Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
413 / 454
【2020/05 居場所】

《第4週 日曜日 午後》⑫

しおりを挟む
日が暮れてきた。北向きで、しかも本棚に遮られてあまり日光の入らない書斎がいよいよ本格的に暗くなってきたので照明をつける。
本棚はすべて予定通り配置し直して、中に入ってた本や本棚の上に積み上げたままになってた先生が寄稿した専門誌や書籍の献本も全部、先生が並べていたのを基に分類し直して整理して収納し直した。机や椅子等も自分が持ってきたタオルケットを敷いてその上に乗せて引っ張るようにして書斎まで移動させて、手前側の奥に、収納の扉を邪魔しないよう少し間を取って配置した。
リビングは机がや椅子が無くなりキッチンへの出入りがしやすくなった。そして、その背後の壁にあったリビングボードの扉や引き出しの開け閉めもしやすくなった。空いた空間に脚置きのスツールというか、オットマン的なものだけが置き場所に迷ってそのままリビングの端に寄せて置いてある。今の状態を写真に撮って送ったけど、先生は忙しいみたいで返信がない。既読もつかない。
おれは先生が此処に来いと言ってくれたおかげで、かなり心穏やかに週末を過ごすことができた。書斎の整理もかなりいい気分転換になった。何より、先生の家の寝室のベッドの広さ、お風呂の快適さ、家電の充実ぶりときたら、それを羨んでたのだから当たり前だけど、それまでの必要なもの以外削ぎ落とした質素な生活空間(ミニマリストとかそういうかっこいいものでは決してない)とは比べ物にならないほど快適だった。
先生の家に大抵のものはあると見て愛用のタオルケットと数日分の通勤着と部屋着とインナー、仕事関係のもの、パソコンやスマホと充電機器くらいの最低限で来たけど本当に何も困らなかった。最初からずっと此処に住んでいたんじゃないかと思うくらいに。元から此処が自分の居場所だったんじゃないかと思うくらいに。
作業の合間に少し散歩や買い出しにも出たけど、先生の住まいのある東新宿の東北側は、スーパーも生協もドラッグストアもあって、隣町に大きな医療機関や大学病院もあって本当に何も不自由しない環境だった。意外だったのは、明治通りを挟んで歌舞伎町や大久保の繁華街と隣接しているのにそれでいてこちら側は少し入るともう本当に小さな家や賃貸住宅が犇めく只の静かな住宅街だったことだ。
この物件にもしてそうだが築年数が古い物件も少なくなく、小さな空き店舗やテナントが埋まっていない薄暗いビルや空き家も目立ち、正直結構寂れている。大きな公園もや公営の集合住宅もあって、案外居住歴の長そうな高齢の方も少なくない。自分が住んでた辺りのような小綺麗さはない。でも、だからこそ飾らずにフラッと部屋着で出られる気軽さ、安心感がある。
通勤は少し遠くなるが、バスの通るところまで歩けば一本で勤務先まで行ける。本当にいいところに来れた。多分佐藤さんだって、いきなりこんなところに移住してるとは思わないだろう。勤務先が警察じゃ迂闊に近づけないはず。もう過去の自分に振り回されたり、フラフラ遊んだりして無駄に消耗しなくていいんだと思えたら気持ちが軽い。
後をつけて押しかけて、何も考えず素直に羨ましがって見せたら先生が「だったら住めばいい」と言ってくれて、それがまさかこんなにいい方向にはたらくなんて。色々と展開が目まぐるしくてまだ頭がついてきていない部分があるけど、嬉しい。でも肝心の先生が居ないのがちょっと寂しい。早く戻ってこないかな。聞いてほしいこと、話したいことがいっぱいある。
おれは、先生の机の上に、先生が座った状態で少し顔を上げたらちょうどよく見えるように、或るものを飾った。
「先生、喜んでくれるかな。それとも余計なことするなって怒るかなあ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...