Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
351 / 454
【2020/05 潜伏】

《第4週 木曜日 朝》①

しおりを挟む
小林さんがドライヤーをかける音で目が覚めた。サイドテーブルに埋め込まれている「昭和のデジタル」な時計の緑色の時刻表示を見ると7時を回っている。ドライヤーを一旦止めて、小林さんが挨拶した。
「おはようございます、眠ってらしたので先にシャワーお借りしました。できるだけバスルーム内の床は拭いてあります。朝ごはん如何しますか?」
「うん…おはよ…とりあえず、痣とか傷隠すは処置しなきゃな…飯は…食欲ないけど、食べないと絶対もたないから食えそうなものがあれば食べる…」
フラフラしながら、ライティングデスクの上の私物を漁る。仕事先で直す用に最低限持ち歩いていたカバー用の化粧品やシールが入ったポーチを出してまたベッドに戻った。折りたたみの小さい鏡で顔や首周りを見ながら塗ったり、腕の傷にシールを貼ったりする。見えづらいところや自分で貼りにくいところは小林さんに頼んでやってもらった。
その途中でスマートフォンの通知を示すLEDが光った気がしたので、片付けてからまたベッドに戻って手にとり、ロックを解除してみる。通知の欄を確認すると大変なことになっていた。長谷からのメッセージまみれだ。
「朝早くにすみません!」
「ずっと連絡できなくてごめんなさい!」
「事件現場での撮影係の仕事やっと目処がついて開放されました!」
「実際終わったのは昨日夜です、帰ってきたら日付変わってました」
「泊まってるホテルどちらですか、まだ教えてもらってないです」
「災害支援で遠征っていつまでですか?小曽川さんに聞きました」
「先生、もしかして怒ってますか」
「ごめんなさい…」
「現場に私用端末持ち込んじゃ駄目なのにうっかり持ってきちゃって没収されてしまって…」
時系列で読んでいくと、具にどういう状態だったのかがわかる内容で、思わず吹き出した。驚いた顔で小林さんがこちらを見ていたが、堪えきれずニヤニヤしてしまう。
やっと訓練から開放された大型犬の子犬が千切れそうなほど尻尾をブンブン振り回しながら飼い主の居場所目指して走ってきたはいいものの、既にそこにはいないことに気づいて、しかも怒って自分を置いて遠くに行っちゃったと思って、めちゃくちゃに凹んでキュンキュン蹲って鳴いている様が脳内で再生される。
こみ上げてくる可笑しさが一段落したところで、返信を開始する。
「おはよう長谷。土砂災害があったとこがこの分野の人材が不足しているということで緒方先生の指示で派遣されました。」
「決まったのが昨日の午後で夜には入りだったので周知は小林さんはこういった現場の経験がないので実習・指導と安全確保のための付添も兼ねてます。捜索終了まで滞在することになると思います。」
「別に怒ってないよ、お疲れ様。おれのことは気にしなくていいから、連勤した分ちゃんと代休取って休んでまた仕事頑張れ。」
「あと、失礼なことかもしれないけど教えてほしい。長谷はお父さんが亡くなったとき、お母さんがいなくなったとき、ちゃんと素直に悲しいって気持ちになれた?受け入れられた?」
「おれは正直、まだ、直人さんのことは只々悔しくて、感情の整理がついていないです。こういうときは誰彼構わず抱かれて耽溺してやり過ごしてきたけど、今回は全然駄目。」
「…他の人と寝ました、朝から嫌な気持ちにさせてごめん。」
「怒るのは当たり前だと思う。こういうことが今後も起きないという保証はできないし、嫌だったら同棲はヤメになっても仕方ないと思ってる。」
「でも、今本当はすごくお前の顔が見たい、声が聞きたい」
入力していくうちに視界が歪んで、自分の目から涙が溢れそうになっていることに気がついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

【完結】  同棲

蔵屋
BL
 どのくらい時間が経ったんだろう 明るい日差しの眩しさで目覚めた。大輝は 翔の部屋でかなり眠っていたようだ。 翔は大輝に言った。  「ねぇ、考えて欲しいことがあるんだ。」  「なんだい?」  「一緒に生活しない!」 二人は一緒に生活することが出来る のか?  『同棲』、そんな二人の物語を  お楽しみ下さい。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

処理中です...