君の想い

向日葵

文字の大きさ
6 / 15

#6

しおりを挟む
その後個室に入り、15分ほど聴力検査をしたけれど、結果は芳しいものではなかった。
『その時に聞こえた音がどういったことで、そう聞こえたのか、私としては推察のしようがないのですが‥』
先生は難しそうな表情でメモ帳に書いた。
『検査の結果からすれば、聴力には特に何の変化もありません。何とも言えませんね』

最初は真剣な顔で読んでいたひかりでしたが、やがて暗く沈んでいきました。
『そうですか‥』

翌日も、その翌日も、相変わらずひかりの耳に変化が起きることはなかった。けれどまた数日後、ひかりは再び逢うことになった。
通勤の帰り。疲れて目が少しトロンとしてドア口に立っていたひかり。乗車してから二駅の頃、黒っぽいデニムを着た見覚えのある男性が開いたドアから乗車してきたのだ。眠たげだった目が一気に覚めて、ひかりは男性を見た。あの時。耳が聞こえたあの時の男性だった。ずっと見つめるひかりに気づいたのか気づいていないのか、男性は一度咳をすると、ドア口にもたれ掛かるようにしてドア窓から景色を見た。
ひかりは出ない声をかけることも出来ず数分、男性を見つめていたが、やがてガタンガタンという電車の振動に後押しされるようにして、男性の肩をトントンと叩いた。男性はふいとこちらを見て。ひかりは覚えたての手話を話すようにして挨拶をした。
『こんにちは、ちょっと宜しいですか?』
けれど男性は、一瞬しかめるような顔をして、「分からない」と言いながら手を振った。ひかりは慌てて、身につけていた鞄からメモ帳を取り出す。走り書きで、ひかりは書いた。
『この前この電車に乗った時、聞こえないはずのあなたの声が聞こえました』
そうして男性を見たが、男性は特に表情を変えなかった。
『あなたは私に“気にするな”と言いました。知りませんか?』
再び見ると、男性は一瞬目を泳がせて。またすぐに窓の外に目をやった。
『あの‥』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

私が……王太子……のはずだったのに??

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と朝を迎えたら……城下が騒がしい……?? 一体……何が起きているのか……??

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ある国立学院内の生徒指導室にて

よもぎ
ファンタジー
とある王国にある国立学院、その指導室に呼び出しを受けた生徒が数人。男女それぞれの指導担当が「指導」するお話。 生徒指導の担当目線で話が進みます。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...