【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ

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当然あなたが幼馴染の令嬢と不倫していることは知っています。ですが責めません。わたくしには責める資格がありませんから

第一話 責める資格

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「お久しぶりです、マリアさん。本日も主人と魔法の訓練ですか?」

 そう質問されたのは男爵令嬢のマリアである。
 マリアの美しい銀髪は、微風に揺れながら、彼女の上品な顔立ちを一層際立たせていた。
 空の色の綺麗なドレスは微細な魔法の刺繍が施され、太陽の光を受けてきらめいている。彼女の姿勢は優雅であり、まるで彼女自身の内面の自信を表しているようだった。

「お久しぶりです、カトリーヌ様」

 マリアはスカートの裾を摘み、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を曲げて少し身体を落としながら挨拶した。彼女の身のこなしはまるで舞台で踊るような優雅さがあり、その一挙手一投足からも上流階級の出自が感じられた。

「そうです。小さい頃からやっていることなので少しでも間が空いてしまうと気持ちが悪くって。……魔力も定期的に放出しないとですし」

 マリアは微笑みと共に言葉を選びながら言った。

「そうみたいですね。あいにくわたくし魔法の才能がないので、放出しないと気持ち悪いという感覚がわかりません。でも、主人もよくそう言っていますわ」

 カトリーヌもマリアと同様に微笑んでいる。
 カトリーヌのエメラルドのような透き通った緑色の瞳がマリアを見つめている。

「口では伝えにくいですからね」

「主人から『魔法訓練中は危険だから塔には近づくな』と言われておりますので、何かありましたらこちらまでいらしてくださいね」

「はい。ありがとうございます」

 こうして穏やかにふたりの挨拶が終わった。
 カトリーヌは公爵である夫アントーニオが幼馴染の男爵令嬢マリアと不倫をしていることを知っていた。女癖の悪いアントーニオはこれまで何人もの女を連れ込んでいるがマリアが訪れる頻度は突出していた。

(魔法の訓練だなんてよくそんな嘘を考えたものね。いったい何を放出してスッキリするのだか。隠すつもりならあのモンスターの鳴き声のように大きなマリアの喘ぎ声をどうにかすれば良いのに)

 カトリーヌはアントーニオとマリアの関係を結婚当初から知っている。

(アントーニオも良い人ではあるのよね、わたしになんでもくれるし、お金もある。なにより子供を自分の命より大事にしているのよね)

 カトリーヌはアントーニオの不倫を問い詰めることをしなかった。
 なぜならば、自分に不倫している事実を責める資格がないことを誰よりも知っているからである。
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