14 / 15
#14
しおりを挟む
「こんな…こんな熊」
女性の半ば恨めし気な声に、男の子は何か言いたげで。でも、実際に何かを言うことはなかった。
「こんなのじゃ、私の人生は変わらないの、いくら好きなものをくれたって」
男の子が何も言えずにいて。ひかりは思わず、女性に何かを言おうとした。しかし、男性がそれを止める。
「ちょっと待って」
男性は小さな声で言った。
「でも…」
男の子がようやく何かを言おうとした。
男性は男の子を見て、ひかりも追うように見た。
「でも、僕にもできることが何かあると思うんです」
相変わらずイラついた様子の女性に、男性は女性が持っている熊のキーホルダーを掴んだ。
「お分かりですか?」
男性はそう言います。ひかりはきょとんとして女性と同じように男性を見た。男性は熊のぬいぐるみをもごもごと触る。すると、むいぐるみの端に切れ目ができて、中から何か黒いものが出てきたのだ。
ひかりが目を丸くしていると、男性は女性に言った。
「これ、中身が防犯ブザーなんです」
そう言って男性がぬいぐるみを押すと、途端にけたたましい音が響いた。女性は一瞬耳を塞いで、それから男性と男の子を見て、瞬く。
「僕が…」
男の子が勇気を出すようにして女性に言った。
「僕が助けてあげるから」
女性は男の子を見た。
「僕が助けに行ってあげるから」
男の子は、まっすぐな目で女性を見つめる。女性は投げやりな目つきで男の子を見ていたが、やがて歯を食いしばるようにして頭を振った。あぁ、と叫んだかと思えば、女性はその場に座り込む。ガクッと折れて、女性は男性が手放した熊のぬいぐるみを握りしめた。それからはぁ、と息を吐くと、何かを捨てるように話した。
「前はね、優しかったのよ、凄く。家事も手伝ってくれて。一緒に笑って。ホントに楽しかったの。」
女性は手の中で、ぬいぐるみをねじる。
「だけど、いつの間にか…どこでどうなったのか、彼、私に当たるようになって」
もう、女性は何も見てはいないようだった。
「どうしてなのかなぁ…何で…何で…」
女性の定まらない視線を、男の子は黙って見ている。そうして女性は何もお言わなくなった。男の子も黙っていて。その流れを一掃したのは、男性だった。
「香織さん、瞬君。いい方法が一つだけあるのですが…」
男性とひかりは、女性の家の前に来ていた。玄関のドアを開ける前、ノブを掴んだまま、男性はひかりに言った。
「旦那さんがもし何かするようでしたら、私のことは放っておいていいですから、構わずここから逃げてください。いいですね?」
ひかりが、おぼつかなく頷くと、男性はノブをひねった。
開けた途端、聞こえたのは男の声だった。
カオリ、そう呼ぶ声が聞こえる。
「旦那さんですか?失礼します」
男性がそう大声で言うと、急に静かな空気が流れ、バタバタと音が聞こえた。
女性の半ば恨めし気な声に、男の子は何か言いたげで。でも、実際に何かを言うことはなかった。
「こんなのじゃ、私の人生は変わらないの、いくら好きなものをくれたって」
男の子が何も言えずにいて。ひかりは思わず、女性に何かを言おうとした。しかし、男性がそれを止める。
「ちょっと待って」
男性は小さな声で言った。
「でも…」
男の子がようやく何かを言おうとした。
男性は男の子を見て、ひかりも追うように見た。
「でも、僕にもできることが何かあると思うんです」
相変わらずイラついた様子の女性に、男性は女性が持っている熊のキーホルダーを掴んだ。
「お分かりですか?」
男性はそう言います。ひかりはきょとんとして女性と同じように男性を見た。男性は熊のぬいぐるみをもごもごと触る。すると、むいぐるみの端に切れ目ができて、中から何か黒いものが出てきたのだ。
ひかりが目を丸くしていると、男性は女性に言った。
「これ、中身が防犯ブザーなんです」
そう言って男性がぬいぐるみを押すと、途端にけたたましい音が響いた。女性は一瞬耳を塞いで、それから男性と男の子を見て、瞬く。
「僕が…」
男の子が勇気を出すようにして女性に言った。
「僕が助けてあげるから」
女性は男の子を見た。
「僕が助けに行ってあげるから」
男の子は、まっすぐな目で女性を見つめる。女性は投げやりな目つきで男の子を見ていたが、やがて歯を食いしばるようにして頭を振った。あぁ、と叫んだかと思えば、女性はその場に座り込む。ガクッと折れて、女性は男性が手放した熊のぬいぐるみを握りしめた。それからはぁ、と息を吐くと、何かを捨てるように話した。
「前はね、優しかったのよ、凄く。家事も手伝ってくれて。一緒に笑って。ホントに楽しかったの。」
女性は手の中で、ぬいぐるみをねじる。
「だけど、いつの間にか…どこでどうなったのか、彼、私に当たるようになって」
もう、女性は何も見てはいないようだった。
「どうしてなのかなぁ…何で…何で…」
女性の定まらない視線を、男の子は黙って見ている。そうして女性は何もお言わなくなった。男の子も黙っていて。その流れを一掃したのは、男性だった。
「香織さん、瞬君。いい方法が一つだけあるのですが…」
男性とひかりは、女性の家の前に来ていた。玄関のドアを開ける前、ノブを掴んだまま、男性はひかりに言った。
「旦那さんがもし何かするようでしたら、私のことは放っておいていいですから、構わずここから逃げてください。いいですね?」
ひかりが、おぼつかなく頷くと、男性はノブをひねった。
開けた途端、聞こえたのは男の声だった。
カオリ、そう呼ぶ声が聞こえる。
「旦那さんですか?失礼します」
男性がそう大声で言うと、急に静かな空気が流れ、バタバタと音が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる