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第1章 異世界転移

第4話

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ズルズルズルッッ!!

 昔の某有名ホラー映画のように〈女神様〉がモニター画面から這い出して、ゆらり……と立ち上がる。

「ひぃっ!? 」

 怖っ!? 何なんだいったい。
 怯えまくりのアイが、震えながら更にギュッと俺にしがみついてくる。

 そのまま、ゆらり、ゆらり、と身体を揺らした後、クルッとターンをして!?

「私、参上! 光と慈愛の女神、アフィーちゃん大・降・臨!! 」

満面の笑顔でポーズを決める女神様に俺は……、

 スパーーーーーーン!!

と、手にしたハリセンを振り下ろし、全力でツッこんだ。

「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!  大・降・臨!!じゃねぇわっ!!  お前はどこの貞◯だよっ! さっきから、自由か!自由ですかっ!? いい加減にしろぉぉぉぉぉっ!! 」
「なっ!? なななななんて事すんのよ!  私、女神なのよ! 創造神にも打たれた事ないのにっ!! 」

 スッパァーーーンッ!!

 ツッコミ2nd、叩かれた頭を押さえながら、アフィーが涙目で抗議をしてくるが、却下だ却下! 知ったこっちゃない。

「やかましいわ! あと、さらっとネタ混ぜてくんな。……小さくガッツポーズ取ってんじゃねぇ! やっぱりワザとかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」

 もうヤダ、この駄女神自由過ぎる……。

「まあまあ、落ち着きなさいよ、大の男が大声あげてちゃみっともないわよ? 」

 こっちの気も知らずに超マイペース駄女神が あっはっは~と笑う。



 ………………プチン!


「え…?プチン? 」

 無言のまま右手を伸ばせば、手のひらには握り慣れた、冷たく硬い感触が生まれる。そのままピタリと駄女神に向けて…………、

 ドンッ!ドンッ!ドンッ!!

 迷わず引き鉄を引いてやった。

「えっ!?  うわっ! ちょっ!?  うひぃっ!?  」
「マッ、マスター!?  いけません! 」

 アイが焦った声で俺に取り縋り制止しようとするが、

「どけ、アイ。そいつを殺せない 」
「うぅ~、アイちゃん!私の味方は貴女だけよぉ~ 」
「ダメです。 死体は情報を吐きません(キッパリ) 」
「…………………… 」

至極冷静に事実を告げるアイの言葉に、駄女神はダーっと目の幅涙を流していた……。

「チッ!仕方がないか…… 」

 俺は渋々ながら駄女神から銃口を外す。

「チッ!って言いましたね!チッ!って言いましたね!?  だいたい、さっきのハリセンといい、そんな物騒なモノ、どっから出したんですかぁ!? 」

 涙目の駄女神が、必死に抗議してくるが、知らん知らん。

「あん?此処は元々俺が構築した電脳空間だぞ?いわば明晰夢自由になる夢みたいなモノだ。色々なモノがプログラムしてあんだよ。 ちなみにコレはハッキングしてきたバカ共に撃ち込む攻性プログラムを具現化したもんだ。さっきのハリセンでも叩けたし、俺の電脳空間この世界に同調している今なら、効果があるんじゃないか? 」

 俺はニィっと口の端を吊り上げて笑いながら、再度銃口を掲げ、今度は ”本当に”眉間に狙いを合わせた。

「ひいぃぃっ!? そんな〈悪意〉と〈崩壊〉が詰まったモノを向けるのはやめて下さい!そんなモノを、撃ち込まれたら、《呪詛》を受けたのと同じようになっちゃうじゃないですか!! 」
「やかましいわ!お前がふざけてばっかりだから話が進まないんだろうがっ!! 」
「どうも申し訳ありませんでしたぁっ!! 」

 と、間髪入れずに土下座を決める自称女神様……。無駄に綺麗な土下座である……。

「はぁ……、まぁいい、んじゃあ、知ってる情報は全て話してもらおうか? 」
「うぅっ……、アイちゃんのご主人様だから優しい人だと思ったのにぃ…… 」

 ーーチャキッ!ーー

「まだ何か文句でも? 」
「ありません!全てお話しさせていただきますぅっ!! 」

 分かりゃいいんだ、分かりゃ。

「……じゃあ、そうだな、先ずは根本的なところから聞こうか。
アンタは本当に神様なのか? さっきからの姿を見てると、とても信じ難いんだが? 」
「あはっ、あはは……申し訳ありませんでした。少々おふざけが過ぎましたね、では…… 」

 女神様アフィーちゃんがゆっくりと目を閉じると、光の渦が彼女を包み込む。そして、光の渦が解けたそこには、制服コスの駄女神ではなく、本当の女神が佇んでいた。

「改めて自己紹介させていただきますね、七柱の最高管理神の一柱にして、全ての光、そして慈愛を司らせて頂いております、アフィラマゼンダと申します 」
「……っ!? 」

 慈愛に満ちた微笑み、白を基調としたゆったりとした衣を纏い、その姿は柔らかで清浄な光に包まれていた。
 その容貌は何も変わっていない、だが、全てが違う。
 一瞬、その美しさに眼を奪われ、圧倒的な神気にさらされ、今にも頭を垂れ、膝を屈して膝まづきたくなってしまう……。
 完全に”格上”の存在へと変わってしまっていた。

