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【2020/05 野火】
《第3週 金曜日 夜》⑩
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「いやもう、ほんとですよ。たった2週間でこんな振り回されるなんて思ってませんでした」
「なんだよ、高校の時の話に比べたらまだマイルドなんじゃないの?」
ちょっとチクリと言うと、すぐにやり返された。言うんじゃなかった。そもそも先生やってるような人に駆け引きとか言葉で一泡吹かせようったってうまくいくわけがない。引きつった笑顔のまま固まっていると、先生のお母さんがおれの顔を見て心配そうに訊く。
「長谷くん、高校でなんかひどい目に遭ったの?」
「あ、いえ、特に言うほどのことじゃないんですけど…」
スルーしようとするも、先生がその横で意地悪く笑っている。
「ふーん、まあ、言いたくないならまあいいけどね。じゃ、報告は以上なんで、おなかもいっぱいだし帰って休もうかな。長谷も一緒に乗ってくだろ?」
「あ、はい。おうちまでご一緒します」
そこで先生のお母さんがおれをじっと見て、ぼそっと一言つぶやいた。
「へえ、長谷くんはお持ち帰りされる側なのね」
羞恥で一気に首から上が熱くなり、紅潮した。せっかく来る前にキレイにしてきたのにまた一気に汗が吹き出す。
このあと先生のとこ行って、お泊りで何するかなんて、そりゃあ想像に難くないだろうし、実際そうなるんだろうけど、ご家族にそれを知られてる状態って…別にいい大人同士がすることだし、咎められてるわけじゃないんだからいいんだけど、でも。
もしかしてこれ、さっき「なんでセックスとか同棲とかはよくてインスタはだめなんですか」って言ったとき先生が「やめてよ人の親の前でセックスとか言うの」って言い返すとこも先生のお母さんにきっちり聞こえてて、そのお返しだったりして…。言うんじゃなかった。
「そう、すぐホイホイついてきちゃうんだから。懲りないなあ長谷は」
先生は引き続きニヤニヤ意地悪く笑い、席を立って身支度を始めた。おれも席を立ってジャケットを羽織って荷物をまとめる。
おれが先に通路を抜けて玄関で靴を履いている間、先生はアプリでタクシーを手配しながら通路でお母さんと会話していた。何やらおれのことを話している。
「でも、たった2週間で随分仲良くなったのね、結構年離れてるのに。長谷くんのお父様の葬儀のときは別に話したこととかなかったんでしょ?」
「うん。てかさ、それ逆だよ、年が近くないからこそ話しやすかったんだよね。長谷ちょっと抜けてるけど優しいし、仕事熱心だしイイやつだよ」
なにげに褒めてくれている。どうしよう、嬉しい。
「あんまり泣かせるようなことしちゃダメよ、真面目にお付き合いするつもりなら大事になさい。せっかくご縁があって出会えたんだから。てかもうせっかくなんだしフラフラしてないで…」
「はいはい、わかったわかった、がんばりますって」
せっかくお母さんがいいこと言ってくれているのに、先生は照れくさいのかめんどくさいのか、投げやりな生返事で会話を強制終了した。
おれが靴を履き終えて廊下に出てエレベーターのボタンを押して待っていると、先生は爪先で靴を引っ掛けて、さっさと手で扉を閉めて出てきた。
「はぁ、もう、お説教始まると長いんだから」
苦笑いしているけど、心底嫌なわけじゃないというのは表情と雰囲気でわかる。
「先生のこと、本当に大事にされてたんですね。いいなあ、お母さんと仲良くて」
「まあねえ。でも、こうなるまで長かったよ、結構。おれはお母さんのこと勝手に怖がってたし、お母さんもおれのことお父さんとかハルくんとのこともあって、モヤモヤした気持ちで育ててたと思うよ」
先生のお母さんがそう思ってたように、先生も親御さんに対して、ああすればよかった、こうすればよかったと思ってることもやっぱりあるんだろうか。
「なんだよ、高校の時の話に比べたらまだマイルドなんじゃないの?」
ちょっとチクリと言うと、すぐにやり返された。言うんじゃなかった。そもそも先生やってるような人に駆け引きとか言葉で一泡吹かせようったってうまくいくわけがない。引きつった笑顔のまま固まっていると、先生のお母さんがおれの顔を見て心配そうに訊く。
「長谷くん、高校でなんかひどい目に遭ったの?」
「あ、いえ、特に言うほどのことじゃないんですけど…」
スルーしようとするも、先生がその横で意地悪く笑っている。
「ふーん、まあ、言いたくないならまあいいけどね。じゃ、報告は以上なんで、おなかもいっぱいだし帰って休もうかな。長谷も一緒に乗ってくだろ?」
「あ、はい。おうちまでご一緒します」
そこで先生のお母さんがおれをじっと見て、ぼそっと一言つぶやいた。
「へえ、長谷くんはお持ち帰りされる側なのね」
羞恥で一気に首から上が熱くなり、紅潮した。せっかく来る前にキレイにしてきたのにまた一気に汗が吹き出す。
このあと先生のとこ行って、お泊りで何するかなんて、そりゃあ想像に難くないだろうし、実際そうなるんだろうけど、ご家族にそれを知られてる状態って…別にいい大人同士がすることだし、咎められてるわけじゃないんだからいいんだけど、でも。
もしかしてこれ、さっき「なんでセックスとか同棲とかはよくてインスタはだめなんですか」って言ったとき先生が「やめてよ人の親の前でセックスとか言うの」って言い返すとこも先生のお母さんにきっちり聞こえてて、そのお返しだったりして…。言うんじゃなかった。
「そう、すぐホイホイついてきちゃうんだから。懲りないなあ長谷は」
先生は引き続きニヤニヤ意地悪く笑い、席を立って身支度を始めた。おれも席を立ってジャケットを羽織って荷物をまとめる。
おれが先に通路を抜けて玄関で靴を履いている間、先生はアプリでタクシーを手配しながら通路でお母さんと会話していた。何やらおれのことを話している。
「でも、たった2週間で随分仲良くなったのね、結構年離れてるのに。長谷くんのお父様の葬儀のときは別に話したこととかなかったんでしょ?」
「うん。てかさ、それ逆だよ、年が近くないからこそ話しやすかったんだよね。長谷ちょっと抜けてるけど優しいし、仕事熱心だしイイやつだよ」
なにげに褒めてくれている。どうしよう、嬉しい。
「あんまり泣かせるようなことしちゃダメよ、真面目にお付き合いするつもりなら大事になさい。せっかくご縁があって出会えたんだから。てかもうせっかくなんだしフラフラしてないで…」
「はいはい、わかったわかった、がんばりますって」
せっかくお母さんがいいこと言ってくれているのに、先生は照れくさいのかめんどくさいのか、投げやりな生返事で会話を強制終了した。
おれが靴を履き終えて廊下に出てエレベーターのボタンを押して待っていると、先生は爪先で靴を引っ掛けて、さっさと手で扉を閉めて出てきた。
「はぁ、もう、お説教始まると長いんだから」
苦笑いしているけど、心底嫌なわけじゃないというのは表情と雰囲気でわかる。
「先生のこと、本当に大事にされてたんですね。いいなあ、お母さんと仲良くて」
「まあねえ。でも、こうなるまで長かったよ、結構。おれはお母さんのこと勝手に怖がってたし、お母さんもおれのことお父さんとかハルくんとのこともあって、モヤモヤした気持ちで育ててたと思うよ」
先生のお母さんがそう思ってたように、先生も親御さんに対して、ああすればよかった、こうすればよかったと思ってることもやっぱりあるんだろうか。
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