322 / 454
【2020/05 秘匿】
《第4週 月曜日 日中》⑤
しおりを挟む
「あぁ、レシートはいつもどおりファイリングよろしく。おつりは…今現金手持ち少ないからもらっとくかね」
南が起き上がってこちらに歩いてきて銀行の封筒をおれに差し出す。中身を検めるとレシートと釣り銭が入っていた。レシートは時系列で並べて留めてあり、札も額面ごとにまとめてあり、小銭は五百円玉と百円玉だけが入っている。
「細かいのはお駄賃にもらっちゃいますね~、どうせ邪魔でしょうし」
ちゃっかりしてるなあ。まあ、実際そうだし、お駄賃ほしいならもっと本当はあげてもいいんだけど、自分からはくださいとは言わないよなあ、性格的に。まあ、帰りにまちおかで駄菓子でも買うといいさ。
「あ、そうだ南。今おれが此処に泊まってるってことはくれぐれも内密に」
封筒からカネだけ抜いてレシートの束を封筒に入れて返しながら言った。南は受け取って、肩から下げた鞄の被せの蓋を開けて、中のジッパー付きのポケットに折り畳んで入れてしっかり閉じて、蓋を閉めた。カネは下着を入れた収納ボックスの底に仕舞う。
「わかってますよ、安全確保のためなんですし。でも連絡にはちゃんと出られるようにしといてくださいよぉ、仕事とか用事あったら話来ると思いますから」
「あ~はいはい、承知しました。…てかさ、南」
一通り片付いて、クローゼットの扉を閉めて立つと同時に、おれは切り出した。
「おれ、これが片付いて身辺落ち着いたら、優明に会ってみる」
「え、」
突然のおれの申し出に、南が目を剥いた。
「だってさ、契約してた相手が死んじゃったから、ああいう人達とは縁が切れたわけだし、疚しいことももうないし。但、大学もクビかもしれないし、法人の収入だけだと今後は毎月のまとまった経済的援助ってのは多分できないから、誠意くらいは見せないとさ」
ベッドに戻って腰を下ろす。南はクローゼットの前に立ったままだ。驚いて固まって動けないんだろう。やや暫くして辛うじてこちらを向き直り、躊躇いながらおれに問いかけた。
「あ、あの、じゃあ、お式と、その後の先方のご家族との食事会も、出てくれます?」
「まあ、優明と旦那さんと、先方様がよければね」
南の目に安堵の色が広がり、心做しかじんわり目に涙が滲んで居るように見えた。
「…よかった、よかったです、優明、喜びますよ、ほんとに…先方のご家族は、優明の生まれや育ちについてはいろいろ複雑なのなんとなく察してすごく配慮してくれて、本当良い方たちなんで…大丈夫ですよ」
そしてそれは気の所為なんかじゃなくて、南は鞄の背のポケットからティッシュを出してそっと目元を押さえた。アイメイクが少し落ちて、ティッシュに赤紫色の染みができた。
「は~、ほんとよかった。じゃあ、おれ、優明に先生のLINEのIDとか連絡先教えちゃうんで、ちゃんと来たら承認なり返信なりしてやってくださいね」
「…は?え?ちょっと待って、なんでそうなるの?」
今度はおれが目を剥く番だ。
「今までしつこく教えて教えて~って言われても、先生の承諾が得られるまでは勝手に教えまいとガードしてたんです。結構攻防があって、おれ頑張ってたんですよ?」
「んな、でも、だっておれ、女の子なんて小林さんか、うちの掃除で出入りしてたユカちゃんか、直人さんの奥さんか、うちのお母さんか、研修医時代診てたクライアントとか、そのくらいしか免疫ないのに、おれ自分のゼミで女子学生取ったことないのに、そんな」
狼狽するおれにニヤニヤしながら南が近寄ってくる。身を屈めて、俯いているおれの顔を覗き込んで語りかけてくる。
「いいじゃないですか、もうどうせ会うって決めたんだし。小林さんがそうだったみたいに、会う前にテキストベースでコミュニケーションとって慣れといたほうがいいですよ」
南が起き上がってこちらに歩いてきて銀行の封筒をおれに差し出す。中身を検めるとレシートと釣り銭が入っていた。レシートは時系列で並べて留めてあり、札も額面ごとにまとめてあり、小銭は五百円玉と百円玉だけが入っている。
