎゅっと握りしめた。
 
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