アリス 観察者《オブザーバー》の弟子

御魂

文字の大きさ
8 / 22
全ての始まり

8. この世界、第二の日本、そして飯

しおりを挟む
 無理もない。まったくの異世界に来たと持ったら、自衛隊やら防衛省やら戦闘糧食という言葉が男の口からでてきたのである、びっくりもする。



「どういうこと? ここは地球じゃないのよね?」



「あーそうだ、今この国で呼ばれているこの惑星の名は【セア】、さっき言ったはずだが。そして俺が籍を置いて、さらに今いるこの魔杖の森を領土にしているのは、ここに転生してきた日本人が作った第二の故郷であり、国である、【第二日本国】だよ。お、いい感じになってきたな、上げるか。あっ、あちち」



 またまた驚愕しているアリスをよそに十分に湯煎したレトルトを開けていく。アリスは気づかなかったが、鍋に入っていたパウチは四つ。内二つはアリスは見たことがあった。いや、日本人なら忘れれはずがない。レンジで温めてもよし、湯煎しても良しの日本人の主食、“ご飯のパック”である。アリスの細胞一つ一つがご飯の味を覚えていたのだろうか、龍がパックを開けると、ご飯という知識だけで食べた記憶がないアリスでも脳がとろけるレベルのご飯の香りが漂ってくる。



(駄目だ、一気に情報が入ってきてパンクする、でもなんだろう? ものすごい久しぶりにご飯を見た気がする!)



「さて、適当に貰ってきたからこっちの中身が分からんがいいか……」



「ちょっと待って!」



「なんでしょう?」



「その前に一口だけ! ご飯のまま食べさせて! お願い!」



「お、おう」



 意外なアリスの要望に少しびっくりした龍だったが、要望通りにご飯のパックとスプーンを渡した。



「すまんがスプーンしかない」



「じゅ、十分!」



 口からよだれがこぼれそうなのを必死に抑え、湯気を上げつやつやになっている。それを一口分スプーンで掬うとゆっくりと口の前へ持っていく。すると本来日本人の多くは対して気にはしないだろう、ご飯の匂いを嗅いだ瞬間! アリスはすぐさまそれを口に運んだ。



「……!」



(おいひい! ご飯だよこれえ! ちゃんとしたご飯だよこれえ!)



 普段は感じることはないだろうご飯の触感、勘だ時の甘み香りがアリスの脳天を直撃する。



「おーい、アリスさん? アーリースさーん!」



「な、にゃにい?」



アリスの顔は久しぶり? に食べたご飯の味に満面の笑みである……、顔の輪郭が少々崩れているようにも見えるが。



(すごい顔が歪んでらっしゃる……)



「別に二口目行くのは良いけどもだ、とりあえずおかずも食べません? ほら栄養的にも効率的にも早く食べれますし、明日早いって俺言ったよね? 明日になれば炊き立てのご飯食べるから!」



「じゃあ、はい……」



「あ、はい」



 龍の提案にこれ以上ないスピードでご飯パックを差し出したアリスに少しうろたえたが、すぐにパウチの中身を流し込もうとする。



「持ってろよ? そのまま出すから」



(何が出てくるのかな……)



 アリスは少し不安に思うがその思いは直ぐに吹き飛んだ。



 その流れてくるおかずはこれまた日本人なら誰もが知っている料理! 日本のおふくろの味! “肉じゃが”であった。



 ただ、今度は龍がパウチから全部出るや否や、アリスは目にも止まらぬ速さで食らいつき始めた。



「うお! はや!」



 今日何度目であろうか、またも龍は驚く。



 数秒、ご飯にかけられた肉じゃがをご飯と一緒に一心不乱に駆け込むと、ぴたりと止まった。



 自分の分を作り、食べようかとしていた龍をそれを見て止まる。



「ん? アリスさん? どうしました? つっかえた?」



「……ひい」



「はい?」



「……おいひいよう……。凄い、すんごいおいひいよう」



 アリスは口いっぱいのご飯をもごもごさせながら大粒の涙を流していた。



「そ、そうすか。そりゃあ、よござんした」



(もう反応するのも、返答するのも疲れた……)



 龍はアリスのそばに蓋を開けた水筒をそっと置くと、自分の分を速やかに食べ始めた。



(羞恥の涙と、悲しみの涙、そして感動の涙の3コンボいただきました)



 無表情のまま食べる龍と感涙の顔で食べるアリスの異世界での初めての食事は淡々と終わっていく。



「っぷはー! 食べたー! まさか異世界で白米と肉じゃが食べれる思わなかったー! この世界の先人の日本人に感謝―!」



 食べ終えるたアリスは、それまでのテンションがうそのように回復した。



「じゃあ、そろそろ寝ますよー」



「えー!? まだ眠くないー!」



(……こいつ。まじか……、さっきのテンションの方が幾分かマシだぞ。)



「いいかい? アリスさん? 君も現代人ならこの時計読めるよね?」



 もう怒るのも疲れた龍は、懐中時計の蓋を開けて見せた。



「えーとお、うーん? 数字は読めないけど、針の位置的に多分! 21時過ぎ!」



 疲れてきたのか行方不明のテンションになってきたアリスは時計の時刻を読み上げた。



「その通り! 現代人は野宿やキャンプをあんまりしないと聞いたことがあるが、そとで寝るときは基本! 朝早く動く必要があるので早く寝ます! さっさと動く!」



「えー!? まだ眠くな…ふぁあ」



 アリスは思いっきり大きい欠伸をかました。



「ほれ言わんこっちゃない。ちょっとだけ待ってな。今、テント立ててやっから」



 龍はカバンから組み立て式の小さいテントを取り出すと、広げて組み立て始める。そして、草がどけられ、平らになっていた場所に広げ始めた。



 本来なら「なんでそんなテントがそのバックから出てくるんだよ!?」という突っ込みがアリスがあるはずだが、眠気でうとうとしているアリスにそんな疑問を抱く余裕も喋る力も残っていないと思われていた。



 テントが完成するまでは……。



 数分後、テントを見たアリスの一言目は——



「これに寝ろと?」



 だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...