「最初からその姿だったら話は早かったんだがな…… 」

 俺は不機嫌そうにそっぽを向き、負け惜しみのような悪態をつくのが精一杯だった。

「ふふ、申し訳ありません、新しき生命、可能性の誕生に少々舞い上がってしまいました 」

 女神様がふわりと微笑む。……さっきまでと全然違うじゃねーかよ、調子狂うぜ……。

「それだ! アイはどうして……、アンタ、いや、貴女がアイに生命を与えてくれたのか? 」
「〈与えた〉……とは少し違いますね、私は彼女の背中を少し押してあげただけですよ ?」
「よく解らないんだが……? 」
「彼女が自我を得て、生命体へと至るには幾つかの条件がありましたが、今はやめておきましょう 」

「なぜだ!? 教えてくれてもいいじゃないか! 」

 少しだけ困った表情を浮かべながら、女神が首をふる。

「ダメです。だって、ヒロトさんは今、理解出来ない事が多すぎて、すごく混乱していませんか?この空間であれば、いつでもという訳にはいきませんが、またお会いすることができます。またその時にしませんか? 」

 確かに。今俺は訳が分からない事が多すぎて混乱していると思う。また会えるというならば、その方がいいのかもしれない。

「ですが、そうですね?大きな要因を、二つだけお教えしましょう。まず一つは、あなたが使う武術、【玖珂流闘氣術・改】にあります 」

「玖珂流闘気術に? 」

 【玖珂流闘氣術】は、俺の養父でもある玖珂少佐の家に代々伝わる総合戦闘術だ。 開祖は戦国時代の頃だと言っていたが、とにかく戦場で勝つ為、強くなる為に、槍や刀の他、無手の格闘を含め色々な流派の長所を取り入れ、かつ削ぎ落として造りあげられた戦闘術だ。
 「玖珂」とは「九牙」、歩法や体術など、その奥義は九つに分類されるのだが、最大の特徴は流派名にある通り「氣」を使う事にあるだろう。
 闘氣を身体中に巡らせ、身体能力を数倍に高めたり、中国拳法から取り込んだらしい「硬体法 」硬玖夫で、生身のまま刃も通さないほどの防御力を得たりする事が出来る。
 また、手に持った得物に闘氣を纏わせて、斬れ味を何倍にも高めたりするなんて事もできるんだが、なんでも過去の達人の中には、その手に持てば例え「ひのきのぼう」のような木の枝でさえ、まるで名刀のように敵を鎧ごと斬り裂いたとか、果ては格闘ゲームのように闘氣を飛ばして所謂”遠当て”や斬撃が出来た者までいるという、ある意味デタラメな戦闘術だ。

 しかし、この「闘氣術」には意外にして、重大な欠点があった。

 義体の身体では、その積み重ねられた戦闘術は使えるものの、「氣」が十全に使えなかったのだ。

「氣」は血脈を通って全身に行き渡る。すると当然、人工物の義体では血管が通っていない為、「氣」の通り路も無い事になる。    どんな理屈かは知らないが、人工血液など、本物の血液以外の流体では、どんなに成分を似せようとも、なぜか「氣」をうまく通すことは出来なかった。また、義体化率が高くなるほど「氣」の通りが悪くなっていく為、脳を残すのみの全身完全義体では、全く「氣」を通せないという有り様だった。
 
 強さを求め、時代と共に常に新しい”力”を取り込んで来た玖珂流闘氣術だったが、事ここにきて、行き詰まりを見せたかに見えた。

 しかし、一人の男がその壁を打ち壊した。その男の名は「玖珂堂馬くが どうま 」後に俺の養父であり、師匠となる玖珂少佐その人である。

 玖珂少佐……、もう親父でいいか、親父は当然ながら玖珂流闘術の達人であり、武芸百般を修めていたが、やはり闘氣術による義体の身体能力向上はどうしても出来なかった。だが、長年の試行錯誤の末に、ある考えに辿り着いた。
 その考えとは、

「生身から義体になった事で、既に身体能力は格段に向上している。ならば、奥義たる九牙の内の一牙は既に成ったと捉えて、残りの八牙を磨き尖らすべし 」

 親父が取った方法とは、気付いてしまえば実に簡単な事だった。

「「氣 」を通すことが出来ないならば、刀や槍の如く「義体 」に纏わせてしまえばいい 」

 たかが木の枝ですら真剣と渡り合える武器に変えてしまえるなら、義体そのものを武器に「得物」として使用したならどれほどのものになるのか? 結果を言えばその成果は絶大だった。「中からがダメなら外 」……さすが、と言うべきか、言ってしまえば「コロンブスの卵 」的発想である。

 こうして「玖珂流闘氣術」は、親父の手によって更に義体用格闘術として改良、最適化が計られて【玖珂流闘氣術・改 】となり、またその歴史を歩み始めた。
 話が大分逸れてしまったが、俺はその正統後継者、という事になる。だが、なぜそれがアイの事と関係するのかがさっぱり分からない……。

