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【2020/05 居場所】
《第4週 日曜日 午後》⑦
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それまでのアプローチが時限爆弾のように発動したのは、中学に通うようになり、ネグレクトされていた同級生の子を家につれてきて一緒に過ごすようになってからだった。
先ず、玲さんは連れてきた子に同衾し肉体関係を迫り、毎晩のように甘えて体を重ねるようになって、英一郎さんに執着しなくなった。そして連れられてきた子は夫妻に気遣って家事を手伝ったり労をねぎらう等して一緒に団欒するようになり、このことで良くも悪くも元々マイペースな玲さんと夫妻の間には距離ができ、緊張が薄れた。
到底健全とは言い難い状況ではあったが、これにより玲さんにとって家庭が「自分の存在により漠然とした緊張感がある状態」ではなくなった。一般的に好ましいとは言えないものの、玲さんにとって初めて「家庭が安全な場所」となったその瞬間に発動、いや、暴発したという。
記憶が飛んでから、夫妻は事件前の良かった頃の記憶をできるだけ戻せないかと手法を変えて何度もアプローチしていたものの、効果が見られなかった為半ば諦めて暫く療育をやめていた。にも拘らず、突然決壊し、玲さんは夜驚症を発症したのだ。
睡眠中に突然、事件当時や事件が起こる前のことがフラッシュバックして極度のパニックを起こし、悲鳴のような声を上げて覚醒して、玄関やベランダに向かって駆け出すようになってしまったという。必死に止めようとしても症状が出ているときは反応に乏しく、通常は朝になって尋ねても本人はその時のことは覚えていない。
徐々に症状は変化していき、やがて玲さんは忘れていた事件当時や事件が起こる前のことを明確に思い出すようになった。すると、再び玲さんは自分の病状を気遣う夫妻を自分の実の父母に重ね合わせているのか、顔を強張らせて様子を窺うようになり、その代わりに夜驚症は鳴りを潜めた。
しかし、入れ替わりに夜驚症が出ている間は治まっていた性的逸脱が激しくなった。この流れはパターン化し、繰り返し反復して起こるようになり、一家は翻弄され、子供らは双方学業が揮わなくなりはじめた。
当然だが夫妻は仮の親として、例えそれが症状とはわかっていても、ネグレクトから逃れてきた子を振り回し再び犠牲にするようなことがあってはいけない、高校受験或いは大検を控える大事な時期に学生の本分を忘れるようなことになってはいけないと思い、玲さんを強く叱った。
するとその数日後玲さんは「大検とその後の大学受験に向けて一人暮らしさせてほしい、独りになりたい」と言い出し、頑なに部屋に閉じ籠るようになってしまい中学校にも通わなくなってしまったという。それまで一緒に寝起きしていた同級生の子は已むを得ず夫妻の部屋で共に寝起きすることになったという。
部屋自体は施錠していたわけではないので、玲さんが問題集や参考書を買いに出たり散歩に出るなどして不在の時に覗くと、大検に必要な学習範囲は勿論、既に高校三年間の履修内容、受験用の赤本まで買い揃えてあり、ベッドの上、枕元から壁沿いに積んで片っ端から読み漁ってあった。
自分のことを一切考えないように、何も思い出さないように、自分の置かれている環境について何も感じないように、周りに甘えないようにと、とにかく追い込み余地を与えない鬼気迫るものがあった。
そして、机の上にはドリルや過去問集があって、その例題を解くのに使った5mm方眼のルーズリーフが大量に積まれていた。紙の束を崩さないよう気をつけながら捲っていくと、その中の一枚には走り書きがあったという。
「自分に帰るところはない、居場所なんて元々ない」と。
先ず、玲さんは連れてきた子に同衾し肉体関係を迫り、毎晩のように甘えて体を重ねるようになって、英一郎さんに執着しなくなった。そして連れられてきた子は夫妻に気遣って家事を手伝ったり労をねぎらう等して一緒に団欒するようになり、このことで良くも悪くも元々マイペースな玲さんと夫妻の間には距離ができ、緊張が薄れた。
到底健全とは言い難い状況ではあったが、これにより玲さんにとって家庭が「自分の存在により漠然とした緊張感がある状態」ではなくなった。一般的に好ましいとは言えないものの、玲さんにとって初めて「家庭が安全な場所」となったその瞬間に発動、いや、暴発したという。
記憶が飛んでから、夫妻は事件前の良かった頃の記憶をできるだけ戻せないかと手法を変えて何度もアプローチしていたものの、効果が見られなかった為半ば諦めて暫く療育をやめていた。にも拘らず、突然決壊し、玲さんは夜驚症を発症したのだ。
睡眠中に突然、事件当時や事件が起こる前のことがフラッシュバックして極度のパニックを起こし、悲鳴のような声を上げて覚醒して、玄関やベランダに向かって駆け出すようになってしまったという。必死に止めようとしても症状が出ているときは反応に乏しく、通常は朝になって尋ねても本人はその時のことは覚えていない。
徐々に症状は変化していき、やがて玲さんは忘れていた事件当時や事件が起こる前のことを明確に思い出すようになった。すると、再び玲さんは自分の病状を気遣う夫妻を自分の実の父母に重ね合わせているのか、顔を強張らせて様子を窺うようになり、その代わりに夜驚症は鳴りを潜めた。
しかし、入れ替わりに夜驚症が出ている間は治まっていた性的逸脱が激しくなった。この流れはパターン化し、繰り返し反復して起こるようになり、一家は翻弄され、子供らは双方学業が揮わなくなりはじめた。
当然だが夫妻は仮の親として、例えそれが症状とはわかっていても、ネグレクトから逃れてきた子を振り回し再び犠牲にするようなことがあってはいけない、高校受験或いは大検を控える大事な時期に学生の本分を忘れるようなことになってはいけないと思い、玲さんを強く叱った。
するとその数日後玲さんは「大検とその後の大学受験に向けて一人暮らしさせてほしい、独りになりたい」と言い出し、頑なに部屋に閉じ籠るようになってしまい中学校にも通わなくなってしまったという。それまで一緒に寝起きしていた同級生の子は已むを得ず夫妻の部屋で共に寝起きすることになったという。
部屋自体は施錠していたわけではないので、玲さんが問題集や参考書を買いに出たり散歩に出るなどして不在の時に覗くと、大検に必要な学習範囲は勿論、既に高校三年間の履修内容、受験用の赤本まで買い揃えてあり、ベッドの上、枕元から壁沿いに積んで片っ端から読み漁ってあった。
自分のことを一切考えないように、何も思い出さないように、自分の置かれている環境について何も感じないように、周りに甘えないようにと、とにかく追い込み余地を与えない鬼気迫るものがあった。
そして、机の上にはドリルや過去問集があって、その例題を解くのに使った5mm方眼のルーズリーフが大量に積まれていた。紙の束を崩さないよう気をつけながら捲っていくと、その中の一枚には走り書きがあったという。
「自分に帰るところはない、居場所なんて元々ない」と。
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