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汚い顔だから婚約破棄したいと言われた令嬢が幸せを掴むまで
第四話 騒動の後で
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背が高く、がっしりしたジェイコブの身体が崩れ落ちた。尻餅をついたジェイコブが見上げた先にはオーロラのクラスメイトのアレクサンダーがいた。アレクサンダーは初めて人を殴った。拳はしびれるように痛かった。
ジェイコブはすぐさま立ち上がり、両手でアレクサンダーの胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ……誰だよ! いきなり何すんだ!」
「今の言葉を取り消せ! 婚約者だかなんだか知らないがな、あんな言葉で人を傷付けていいわけないだろ!」
二人は揉み合い、殴り合いになった。ケンカ慣れしていない二人ではあったが、大柄の二人の殴り合いは壮絶なものになっていた。
たまたま近くを通りかかった教師がケンカを止めるまでオーロラは状況を呑み込めずに立ち尽くしていた。
後日、ケンカをした当事者二人には懲戒処分が課せられた。先に殴ったアレクサンダーは五日間の停学。ジェイコブは正当防衛が認められたが原因を作ったことで一日の停学処分となった。
◇◇◇
騒動の後、色々な変化が起こった。
まずは、オーロラとジェイコブが婚約破棄したことである。ケンカがあったこととその原因を聞いたオーロラの父親がジェイコブの家に殴り込みに行き婚約を破棄した。婚約を決める時も破棄する時もオーロラへの相談はなかったが、今はそれがありがたかった。
次に、ジェイコブが学園を去ったことである。実はオーロラの父親が娘の婚約者なのだからと高い学費を援助していたため、婚約破棄によって学費が払えなくなったのだ。
最後に、オーロラとアレクサンダーの関係である。オーロラは教師に住所を聞き、停学が明ける前にアレクサンダーの家に行った。客間に通されたオーロラはアレクサンダーに謝罪した。
「ごめんなさい! 私のせいで停学になってしまって……」
「いや、あれは僕が我慢できなくなってしたことだから。それより逆に迷惑をかけたよね」
アレクサンダーは申し訳なさそうな顔をした。
「そんなことない! 私嬉しかった。私のために怒ってくれたんでしょ?」
「うん。あいつが言った言葉がどうしても許せなくて。おいつは婚約者なのにオーロラの良いところを全然わかってない」
「良いところ? ……あると良いんだけどね。ほら、実際私こんな汚い顔してるし」
オーロラは自虐的にそう言うと、ははっと笑った。
「汚くなんてないよ! オーロラは可愛いよ。それに僕はクラス委員だよ? クラスメイトのことはよく見るようにしてるんだ。だからオーロラのいいところだってたくさん知っているよ。きみは普段誰よりもよく笑うじゃないか。僕はそんなきみの笑顔をついつい目で追ってしまうんだ。だからきみには笑っていて欲しい」
アレクサンダーは照れているのか顔が赤くなっていた。
「私、初めてそんなこと言ってもらえた。嬉しい……」
オーロラはアレクサンダーの前でまた涙を浮かべてしまったが、今回は以前とは違って悲しいからではなかった。
◇◇◇
八年後、オーロラは二十五歳になっていた。大人になって思春期ニキビもなくなったオーロラは誰もが振り向くほどの美人になっていた。
ある日、オーロラは街に買い物に来ていた。その隣には小さな女の子とアレクサンダーの姿があった。あれからオーロラとアレクサンダーは少しずつ距離が近付いていき、二十歳の時に結婚し、子宝にも恵まれた。
買い物中、オーロラは道端に座り込んで昼間から酒を飲んでいる太った薄毛の男に気付いた。オーロラは娘をそのガラの悪い男から遠ざけるように移動させた。その瞬間、何かに気付いて思わずアレクサンダーの腕をつかんだ。
「どうしたんだい驚いた顔をして……。あっ、あいつ……ジェイコブじゃないか」
オーロラとアレクサンダーは気付かれないように急いでその場から離れた。
「ジェイコブ……浮浪者みたいだった」
「そうだね。……オーロラには言わないようにしていたけど、あいつがひどいことになっているのは実は知っていたんだ。去年、学生時代の友人たちとのパーティーに出席しただろ? そこでジェイコブの話を聞いていたんだ。あいつがどうなったか、知りたいなら言うけど聞くかい?」
オーロラはしばらく考え込んでから答えた。
「うん。聞かないといけない気がする」
「わかった。初めに言っておくけどオーロラに責任はないからね。ジェイコブはあれから女癖が治らなかったらしくてね。父親に勘当されたらしいんだ。それで女のところを渡り歩いていたらしいんだが、二十歳のころにはもう……髪がね……なくなってきたらしくて。彼は女性みたいに綺麗な顔をしていたから薄毛なのが妙に気味悪く見えたらしい。それ以来女性にも相手にされなくなって自暴自棄になり今度はどんどんと太ったって噂だよ。まぁ正直に言うとパーティーで笑いものにされていたね。僕も今見るまでは信じられなかったよ……」
「そうだったんだ……。そういえば太っているのも薄毛なのもジェイコブのお父さんにそっくりだった。きっと遺伝なのね」
そういうと二人は顔を合わせて大笑いした。二人とも人の不幸を笑うタイプではない。しかし、不謹慎だとは思っていたがジェイコブの呪縛から解放された気がして思わず笑ってしまったのだ。