「細かいのはお駄賃にもらっちゃいますね~、どうせ邪魔でしょうし」
ちゃっかりしてるなあ。まあ、実際そうだし、お駄賃ほしいならもっと本当はあげてもいいんだけど、自分からはくださいとは言わないよなあ、性格的に。まあ、帰りにまちおかで駄菓子でも買うといいさ。
「あ、そうだ南。今おれが此処に泊まってるってことはくれぐれも内密に」
封筒からカネだけ抜いてレシートの束を封筒に入れて返しながら言った。南は受け取って、肩から下げた鞄の被せの蓋を開けて、中のジッパー付きのポケットに折り畳んで入れてしっかり閉じて、蓋を閉めた。カネは下着を入れた収納ボックスの底に仕舞う。
「わかってますよ、安全確保のためなんですし。でも連絡にはちゃんと出られるようにしといてくださいよぉ、仕事とか用事あったら話来ると思いますから」
「あ~はいはい、承知しました。…てかさ、南」
一通り片付いて、クローゼットの扉を閉めて立つと同時に、おれは切り出した。
「おれ、これが片付いて身辺落ち着いたら、優明に会ってみる」
「え、」
突然のおれの申し出に、南が目を剥いた。
「だってさ、契約してた相手が死んじゃったから、ああいう人達とは縁が切れたわけだし、疚しいことももうないし。但、大学もクビかもしれないし、法人の収入だけだと今後は毎月のまとまった経済的援助ってのは多分できないから、誠意くらいは見せないとさ」
ベッドに戻って腰を下ろす。南はクローゼットの前に立ったままだ。驚いて固まって動けないんだろう。やや暫くして辛うじてこちらを向き直り、躊躇いながらおれに問いかけた。
「あ、あの、じゃあ、お式と、その後の先方のご家族との食事会も、出てくれます?」
「まあ、優明と旦那さんと、先方様がよければね」
南の目に安堵の色が広がり、心做しかじんわり目に涙が滲んで居るように見えた。
「…よかった、よかったです、優明、喜びますよ、ほんとに…先方のご家族は、優明の生まれや育ちについてはいろいろ複雑なのなんとなく察してすごく配慮してくれて、本当良い方たちなんで…大丈夫ですよ」
そしてそれは気の所為なんかじゃなくて、南は鞄の背のポケットからティッシュを出してそっと目元を押さえた。アイメイクが少し落ちて、ティッシュに赤紫色の染みができた。
「は~、ほんとよかった。じゃあ、おれ、優明に先生のLINEのIDとか連絡先教えちゃうんで、ちゃんと来たら承認なり返信なりしてやってくださいね」
「…は?え?ちょっと待って、なんでそうなるの?」
今度はおれが目を剥く番だ。
「今までしつこく教えて教えて~って言われても、先生の承諾が得られるまでは勝手に教えまいとガードしてたんです。結構攻防があって、おれ頑張ってたんですよ?」
「んな、でも、だっておれ、女の子なんて小林さんか、うちの掃除で出入りしてたユカちゃんか、直人さんの奥さんか、うちのお母さんか、研修医時代診てたクライアントとか、そのくらいしか免疫ないのに、おれ自分のゼミで女子学生取ったことないのに、そんな」
狼狽するおれにニヤニヤしながら南が近寄ってくる。身を屈めて、俯いているおれの顔を覗き込んで語りかけてくる。
「いいじゃないですか、もうどうせ会うって決めたんだし。小林さんがそうだったみたいに、会う前にテキストベースでコミュニケーションとって慣れといたほうがいいですよ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
檻の中の妖精は、今日も抱かれる
Wataru
BL
妖精は商品だ。
人間に値をつけられ、今日も抱かれる。
欲望のまま触れる手もある。
優しさのふりをする声もある。
そして、ときどき――本当に優しい人間もいる。
それが一番、苦しい。
人間に消費されることには慣れている。
傷つくことにも。
それでも恋をしてしまう。
抱かれなくてもいい。
選ばれなくてもいい。
ただ一度だけ、
「お前がいい」と言われたかった。
優しさが刃になる、
檻の中の妖精たちの切ないBL短編集。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる