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汚くて臭いからと言われ領主の息子に大切な孤児院が潰されそうになったので婚約破棄を決意する令嬢
第一話 理不尽な要求
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「この教会の孤児院を廃止する! 孤児たちに今すぐ出ていく準備をさせて10日後までに出て行かせろ!」
領主の息子であるオリバーは教会のシスターを呼びつけて一方的にそう言い放った。
「なぜでしょうか? 理由をお聞かせください。ここには13人の孤児がいます。1人や2人であればどうにかなるかもしれません。しかし、13人です。これから冬が来ます、今ここを潰されてしまうと孤児たちは生きていくことが出来ません」
年配のシスターが怒りを押し殺して精一杯丁寧な口調でオリバーに訴えかけた。
「無駄に歴史だけはある教会だからと、領主である我が父の情けで教会に援助をしている。決して少なくない寄付をしているのだ。その領主である父の許しを得て、私が孤児院を潰すと言っている。理由など必要ない!」
傲慢な声が、空気中に響き渡った。彼の目は鋭く光り、口元には不快そうな笑みが浮かんでいた。
「お言葉ですがオリバー様、孤児院は寄付と子供たちの仕事で生計を立てております。子供たちは決して安全とは言えない山の中へ入り、山菜を摘み、木の実を拾い、教会の裏手で一生懸命ニワトリとウサギを育てています。子供たちは生きるためにその小さな体で出来る限り精一杯働いているのです」
年配のシスターはオリバーに食い下がった。しかし、オリバーにはその訴えは効果がなかった。
「はぁ……ではハッキリと言ってやろう。その家畜小屋が臭くてたまらないのだ! それになんだその子供たちは。ボロボロの布きれを身にまとい、家畜のように汚くて臭いではないか!」
彼の視線は、隠れて様子を見ていた子供たちに向けられた。彼らは決して綺麗とは言えない衣服を身にまとっていた。
「私が先日公爵家令嬢と婚約したのは聞いているだろう? その婚約者がこの教会を見たいと言っていてな。10日後に見に来ることになったのだ。その時にこんな汚い家畜と汚いガキがいると彼女に不快な思いをさせてしまうだろう? わかったな? 臭い、汚い、それが孤児院を廃止する正当な理由だ!」
オリバーの声には蔑みと嫌悪が滲み出ていた。彼の余りに理不尽な主張にその場にいた全員が言葉を失った。子供たちの中の数人はその言葉を聞いて情けなく思ったのか、はたまた悲しくなったのか、大声で泣き出してしまった。
「……それだけの理由で? それだけの理由で孤児院を潰すなんて言ってるの?」
若いシスターが呟くように言った。
「なんだお前は? それだけとはなんだ? 十分な理由だろう。無学な貴様はわからないだろうが公爵家といえば我が伯爵家よりも爵位が高いのだ。そこの令嬢だぞ? お前みたいな地味で貧乏くさい女とは比べ物にならないほど高貴なお方だ。その方にこんな汚物を見せるわけにはいかないだろう。まったくそんなこともわからないとは呆れるくらいに馬鹿だな。大馬鹿者だ。まぁいい、とにかくガキを追い出す準備をしておけよ」
オリバーはそう言い残して足早に去ってしまった。若いシスターは小さく震えながら泣いている。そして小さい声で呟いた。
「みんなごめんね……」
領主の息子であるオリバーは教会のシスターを呼びつけて一方的にそう言い放った。
「なぜでしょうか? 理由をお聞かせください。ここには13人の孤児がいます。1人や2人であればどうにかなるかもしれません。しかし、13人です。これから冬が来ます、今ここを潰されてしまうと孤児たちは生きていくことが出来ません」
年配のシスターが怒りを押し殺して精一杯丁寧な口調でオリバーに訴えかけた。
「無駄に歴史だけはある教会だからと、領主である我が父の情けで教会に援助をしている。決して少なくない寄付をしているのだ。その領主である父の許しを得て、私が孤児院を潰すと言っている。理由など必要ない!」
傲慢な声が、空気中に響き渡った。彼の目は鋭く光り、口元には不快そうな笑みが浮かんでいた。
「お言葉ですがオリバー様、孤児院は寄付と子供たちの仕事で生計を立てております。子供たちは決して安全とは言えない山の中へ入り、山菜を摘み、木の実を拾い、教会の裏手で一生懸命ニワトリとウサギを育てています。子供たちは生きるためにその小さな体で出来る限り精一杯働いているのです」
年配のシスターはオリバーに食い下がった。しかし、オリバーにはその訴えは効果がなかった。
「はぁ……ではハッキリと言ってやろう。その家畜小屋が臭くてたまらないのだ! それになんだその子供たちは。ボロボロの布きれを身にまとい、家畜のように汚くて臭いではないか!」
彼の視線は、隠れて様子を見ていた子供たちに向けられた。彼らは決して綺麗とは言えない衣服を身にまとっていた。
「私が先日公爵家令嬢と婚約したのは聞いているだろう? その婚約者がこの教会を見たいと言っていてな。10日後に見に来ることになったのだ。その時にこんな汚い家畜と汚いガキがいると彼女に不快な思いをさせてしまうだろう? わかったな? 臭い、汚い、それが孤児院を廃止する正当な理由だ!」
オリバーの声には蔑みと嫌悪が滲み出ていた。彼の余りに理不尽な主張にその場にいた全員が言葉を失った。子供たちの中の数人はその言葉を聞いて情けなく思ったのか、はたまた悲しくなったのか、大声で泣き出してしまった。
「……それだけの理由で? それだけの理由で孤児院を潰すなんて言ってるの?」
若いシスターが呟くように言った。
「なんだお前は? それだけとはなんだ? 十分な理由だろう。無学な貴様はわからないだろうが公爵家といえば我が伯爵家よりも爵位が高いのだ。そこの令嬢だぞ? お前みたいな地味で貧乏くさい女とは比べ物にならないほど高貴なお方だ。その方にこんな汚物を見せるわけにはいかないだろう。まったくそんなこともわからないとは呆れるくらいに馬鹿だな。大馬鹿者だ。まぁいい、とにかくガキを追い出す準備をしておけよ」
オリバーはそう言い残して足早に去ってしまった。若いシスターは小さく震えながら泣いている。そして小さい声で呟いた。
「みんなごめんね……」
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