婚約破棄をきっかけに幸せを掴んだオーロラは、優しい夫と可愛い娘に囲まれてこれからも幸せに暮らしたのだった。皮肉なことにジェイコブとはまさに対照的であった。
=== 完 ===
ジェイコブはすぐさま立ち上がり、両手でアレクサンダーの胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ……誰だよ! いきなり何すんだ!」
「今の言葉を取り消せ! 婚約者だかなんだか知らないがな、あんな言葉で人を傷付けていいわけないだろ!」
二人は揉み合い、殴り合いになった。ケンカ慣れしていない二人ではあったが、大柄の二人の殴り合いは壮絶なものになっていた。
たまたま近くを通りかかった教師がケンカを止めるまでオーロラは状況を呑み込めずに立ち尽くしていた。
後日、ケンカをした当事者二人には懲戒処分が課せられた。先に殴ったアレクサンダーは五日間の停学。ジェイコブは正当防衛が認められたが原因を作ったことで一日の停学処分となった。
◇◇◇
騒動の後、色々な変化が起こった。
まずは、オーロラとジェイコブが婚約破棄したことである。ケンカがあったこととその原因を聞いたオーロラの父親がジェイコブの家に殴り込みに行き婚約を破棄した。婚約を決める時も破棄する時もオーロラへの相談はなかったが、今はそれがありがたかった。
次に、ジェイコブが学園を去ったことである。実はオーロラの父親が娘の婚約者なのだからと高い学費を援助していたため、婚約破棄によって学費が払えなくなったのだ。
最後に、オーロラとアレクサンダーの関係である。オーロラは教師に住所を聞き、停学が明ける前にアレクサンダーの家に行った。客間に通されたオーロラはアレクサンダーに謝罪した。
「ごめんなさい! 私のせいで停学になってしまって……」
「いや、あれは僕が我慢できなくなってしたことだから。それより逆に迷惑をかけたよね」
アレクサンダーは申し訳なさそうな顔をした。
「そんなことない! 私嬉しかった。私のために怒ってくれたんでしょ?」
「うん。あいつが言った言葉がどうしても許せなくて。おいつは婚約者なのにオーロラの良いところを全然わかってない」
「良いところ? ……あると良いんだけどね。ほら、実際私こんな汚い顔してるし」
オーロラは自虐的にそう言うと、ははっと笑った。
「汚くなんてないよ! オーロラは可愛いよ。それに僕はクラス委員だよ? クラスメイトのことはよく見るようにしてるんだ。だからオーロラのいいところだってたくさん知っているよ。きみは普段誰よりもよく笑うじゃないか。僕はそんなきみの笑顔をついつい目で追ってしまうんだ。だからきみには笑っていて欲しい」
アレクサンダーは照れているのか顔が赤くなっていた。
「私、初めてそんなこと言ってもらえた。嬉しい……」
オーロラはアレクサンダーの前でまた涙を浮かべてしまったが、今回は以前とは違って悲しいからではなかった。
◇◇◇
八年後、オーロラは二十五歳になっていた。大人になって思春期ニキビもなくなったオーロラは誰もが振り向くほどの美人になっていた。
ある日、オーロラは街に買い物に来ていた。その隣には小さな女の子とアレクサンダーの姿があった。あれからオーロラとアレクサンダーは少しずつ距離が近付いていき、二十歳の時に結婚し、子宝にも恵まれた。
買い物中、オーロラは道端に座り込んで昼間から酒を飲んでいる太った薄毛の男に気付いた。オーロラは娘をそのガラの悪い男から遠ざけるように移動させた。その瞬間、何かに気付いて思わずアレクサンダーの腕をつかんだ。
「どうしたんだい驚いた顔をして……。あっ、あいつ……ジェイコブじゃないか」
オーロラとアレクサンダーは気付かれないように急いでその場から離れた。
「ジェイコブ……浮浪者みたいだった」
「そうだね。……オーロラには言わないようにしていたけど、あいつがひどいことになっているのは実は知っていたんだ。去年、学生時代の友人たちとのパーティーに出席しただろ? そこでジェイコブの話を聞いていたんだ。あいつがどうなったか、知りたいなら言うけど聞くかい?」
オーロラはしばらく考え込んでから答えた。
「うん。聞かないといけない気がする」
「わかった。初めに言っておくけどオーロラに責任はないからね。ジェイコブはあれから女癖が治らなかったらしくてね。父親に勘当されたらしいんだ。それで女のところを渡り歩いていたらしいんだが、二十歳のころにはもう……髪がね……なくなってきたらしくて。彼は女性みたいに綺麗な顔をしていたから薄毛なのが妙に気味悪く見えたらしい。それ以来女性にも相手にされなくなって自暴自棄になり今度はどんどんと太ったって噂だよ。まぁ正直に言うとパーティーで笑いものにされていたね。僕も今見るまでは信じられなかったよ……」
「そうだったんだ……。そういえば太っているのも薄毛なのもジェイコブのお父さんにそっくりだった。きっと遺伝なのね」
そういうと二人は顔を合わせて大笑いした。二人とも人の不幸を笑うタイプではない。しかし、不謹慎だとは思っていたがジェイコブの呪縛から解放された気がして思わず笑ってしまったのだ。
婚約破棄をきっかけに幸せを掴んだオーロラは、優しい夫と可愛い娘に囲まれてこれからも幸せに暮らしたのだった。皮肉なことにジェイコブとはまさに対照的であった。
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