Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 牢獄】

《第2週 水曜日 夜》

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意識せずにいられなかった。
動かない左の薬指小指、カバーリングしてても薄っすらわかる痕とか、夥しい腕の傷痕とか、ロッカールームで見てしまったピアスとか、殴られたような痣とか。

飯野さんや大石先生や小曽川さんが言っていた意味もよくわかった。
ずっと意識して注視していたことも、欲情していたことも全部見抜かれて、わかってて弄ばれてたこと。
その上で振られたこと。
正直めちゃくちゃ腹が立った。でも今はひどく落ち込んでいる。喉の奥に何か塊が詰まっているかのように息が苦しい。
でも、もっと先生とは話がしたい、先生のことが知りたい。

人を食った態度、反面、一歩どこかで引いているような接し方、畏怖を感じる底の知れなさ。違和感。
脳内でずっと危険を示す警告音が鳴っていた。
それらと、酷薄そうな薄い唇、口元をあまり動かさない笑い方、何処か夢を見ているような目、ふらっと消えてしまいそうな雰囲気を、単純にきれいだと思う気持ちと、抱きたい、触りたいという欲望がぶつかりあって、気持ちが乱されてしまう。

やっぱりおれは自分の欲求とか感情は出してはいけない。
欲情と好意の区別ついてないバカが人並みに誰かを想うなんてできないんだと改めてよくわかった。

実習の間は自分の目で確かめたいことや知りたい事が沢山ありすぎて夢中だったからよかった。
終わったら急に寂寥感で胸がいっぱいになって、先生といるのが辛くて、早く独りになりたかった。
試験や専科のために一旦暫く休んでいたジム通いを再開すべく、一旦帰宅してジムに行き再開手続きをとった。
今日だけで2km泳いで、10km走って、ストレッチとサーキットトレーニングを2周。とにかく他の利用者の人と接触せずに、何も考えないで、怪我だけはしないように筋肉の状態を意識して時間をかけて集中して行なった。
しかし全て終えてシャワーブースでぼんやりしていると、再び昼間の遣り取りを思い出してしまう。

『先生は、先生をやっていない時間、藤川玲という名前のいち個人としての時間、何をしているんですか』
『それを知って、長谷くんはどうするの』

どうもしない。只々知りたい。
振られたからって、知ったからって、どうにもならないことはわかってる。
おれもあの体をめちゃくちゃに抱きたい。先生がどんなことを望んでいるのか知りたい。
昨日から服も着替えてなかったし、一晩で謎に痣だらけになってるし、わけがわからない。
おれの想像もつかないようなめちゃくちゃな生活とかプレイしているんだろうとは思うけど。
でも、変に詮索して嫌われたくない。明日からどう振る舞おう。

考えながらシャワーブースを出たところで声をかけられた。
時々、お仲間と認識されてこうやって声掛けされることもあるのだけれど、残念ながらおれは好きになった相手しか興味が持てない。
性欲の発散だけなら対価で解決できる相手以上は必要ない。
お断りして手早く着替えて外に出た。

家に帰り着く頃にはもう日付も変わりそうな時間になっていた。
豆腐でも適当に味付けしてレンジアップして食べるくらいにしないと。

先生は今夜、誰に会って、どんなことをされているんだろう。
何処で眠るんだろう、いや、今夜は寝れるのかな。
先生、おれのところに帰ってきてくれたらいいのに。
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