Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 凱旋】

《第4週 日曜日 深夜》⑤

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布団を捲る乾いた音とベッドのスプリングが軋む音がした。途中で一緒の部屋に寝ている家族を気遣って部屋を出たのか、声の響き方が変わった。
「まだおめでとうには早くないですか?国内のはまだ審査残っただけだし。みんな気が早すぎない?」
「別に早かないよ、国際学会のほうで表彰決まって講演も頼まれてんだよ?すぐ結果につながると思って準備しといたほうがいいと思うよ、国内の学会の賞逃したところで、そのうち国内外から執筆や講演頼まれるでしょ」
おれはとりあえず、逮捕されるには至らないではあろうと思われるもののヤラカシがあったことを報告、万が一を考えて辞職すべきかと考えていたことや、そのためには大学のおかげで得ていたものの貸しを精算すべきだと思って連絡した旨を伝える。
そうすると緒方先生は今度は台所に来たのか、冷蔵庫から何やら取り出して「プシュ」と炭酸ガスの噴出する音を立てて開けた。そのままおれが喋ってるのもお構いなしに喉を鳴らしてその何かを飲み始めた。
「緒方さん、ちょっとお、話聴いてる?」
「はは、冗談じゃないね。此処まで来て手放すかっての。この手の研究やってんの、しかも元犯罪被害当事者でってさ、世界全部ひっくり返したってお前だけだよ?やめるやめる言っても辞めさせませんよ~だ。うちの新しいウリになるもん。てか見立先生めちゃくちゃ喜んでんよ?ガッカリさせたらおじいちゃんショックで死んじゃうよ?」
うっ…それはいやだ。
「そんなあ…」
「だからさ、切り上げて早く一旦戻ってきて顔見せてやんな。入院してる親御さんにも報告して喜ばせたげなさいよ」
ああ、そうだ。お父さん喜んでくれるかな。今までかけた迷惑がチャラになるとは思わないけど、ちょっとは罪滅ぼしになるかな。
「でも、まだ収束してないじゃないですか、その、ヤクザの…おれ戻って大丈夫なのかなって」
「ああ~、それな~…」
いや、それな~じゃないのよ。何のためにおれ都心離れて此処に来てると思ってんの…ほとぼりが冷めるまで身を隠してんの。或いはある種の島流しでしょ。
「でもさ、それ片付くの待ってたら何も出来なくない?逆にもういっそさぁ、その、世話になってたヤクザに身辺警護とか頼めないの?」
「言うに事欠いてなんちゅうこと言うんですか…噂されてたヤクザとのつながりが発砲あったせいで明らかになって謹慎になって、挙句に島流しなってるって経緯忘れてます?てか酔ってません?」
苦虫を十匹くらい噛み潰した顔でおれが言うのを他所に、緒方先生はでかいゲップをした上で笑って言った。
「は、島流しって!てか飲んでないよ?サイダーだよ、サイダー。いや~てか、おれも鼻が高ぇわ。住むとこ貸したり、学校の威を借りて存分にやれるように役職に推したり、根回しして新橋行き許可出したり色々やってきた甲斐があるってもんよ。とにかくそっち一段落したらなんとかして戻ってきな?な?全力で今の職位は守ってやるから」
気安く言うなあ。でも、今は信じてやれることやりつつ、今後に備えておくしかないか。
「…わかりました。でも、その言葉、守れなかったら…その時は…どう落とし前つけてくれんですか?」
「ヤクザに転職すんだろ?おれも付き合ってヤクザになってやんよ」
だめだ、絶対飲んでるのサイダーじゃないでしょ、この酔っ払いめ。
「しませんよ…明日があるんですからサッサと寝てください!もういいよホラ寝て寝て!失礼しますよ!」
そう言って通話を切ろうとすると「なあ」と呼び止めるのが聞こえた。
耳に当て直すと、「お前もちゃんと寝なよ。床に落ちてないで、布団でな」と言って、緒方先生のほうから通話が切れた。
充電ケーブルにスマートフォンを繋ぎ直して伏せて置く。
とりあえず、小林さんが風呂出て髪乾かすまでの時間、今できること少し進めて寝るか。
あとは朝にならないとどうしようもない。先程のテキストメモを元に、直ぐに潰せることから取り掛かろう。
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