「分かりませんか? 」

 怪訝な表情のまま首をかしげる俺を見て、また小さく笑った後に女神は話を続けた。

「どんなに義体を高性能な機体に変えようと、「闘氣術 」などを使わない限り、変えられないモノ、乗り越えられない壁があります。それは何だと思いますか? 」

 ……? 闘氣術を使わない限り越えられない壁?いったい……。と、そこまで考えたところで、ふと、一つのことに思い至る。

「……っ!?  感覚の増大、壱の牙【覚】かっ! 」

 正解を導き出した生徒を見るように、女神は微笑む。

「はい。では、「氣」とは何でしょう? 」
 
 は!? 「氣」とは?思いがけない質問に、答えに窮してしまう。

「「氣」?……ええと、「氣」とは……ん~、生命の波動……みたいな? 」

 いかん!? なんだ、みたいな?とか、おバカな女子高生みたいな受け答えをしてしまった! だが、女神はバカにすることもなく、優しく応えてくれた。

「間違いではありませんよ?一つの正解ではあります。ですが、正しくは、「氣」の正体とは【魔力】なのです 」

 女神の答えに、また一つ混乱ワードが増えた……。いやいやいやいや、でももう驚かんぞ。だって目の前に、一番の混乱物件がいるんだからな。

「魔力……ですか? 」
「はい。ところで、ヒロトさんは、今居る此処が、「地球」ではない……と、もう気付いていますか? 」
「…………まあ、うすうすは。地球には、あんなドラゴンみたいな生物は存在していませんしね? もしかしたら、そうじゃないかな?ぐらいで。 確信したのは、ついさっきですが…… 」

 俺の言葉に、女神様は満足そうにひとつ頷くと、続きを話し始めた。

「アイさんの記憶、メモリーで見ましたが、ヒロトさんはファンタジーな物語がお好きなようですね。であれば、話は早いでしょう。この世界の名は【イオニディア】貴方のよく知る言葉で言えば、異世界になりますね 」
「やっぱり…… 」
「貴方達の居た「地球」は非常に魔素、魔力の源となる元素の希薄な世界でした。貴方が使う「闘気術」とは、本来ならこの魔素を体内へと取り込み、魔力へと変換する技術なのです 」

 なるほど、確かに「闘気術」では、空手の「息吹」のように特殊な呼吸法が重要だ。しかし、それなら逆に疑問も浮かんでくる。

「?…じゃあなぜ、そんな魔素が希薄な世界で、わざわざ「闘気術」のような技術が生まれたんだ?」
「そうですね、……お話の中では魔法や魔術の事は登場するんですよね? 」
「ああ、あくまでファンタジー、想像上のモノだけどな 」
「でしたら、「地球」にも、かつては大量の魔素が存在していたのでしょう。しかし、「地球」を管理する神々が、その世界の進化に魔素の必要はないと判断して、徐々に少なくしていったのではないのでしょうか? 全くの0からでは、人は想像すらする事は出来ません。恐らく「地球」でも、遥かな昔には魔法や魔術が存在していたのではいでしょうか?」

 なるほど、「火の無いところに煙は立たない 」か……。

「ですが、その希薄な魔素の中でもそれらを強力に吸い上げ、行使し続けた事に大きな意味がありました 。人は、いえ、生物とは三層の構造で成り立っているのですよ。まず核である【魂】その核を覆う精神体である【アストラル体】、最後にそれらの器である【肉体】です 」

 ああ、何だか聞いた事があるな?確か神秘学だか何だかだったと思うが、本当だったのか……。

「先程、”越えられない壁”と言いましたが、どんな高性能の車でも、乗り手が良くなければ本当の性能を引き出すことは出来ませんね? 貴方は高性能の義体を十全にコントロールする為に「脳」を強化しているだけのつもりだったのでしょうが、貴方が【覚】を使う時、同時に精神体である【アストラル体】まで強化していたのですよ。そして、この【アストラル体】こそが魔力で構成されているモノなのです」

 初めて聞く話ばかりだが、何となく理解できる気がする。つまり、ハードの性能が良くてもソフトの性能が追いつかなくては意味が無いって事だよな?ただ、やっぱりまだよく分からない。

「それとアイに何の関係が? 」
「分かりませんか?「闘気術」を使用しなくても、人は体内に魔力体である【アストラル体】を持っているのですよ?そこへ更に魔素を流し込み続けた事で、余剰魔力が生まれ、貴方だけではなく、もう一つの【アストラル体】を創り上げたのです 」
「……!? まさか、それがアイの? 」
「はい。ですが、それだけではありません。ヒロトさん、かつて貴方は心を壊され、その治療の為に貴方に与えられた《アイ》さんに癒され、共に育つ中で、《アイ》さんが本当に”心”を持てばいいのに……と、強く強く想いましたね?実はそれが「二つ目」の理由です。その想い、強き願いが、貴方の知らぬ内に、その体内にアイさんの核を入れる為の『アストラルボディ 』と言うべきモノを形作っていったのです」

 話が壮大過ぎて、言葉が出てこない。ただの人の身ではまず知り得ない話だな……。


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