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第25章 対決‼︎ 元祖ゴーレム研究会
第229話 閑話 勇者様御一行は帰還中 2
しおりを挟む「 ーー『チェンジ!【HANUMAN】サポートガード‼︎ 』ーー ってなー‼︎ 」
「何よそれ?また何か変な仕掛けでもあるの?」
やたらと楽しそうなダイの笑顔に、ヒロトが関係したもので被ったアレコレが記憶をよぎり、微妙な顔になるティーリ。
「何で?ティーリには"アレ"があるじゃない?あれならこの程度の雑魚相手には無敵でしょ?」
「イヤよっ、あんな恥ずかしいのっ‼︎ "オーバーブーストフルドライブ"なんて、もう本当に本当に本当のいざって時にしか使わないんだからっ‼︎ 」
ティーリの武装【バスターフルート】は、〈魔導ジェネレーター〉を搭載した所謂"魔法機杖"である。更にはアシモフが開発した新式の〈制御用魔術回路》を刻印した魔晶石によって、"詠唱破棄"や"魔法自動詠唱"など様々な機能を持った優れものである。
しかも短時間ではあるが〈オーバーブーストフルドライブ〉という、意図的に〈魔導ジェネレーター〉を加速、暴走状態にする事で、使用者の身体能力や知覚能力までも数段階向上させる。という切り札まで持っているのだが、いかんせん、その開発元がロードベルク王国の【国家錬金術師】達なのである。
対外的には国家の「最高頭脳集団」だと思われている彼等だが、その実態は人生を趣味に懸けた"趣味人間"共の集まりだ。そんな連中が知らない場所でとんでもない事を仕出かさないよう、国の目の届くところに"一纏め"にしたのが始まり、という、放っておくと何を創り出すか分からない、文字通りマッドサイエンティストばかりなのだ。
そのまま作ればいいものを、余分な物を付け足して騒ぎを大きくするのが彼等のデフォルト。そんな【国家錬金術師】謹製の逸品が普通であるはずがない。
事実、バスターフルートはそのままでも破格の性能であるのに、わざわざヒロトに聞いた「魔法少女」を再現、フルドライブモードに組み込んでしまったのだ。お陰でティーリはバーニャとの勝負でキラリン☆する羽目になるわ、挙句に最後には魔力切れで衣装がボロボロになってほぼ裸の状態になってしまうという被害にあっていた。
バーニャとの勝負に勝つ為に、自ら不完全な試作品を使う選択をしたのはティーリ自身だが、そんな覚悟まではしていなかった。
結果的にフルドライブ使用後の惨状をヒロトから聞いていたダイが、すかさずマントを掛けてくれたから良かったものの、そんな被害を被ったのだ。ティーリが警戒してしまうのも無理はないだろう。
「だ~いじょうぶだってー。ほら、早くしないとアイツ等にヤラレちまうぜー?」
「わ、わかったわよ!えと…ーー『チェンジ!【HANUMAN】サポートガード‼︎ 』ーー !」
ーーー ミュンミュンミュンミュンミュン………! ーーー
ティーリが手を触れてイヤリングに魔力波動を流し、コマンドワードを叫ぶと、すぐさま【HANUMAN】に変化が生じる。
〈魔導ジェネレーター〉が唸りを上げ、サイドカーをパージした【HANUMAN】が立ち上がる。前輪と後輪のタイヤ部分は土へと戻りフォーク部分が胴体へと引き込まれるのと同時に、タンク部分から腕が飛び出して【HANUMAN】の変形は完了した。
「えっ⁉︎ な、何コレ!バイクがゴーレムにっ?」
「そう!これが【HANUMAN】の第二の形態、サポートガードモード、名付けてH・ガーディアンだーっ‼︎ 」
「す、すごいけど…、いったいどうすんのよコレ⁉︎ 」
