君の想い

向日葵

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#15

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急に立ち止まった男性に、ひかりは出ない声でどうしたんですか、と尋ねる。男性はかばうようにしてひかりを玄関口へと押しのけた。走り出てきたのは女性が言っていた通り、茶髪で耳にいくつものピアスをつけた荒っぽい男だった。
「誰だお前!」
「こんにちは、初めまして。香織さんの知り合いなんですが…」
そう言った男性だったが、男は全く聞かなかった。一方的に走ってくると、酒に酔っているのか勝手につまずいて床に転倒し、男性はそこをすかさず、その手を掴んだ。最初は男性の腕を必死で叩いていた男。だがやがて驚くほど静かになり、男性が手を放す頃には一人、泣き始めた。そこでようやく、男性はひかりを振り返るとほっとしたように小さく微笑んだ。
「もう…大丈夫です」
ひかりは玄関口の隅に目立たないように身を寄せていた。そうして頷く。




「私の…想いですか?」
女性は男性に尋ねた。男性は頷く。
「瞬君にもさきほどやったんですが、私、人の記憶やその人の想いや感情を触れた相手に伝える力があるんです」
女性は疲れ切った様子でしたが、はぁ、と言って頷く。
「どうでしょう?あなたのこれまでの気持ち、旦那さんに思いっきりぶつけてみませんか?」

ひかりは男性が男の子の部屋で言った言葉を思い出していた。
『あなたの頭の中の声だったんですね、あの時の声は』
ひかりは帰りの電車の中で、隣の篠山に走り書きしたメモ帳をみせた。篠山は読むと、僅かに穏やかな顔をしたように見えた。
「また聞こえるといいな」
不完全な声で、ひかりは呟いた。するとその言葉を拾うように、篠山はひかりのメモ帳に同じように走り書きした。
『ちょっと手をつないでくれませんか?』
ひかりは首を傾げた。そしてどこか嬉しげに片手を差し出す。
篠山がその手を取った時、ひかりはまたどこかに流れ落ちた。目の前に広がったのは、田舎の田んぼの風景。青空を飛ぶように田んぼの上を進み、やがて電線の上に留まる。そこにいたのは雀。何匹かの雀が飛んできて、電線に次々に留まる。その鳴き声もひかりは何年ぶりの声か。嬉しさが込み上げてきた頃、ひかりはまたもとの電車の中に流れ落ちた。
『雀』
ひかりは喜びのあまり言った。
『雀!雀!』
篠山はどこかくすぐったそうに、初めてひかりに素直な笑顔を見せた。

ピンポン、ピンポン。間もなく…。
アナウンスが車内を巡って、篠山はひかりの手をトントンと叩いた。
『じゃぁ今日はこれで』
メモ帳に走り書きすると、篠山は席から立ちあがる。
「また、会えますか?」
ひかりは不完全な声で、篠山に思わず言った。篠山は一瞬驚いた顔をしたが、やがてにこりと笑んだ。
それから少し、電車はまた次の駅に到着し、ひかりは下車した。そして、ひかりはまたあの駅員さんに会うことになった。
『今日はどこに行かれてたんですか?』
駅員さんは尋ねてきた。ひかりはにっこりと笑った。
『素敵な人に会ったんです』
え、と駅員さんは面食らったような顔をした。少しだけ寂しげな、そしてどこか嬉しげな。
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