Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 復元】

《第4週 火曜日 朝》①

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部屋に戻って、ふみにメッセージを送るために窓辺で写真を撮った。そこまでが限界だったみたいで、おれはふらつく足取りでベッドに戻って倒れ込んだ。骨盤の中全部ぐちゃぐちゃに抉られたみたいに鈍くて重い痛みがある。大腿部まで骨身に沁みる痛みで疼き、ひどく寒気がするのに体が熱い。
クローゼットの中に、南に買ってきてもらった薬があるんだよな。どうしよう、取りに行くくらいはできるかな。バイタル見れるようにオキシパルスメーターも体温計も血圧計も買ってきてもらっとけばよかったかなあ。このご時世だし、もしかしたらってのもあるし。
あれこれ考えながら、壁伝いに手をついてゆっくり移動してなんとかクローゼットに辿り着いた。扉を開けて、マグネットで蓋が閉じる小さい収納ボックスを取り出して中に入っている薬を確認する。研究室の戸棚にストックしてあるものと概ね同じ内容が揃っている。
おれの体に差し障らない成分の、よく使う種類の薬。全く本当によくできた、おれみたいな自分の追い求めたいもの以外には頓着しない怠惰な人間には勿体ない、有能過ぎる助手だ。あとでお礼にLINEギフトでスタバのタダ券でも贈ろう。
消炎鎮痛解熱剤の箱を手に洗面台に向かい、取り急ぎ備え付けのコップで水を汲んで薬を飲んだ。空腹でも飲める薬ではあるけど、空腹じゃないに越したことはない。ふみにも食わせてやれたし、朝食ビュッフェ行っておいてよかった。
また壁伝いに手をつきながらベッドに戻って、服を着たまま布団に潜り込んだ。薬が効いてきたのもあるが、体のダメージからの消耗がきつくて、あっという間に意識は薄れた。途中、スマートフォンのバイブレーションで目は覚めたものの、確認できず再び眠りに落ちた。
何か緊急の連絡だったらどうしようとは思ったものの、こんな状態じゃ正常な判断もできないし、徒に不安になって動揺して余計なことをしかねない。体調が悪い時のおれは機嫌も悪くなりやすい自覚があるし、落ち込みやすいし、今はだめだ。

《第4週 火曜日 日中》
そう思って眠って、再び目が覚める頃、既にすっかり日は傾いていた。幸い薬がよく効いて、悪寒は無くなっていて、服やベッドの中は汗で湿気っぽくなっていた。そして歳が歳なので悲しいことにそれなりにジジイくさい匂いがする気がする。
眠ってて全然気付かなかったけど、多分リネン交換や掃除のために午前中から午後2時位までのどっかのタイミングで従業員の人がチャイム鳴らしたりノックしたりしてたんじゃなかろうか。連泊だし、今から交換ってお願いできるかな。
あと、まだ熱下がってるとは思えないし、首とか腋とか脚の付け根冷やしたほうがいいんだけど頼んだら氷ってもらえるのかな。備え付けの端末でフロントを呼び出して問い合わせると、対応してもらえることがわかったのでお願いした。
おれはふみの置いてったネクタイや下着をとりあえず拾ってクローゼットに片付けて、自分が寝ていた方のベッドは湿気を逃す為捲って、脱ぎっぱなしだったホテルの備え付けの寝間着や、使ったタオル類も拾ってまとめてそこに置いた。
放置していたスマートフォンを手にふみが寝ていたほうのベッドに潜って、寝ている間に届いたメッセージを確認する。見慣れないアカウントからのメッセージがある。しかもアカウント名が不思議な名前だ。you may dreamと表示されている。
そしてアイコンがピンク色のクリームソーダ。詳細を開くと付いていた「ゆめ」というキャプションで優明だとわかった。友だちとして承認して、気づくのが遅れたことを詫びるメッセージを送った。直ぐに返事が返ってくる。短く、何度も。
「お父さん
 ありがとう
 ゆめです」
「今ちょっとお仕事で外出てます
 お休みの日にいっぱいお話したいです」
「さっきいろいろ送っといたので
 それまで見て待っててください」
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