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【2020/05 秘匿】
《第4週 月曜日 日中》⑥
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どうしよう、こまった。そういうことじゃないんだよ。優明に会ったら、いや、顔を見たら、いろんなことを思い出しそうで怖いんだ。作品作りに没頭しすぎてくだびれて寝入った南の代わりに連絡くれたときだって、声を聞いたらなんか泣きそうになってしまったのに。
頭を抱えていると、南は絨毯敷きであるのをいいことに床にあぐらをかいて座って、下から更に話しかけてきた。
「先生、すごく無礼な質問で申し訳ないんですが、契約してた人が死んだのって、どんな感じ、どんな気持ちですか」
どんな?そういや、客観的に自分の気持ちについて考えてなかったな。
「なんか、正直、わかんないや。直人さんの遺体には会えたけど、泣けなかった」
そう溢すと、南は不思議そうな目でおれを見た。
「でも、具体的にどんなことしてたのかは知りませんけど、二十年以上も毎月お呼ばれしてご奉仕して、それなりに金額もらってたんですよね?思い入れとかないんですか?」
「なくはないさ。でもさ、なんだろ…悲しいとかじゃなくて、悔しくて、腹が立ってた。どいつもこいつも、おれを置いていなくなるって」
そう言うと、南は「ああ、それは…ご尤もですねぇ…」と、俯いて呟いた。
場がしんみりと重い空気になったが、だからといってさめざめと泣くような気持ちにはやはりなれなかった。思わずおれは霊安室前でのことを話し始めた。
「てかさ、一応霊安室で手を合わせて遺体の状態も簡単に見させてもらったんだけど、出てきたら地獄の顔合わせになっちゃっててさ」
「地獄って、何があったんです?」
小首を傾げて南がこちらを見る。
「長谷と一緒にいたからタクシーで二人で来て、ハルくんの案内で霊安室に行ったんだけどさ、そっから出てきたらおれの取り調べに立ち会うために呼んでた先輩が来てて、その先輩に、あの二人の前でキスされたんだよね。ハルくんはおっかない顔するし、長谷は泣きそうな顔するしでもう大変よ」
「は?」
南の顔が一気に苦虫を百匹くらい噛み潰した顔になった。
「でさ、泣きそうな長谷の顔見たら、あ、かわいそう!かわいい!ってなって…したらなんかちょっとムラムラしちゃってさあ…」
「うわぁ~…最っ低~…」
性的欲求を持たない南からしたら、おれなんて正直ケダモノにしか思えないだろうなあ。
「で、取り調べ終わってホテルきてからさ、なんかやっぱ、直人さん殺されたのとか、ふみが行方不明なのとかさ、うちの親が殺されたのとか、みんなそうだけどおれを置いて黙っていなくなっちゃうからいろいろ悔しくなって、泣いて先輩に甘えたらセックスしてくれて、それがまためっちゃよくてさ」
「マジ…なんなのこのひと…」
ほらやっぱり、安定のドン引きだ。
「でもさ、終わって冷静になってみたらハルくんと長谷には申し訳ないなって思っちゃって、ちょっと罪悪感もあってさ、それがまたたまらないというか…」
「相変わらず性癖と人間性が終わってんですよ。てか謝るの遅っそ!そういうのは本人に言いましょうよぉ~」
呆れ返って、後ろ手をついて仰け反って天を仰いで南が嘆く。
「あの二人のお詫びえっち、いつ誘おうかなあ…3Pセッティングしたらまずいかな…」
「知りませんよ、ほとぼり覚めたら好きにしたらいいでしょ勝手にしてください」
そう言うと南は立ち上がって「じゃ、他に用事がないならおれは帰りますけど、いいですか?」と不機嫌そうに腕組みをして言った。
「今日のところはもう大丈夫だよ、ありがとう。優明によろしく」
南は苦笑いして溜息をついて「あんまりおいたが過ぎると、優明にウリやってたこと話しちゃいますからね?せっかく懸命に働いて仕送りしてくれた優しいお父さんだと思ってくれてるのに台無しになりますよ?」と言い捨てて、部屋を出ていった。
頭を抱えていると、南は絨毯敷きであるのをいいことに床にあぐらをかいて座って、下から更に話しかけてきた。
「先生、すごく無礼な質問で申し訳ないんですが、契約してた人が死んだのって、どんな感じ、どんな気持ちですか」
どんな?そういや、客観的に自分の気持ちについて考えてなかったな。
「なんか、正直、わかんないや。直人さんの遺体には会えたけど、泣けなかった」
そう溢すと、南は不思議そうな目でおれを見た。
「でも、具体的にどんなことしてたのかは知りませんけど、二十年以上も毎月お呼ばれしてご奉仕して、それなりに金額もらってたんですよね?思い入れとかないんですか?」
「なくはないさ。でもさ、なんだろ…悲しいとかじゃなくて、悔しくて、腹が立ってた。どいつもこいつも、おれを置いていなくなるって」
そう言うと、南は「ああ、それは…ご尤もですねぇ…」と、俯いて呟いた。
場がしんみりと重い空気になったが、だからといってさめざめと泣くような気持ちにはやはりなれなかった。思わずおれは霊安室前でのことを話し始めた。
「てかさ、一応霊安室で手を合わせて遺体の状態も簡単に見させてもらったんだけど、出てきたら地獄の顔合わせになっちゃっててさ」
「地獄って、何があったんです?」
小首を傾げて南がこちらを見る。
「長谷と一緒にいたからタクシーで二人で来て、ハルくんの案内で霊安室に行ったんだけどさ、そっから出てきたらおれの取り調べに立ち会うために呼んでた先輩が来てて、その先輩に、あの二人の前でキスされたんだよね。ハルくんはおっかない顔するし、長谷は泣きそうな顔するしでもう大変よ」
「は?」
南の顔が一気に苦虫を百匹くらい噛み潰した顔になった。
「でさ、泣きそうな長谷の顔見たら、あ、かわいそう!かわいい!ってなって…したらなんかちょっとムラムラしちゃってさあ…」
「うわぁ~…最っ低~…」
性的欲求を持たない南からしたら、おれなんて正直ケダモノにしか思えないだろうなあ。
「で、取り調べ終わってホテルきてからさ、なんかやっぱ、直人さん殺されたのとか、ふみが行方不明なのとかさ、うちの親が殺されたのとか、みんなそうだけどおれを置いて黙っていなくなっちゃうからいろいろ悔しくなって、泣いて先輩に甘えたらセックスしてくれて、それがまためっちゃよくてさ」
「マジ…なんなのこのひと…」
ほらやっぱり、安定のドン引きだ。
「でもさ、終わって冷静になってみたらハルくんと長谷には申し訳ないなって思っちゃって、ちょっと罪悪感もあってさ、それがまたたまらないというか…」
「相変わらず性癖と人間性が終わってんですよ。てか謝るの遅っそ!そういうのは本人に言いましょうよぉ~」
呆れ返って、後ろ手をついて仰け反って天を仰いで南が嘆く。
「あの二人のお詫びえっち、いつ誘おうかなあ…3Pセッティングしたらまずいかな…」
「知りませんよ、ほとぼり覚めたら好きにしたらいいでしょ勝手にしてください」
そう言うと南は立ち上がって「じゃ、他に用事がないならおれは帰りますけど、いいですか?」と不機嫌そうに腕組みをして言った。
「今日のところはもう大丈夫だよ、ありがとう。優明によろしく」
南は苦笑いして溜息をついて「あんまりおいたが過ぎると、優明にウリやってたこと話しちゃいますからね?せっかく懸命に働いて仕送りしてくれた優しいお父さんだと思ってくれてるのに台無しになりますよ?」と言い捨てて、部屋を出ていった。
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