「あ~~、そうだったなー。そのイヤリングが、そのまま操作用の魔道具になってっからー、同じように魔力波動を流しながら、命令すればいいぞー。「私を守れー」とか、大分アバウトでも大丈夫だからー 」
「えっと…、『私を守れ』?」
ティーリが命令を下すと、ズシュン、ズシュン、ズシュンと歩いて来た【HANUMAN】は、ティーリの前まで来ると彼女を背後に庇うように背中を向けて構えを取った。
「へえ、なかなか強そうね?これならダイと私が突撃してる間もティーリの守りは安心ね!」
「だろーー‼︎ 」
H・ガーディアン。二輪車型ゴーレム試作実験機の二号機であるこれは、ヒロトの乗る"プリシード"とはまた別のコンセプトによって作製された、変形機構を有する新型ゴーレムである。
ヒロトの"プリシード"が【強化外殻】を模した物に対して、【HANUMAN】は地球での"ASD"と同じ用途として、使用者の護衛、攻撃補助を主目的としている。
特筆すべきはアシモフの〈新型制御用術式〉の技術によって格段に向上した"核"となる魔晶石の処理能力だろう。
運用方法は通常のゴーレムと同じ術者による命令コマンド入力方式でありながら、そのコマンドの処理速度が飛躍的に速くなり、より複雑な命令にも対応出来るようになった。
また〈完全自律式〉のルクスヴィータのように自我意識は存在しないが、処理能力が上がった事で、いちいち細かく行動に対してのコマンドを入力しなくても、割とアバウトな命令でも広い選択肢の中から自ら選択して自律行動も取ることが出来るという、通常のそれを遥かに上回る自己判断能力を持った、まさに"魔道具式ASD"と呼んでもいい機体なのだった。
変形を終えた"H・ガーディアン"の雄姿を前に、ワイワイと盛り上がるダイ達に対して、襲撃側の盗賊集団「黒熊の熊爪」達は、突如として現れた新たなゴーレムの姿に襲撃の足を止め、激しく動揺しまくっていた。
「お、おい!何なんだよありゃあっ⁉︎ 」
「ゴ、ゴーレムだとっ? 」
「お、お頭!どうするんですっ?な、何だか強そうですよっ⁉︎ 」
親分らしき髭面の大男の号令の下、包囲の輪を縮めながら襲い掛かる寸前だった男達だったが、今は足を止めてダイ達を、もっとはっきり言ってしまえばH・ガーディアンを警戒しながらざわざわと騒めく。
そんな中、手下のひとりが自分では判断をつけかねたのか、親分へと指示を仰ぐ。
「馬鹿野郎、テメェ等オタオタしてんじゃねえっ!ゴーレムっつったって、あんな小せえヤツだろうが!それにな、ゴーレムを入れてもあっちは四人、こっちは三十人以上いるんだぞ?囲んで先にゴーレムを操っているヤツを押さえちまやあ問題無えだろうが!ビビってんじゃ無え、しっかりしやがれっ‼︎ 」
「そ、そうか!」
「そうだよな!あんな小っせえの、どうってこと無いよな!」
「俺達の方が数は多いんだし、やっちまおうぜ皆んな!」
『『『『『 おおぉーーーーーーっ‼︎ 』』』』』
と、H・ガーディアンの登場に、すっかり狼狽えていた盗賊団に親分の檄が飛ぶと、何故か体育会系のノリで気合いを入れなおす盗賊団の面々達。
そんな風に盗賊団達が勝手にビビったり数の優位を信じて気合いを入れなおしていた時、ダイ達は………、
「ねえねえ、強そうは強そうなんだけど、この子は守るだけ?攻撃とかは出来ないわけ?」
「いんやー? 全然出来るぜー。しかも、相当強い!」
こちらはこちらでH・ガーディアンをネタにまだ盛り上がっていた。
「〈魔力反応式人工魔導筋肉〉のお陰で、高ランク冒険者と比べても遜色無いパワーだしー、内蔵式の武器類も豊富だからなー 」
「へえ…!それはどんなのかちょっと見てみたいわね…!」
「いいぜー!ビビってた奴等も漸く動き出したみたいだしー、ティーリの練習相手には丁度良いだろ 」
