Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 居場所】

《第4週 日曜日 午後》⑫

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日が暮れてきた。北向きで、しかも本棚に遮られてあまり日光の入らない書斎がいよいよ本格的に暗くなってきたので照明をつける。
本棚はすべて予定通り配置し直して、中に入ってた本や本棚の上に積み上げたままになってた先生が寄稿した専門誌や書籍の献本も全部、先生が並べていたのを基に分類し直して整理して収納し直した。机や椅子等も自分が持ってきたタオルケットを敷いてその上に乗せて引っ張るようにして書斎まで移動させて、手前側の奥に、収納の扉を邪魔しないよう少し間を取って配置した。
リビングは机がや椅子が無くなりキッチンへの出入りがしやすくなった。そして、その背後の壁にあったリビングボードの扉や引き出しの開け閉めもしやすくなった。空いた空間に脚置きのスツールというか、オットマン的なものだけが置き場所に迷ってそのままリビングの端に寄せて置いてある。今の状態を写真に撮って送ったけど、先生は忙しいみたいで返信がない。既読もつかない。
おれは先生が此処に来いと言ってくれたおかげで、かなり心穏やかに週末を過ごすことができた。書斎の整理もかなりいい気分転換になった。何より、先生の家の寝室のベッドの広さ、お風呂の快適さ、家電の充実ぶりときたら、それを羨んでたのだから当たり前だけど、それまでの必要なもの以外削ぎ落とした質素な生活空間(ミニマリストとかそういうかっこいいものでは決してない)とは比べ物にならないほど快適だった。
先生の家に大抵のものはあると見て愛用のタオルケットと数日分の通勤着と部屋着とインナー、仕事関係のもの、パソコンやスマホと充電機器くらいの最低限で来たけど本当に何も困らなかった。最初からずっと此処に住んでいたんじゃないかと思うくらいに。元から此処が自分の居場所だったんじゃないかと思うくらいに。
作業の合間に少し散歩や買い出しにも出たけど、先生の住まいのある東新宿の東北側は、スーパーも生協もドラッグストアもあって、隣町に大きな医療機関や大学病院もあって本当に何も不自由しない環境だった。意外だったのは、明治通りを挟んで歌舞伎町や大久保の繁華街と隣接しているのにそれでいてこちら側は少し入るともう本当に小さな家や賃貸住宅が犇めく只の静かな住宅街だったことだ。
この物件にもしてそうだが築年数が古い物件も少なくなく、小さな空き店舗やテナントが埋まっていない薄暗いビルや空き家も目立ち、正直結構寂れている。大きな公園もや公営の集合住宅もあって、案外居住歴の長そうな高齢の方も少なくない。自分が住んでた辺りのような小綺麗さはない。でも、だからこそ飾らずにフラッと部屋着で出られる気軽さ、安心感がある。
通勤は少し遠くなるが、バスの通るところまで歩けば一本で勤務先まで行ける。本当にいいところに来れた。多分佐藤さんだって、いきなりこんなところに移住してるとは思わないだろう。勤務先が警察じゃ迂闊に近づけないはず。もう過去の自分に振り回されたり、フラフラ遊んだりして無駄に消耗しなくていいんだと思えたら気持ちが軽い。
後をつけて押しかけて、何も考えず素直に羨ましがって見せたら先生が「だったら住めばいい」と言ってくれて、それがまさかこんなにいい方向にはたらくなんて。色々と展開が目まぐるしくてまだ頭がついてきていない部分があるけど、嬉しい。でも肝心の先生が居ないのがちょっと寂しい。早く戻ってこないかな。聞いてほしいこと、話したいことがいっぱいある。
おれは、先生の机の上に、先生が座った状態で少し顔を上げたらちょうどよく見えるように、或るものを飾った。
「先生、喜んでくれるかな。それとも余計なことするなって怒るかなあ」
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