再突撃を始めた「黒熊の熊爪」を横目で見ながら、ニヒッと意地悪く笑うダイ。
「じゃあティーリ、まずは小手調べなー。『ナックルキャノン!』って命令してみなー 」
「わかった。【HANUMAN】ナックルキャノンよ‼︎ 」
ティーリが出した攻撃コマンドに反応したH・ガーディアンは、左手を前に突き出す。すると、手首を中心に魔方陣が展開し、次の瞬間、手首から先が外れて高速で撃ち出された。
ーーー ドッゴオォォォォォォォォォンッ‼︎ ーーー
撃ち出された手首は正に"キャノン砲"の砲弾のように飛んでいき、盗賊団の密集した位置に着弾すると、直撃を受けた五人ほどの盗賊が、悲鳴と共に吹き飛ばされていく。
「「「「「 ぎゃああああああああああああああっ⁉︎ 」」」」」
「ああっ⁉︎ ゴーモ!キノワぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
「な、何だよありゃあっ?手が飛んで来やがったぞっ⁉︎ 」
何をしたかは分からないが、"何をされたのか"は分かる。大の男がたった一撃で何人も木っ端のように吹き飛ばされていく光景を信じられない思いで見ていた盗賊の男達が、一斉に騒然となる。
「ち、散れ!固まるな、バラバラに動いて狙いを着けさせるなっ‼︎ どんなに強い攻撃でも、いっぺんに狙いは着けられねえはずだ!」
意外な事に、状況に対して的確な親分の指示に、パニック寸前の状態に陥っていた男達は、ハッとなって慌てて動き出す。
「へえ…?あの髭面、元は傭兵かどこかの兵士だったのかしらね?意外と的確な指示を出してるわ。でもバラけちゃったわよ? 」
「ねえ、ダイ。手、飛んでっちゃったけど、次はどうするのよ?」
さすが元は王直属の特殊部隊だったバーニャと、ただの町娘だったティーリでは観点がまるで違う。それぞれがてんでバラバラな言葉を発する二人に苦笑しながら、ダイは言葉を返す。
「だーいじょうぶだ。ほら、繋がったワイヤーで巻き戻ってるだろー。そのまま振り回して鎖分銅みたいな攻撃だってできるぜー。それからバラけたって問題無しだ。次の攻撃はコレだーーーー‼︎ 」
ダイが新たな攻撃コマンドをティーリに伝え、すぐ様そのコマンドをH・ガーディアンに実行させるティーリ。
「【HANUMAN】ガトリング ディストラクション‼︎ 」
ガシュン、とティーリの命令に合わせてH・ガーディアンの頭部、人間の顔ならば口に当たる部分の装甲がスライドして、内蔵された銃身が露わになる。
「薙ぎ払えーーーー♪ 」
ーーー ヴゥオウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ‼︎‼︎ ーーー
『『『『『 うっぎゃああああああああああああああああああああああっっ‼︎‼︎⁉︎ 』』』』』
先程の「ナックルキャノン」を警戒して、なるべく密集しないようにバラけて進んでいたのだが、今度の攻撃は固まっていようといまいとまったく関係がなかった。
どんな攻撃か?など、"ガトリング"と名がついている以上、細かく説明する必要は無いだろう。唸りを上げて回転する銃身から数え切れないほど大量の魔力の弾丸が吐き出され、横殴りの豪雨などという表現では生温いほどの弾幕が右から左へと舐めるように「黒熊の熊爪」の男達を襲う。
これらの武装は全てルクスヴィータ達と同じで、これまでヒロトやアイが現存する兵器などを参考にして、かつて観たアニメや漫画の超兵器を再現したものだ。
本来であれば保有魔力の関係で、上位クラスの魔法使いでもなければここまで強力な攻撃を連続して続ける事は出来ないのだが、【HANUMAN】にはルクスヴィータ等と同じように〈魔導ジェネレーター〉が搭載されている為、周囲から魔素を吸収、いくらでも変換できる為に、魔力の弾丸は尽きること無く絶え間なく吐き出されていく。
しかも今回使用されているのは《雷魔弾》である。手や足など本来なら致命傷とならない場所であっても、着弾さえすれば全身が電撃によって麻痺状態となりバタバタと倒れて数を減らしていく盗賊団。
やがて銃声が止んだ時、三十人以上いたはずの盗賊団「黒熊の熊爪」は累々と地面に倒れ伏し、その中で立っていたのはたったひとり。あの髭面毛皮の親分だけであった。
「ほぉー…、しぶといな? けど、お前こいつ等の親分なんだろー? じゃあ、手下を弾除け代わりに使っちゃダメだろー?」
この戦闘が始まってからこっち、ずっと緩い感じだったダイが、初めて眦をきつくして親分を睨みつける。
そう、親分の男は手下の体を盾にして、襲って来た弾丸から身を守っていたのだ。
「ぐ、グググぐぐぐ…っ! うぅ、ウルせぇ煩えっ‼︎ み、皆んなみんなテメェ等が悪いんだろうが!舐めやがって、絶対許さねえ!ブッ殺してやらぁっ‼︎ 」
手下を全て潰され、破れかぶれとなったのか、斧を振り上げてただ真っ直ぐに突っ込んで来る親分の男。だが…?
「ナックル キャノン!」
ーーー ドゴムッ‼︎ ーーー
「ぐハァ…ッ⁉︎ 」
巻き戻していた左手を再度飛ばし、親分を殴り飛ばすティーリ。
「ふん!仲間を犠牲にするようなクズなんて、まともに相手してやるほど私は暇じゃないのよ!」
「わはは!さっすがティーリ。だなーー♪ 」
数十分後、身動き出来ないように手も足も縛られて、全員街道脇に転がされる「黒熊の熊爪」の盗賊一同。首から『私達は盗賊です。返り討ちに遭いました』という札までぶら下げてある念の入れようだ。
「ぷふっ、なかなか似合うじゃない 」
「自業自得よね 」
既に【HANUMAN】はバイク形態へと戻り、ダイ達三人は転がる盗賊団を見下ろしながら馬上の人?になっていた。
猿ぐつわまでされて喋ることも出来ない男達は、うーうーと唸りながら縋るような目付きで見てくるが…。自分達を陵辱した挙げ句に奴隷として売り飛ばす、と言ってのけた連中だけに、ティーリとバーニャは特に容赦無い。
「さぁてー。連れてけないんでなー、俺等が次の街まで着いたら、お前等のことを冒険者ギルドか衛兵に伝えてやる。運が良けりゃー魔獣も来ねえだろーよ。ま、今までの罪を噛み締めながら、それまでおとなしく転がってなー。じゃあな~~~~‼︎ 」
『『『『『 うー!うー!うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ‼︎‼︎ 』』』』』
うーうーと許しを訴える盗賊達を一切無視して、爆音だけを残してバイクは走り去っていく。
翌日の昼過ぎ、本当に運の良いことに魔獣や他の盗賊に襲われることも無く、次の街から派遣された冒険者と衛兵に全員保護された「黒熊の熊爪」の一同。だが、盗賊は捕縛されれば例外なく犯罪奴隷落ちに決定である。他人を害して糧を得ていた連中の"運の良さ"などここでソールドアウト。彼らの贖罪はここからが本当に始まるのだ。
そしてその頃ダイ達と言えば、一路ロードベルク王国を目指して帰還中であった。
「だからぁっ!速い速い、速いってば、ダイのバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎ 」
相変わらずティーリの叫びを響かせながら………。
応援ありがとうございます!
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