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第2章 第1異世界人発見
第9話
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反応を追って森の中を駆けてゆく。反応の動きを見ると、追っている側の連中は、こういった事に随分馴れているようだ。
俺達”零”とは比べるべくもないが、よく訓練されたであろう、中々に良い動きをしている。今も森のあちこちに散らばり、「追跡」「誘導」「待ち伏せ」と、完全に役割分担が決まっていて、上手く「獲物」を追い込んでいる。
誘い込んでいるな、コレは……。コイツ等の指揮官は、中々にデキる奴らしい。
案の定、反応へと追いついてみれば、少し開けた森の中、多数の男達が、追われていたらしき人物達を完全に包囲していた。そしてそこに居たのは……、
おおっ!? 銀髪に長い耳、褐色の肌!ファンタジー界のアイドル、ダークエルフさん!! そしてこちらも鉄板!ケモミミ娘!!………しかしもう一人、ダークエルフの男性は胸に矢を受けていて、かなりの重症のようだ。
やはり、というか、中々に訓練された一団らしい。全周囲を取り囲んでいるが、一人として弓矢の射線が重なっていない。傭兵か軍属か?とにかく足手まといの怪我人を抱えたままでは、どちらにせよ逃げることは叶わなかっただろう。
『マスター?助けてあげないのですか? 』
気配を完全に殺し、事の成り行きを見守る為に体勢を低くした俺に、アイが問いかけてくる。
「まあ待てよアイ。俺達は異邦人だ。 ーー『本当に幸せでした、御達者で…』ーー もしかしたら彼女達の方が悪人 ーー『約束が違うっ!?姫様ぁぁぁ!』ーー の方で、捕縛されようとしている ーー『馬鹿だなぁ!クハハハハハハハッ!!』ーー ……場面なの…かもしれない…! ーー『ラーナ!ラーナァァァァ!!』ーー ………………」
『あのぅ……、マスター? 』
「分かった。俺が悪かった…… 」
俺は気配を殺したまま、気まずい雰囲気を誤魔化すように即座に駆け出し、獣人少女を組み敷いている男達の背後へと移動した。
どっちが良いとか悪いとか、女の子を無理やり力ずくでどうこうしようとしてる時点で、決まったようなもんだ。
コイツ等、悪人、大・決・定!!
「なンだぁ?テメェは!どっから現れやがった! 」
頬傷の男の弟分らしき、下卑た顔の男が俺に凄んでくる……が、さっき「鑑定」でこの場の全員のステータスを確認してみたんだが、周りの弓矢を構えている連中が、およそLv30台、ここに居る男共が大体Lv40~50。頬傷の男だけは少しレベルが高くて、Lv63だった。
ちなみにダークエルフの女性はLv37、この獣人少女がLv34、ダークエルフの男性だけLv125と格段に高かった。
しかし、何故だろう?俺の今のレベルがLv52、レベルだけで言えば殆ど変わらないか、俺の方が低いんだが……、全く脅威を感じない?
「何とか言いやがれ!ブッ殺されてぇのか! 」
自分に自信があるのか、それとも周囲の全員が味方だからなのか、ますます田舎のヤンキーのように、俺に凄んでくる下卑男君。
こちらに向き直っていることで、少女を穢そうと丸出しにしていた”ナニ”が丸見えだ。
汚いモノを見せんな、あと口が臭い!
ーーパンッ! ゴギンッ!!ーー
ノーモーションで、無言のまま裏拳を振り抜く。すると、瞬時に下卑男から”物理的”に表情が消える。……比喩では無い、下卑男の顔だけが真後ろに向き、後頭部しか見えていないからだ。
「あぇ?」
何が自身の身に起きたのか、理解出来ないまま崩折れる下卑男。
残りの男共は、さすがにそこはLv40台という事か、得物を抜き、即座に切りかかってきた。やはり、よく訓練されているようだな? だが……、当たらない。
実は既に、【覚】も【虚】も発動、展開済みである。
男達にとっては、一体何が起きているのか、理解すら出来ていないだろう。理解出来ない現象に、怯えを感じ始めているのが有りありと判る。何せ、自分の剣が、自ら避けているように感じているのだろうから……。
「テメェ等!何遊んでやがる!さっさと殺せぇっ!! 」
首魁である頬傷の男からの戟が飛ぶ。その声に意を決したのか、三人は目配せを交わし、一斉に切りかかって来た。
ーーガッ!バギンッ!バギンッ!ーー
「「「っ!?」」」
男達の顔が驚愕の表情に染まる。今の一瞬で、俺が男達の剣を三本共へし折り、砕いたからだ。
ただし、一本は蹴り砕き、二本は握り潰しで、だが。
「チィっ!?」
それを見ていた頬傷の男が、舌打ちと共に片手を振り下ろし、周りを取り囲んでいる連中に合図を出すのが見えた。
「撃て!撃て撃て撃て!ぶち殺せぇぇぇぇっ!! 」
ーーヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ーーーー
頬傷の男の合図と共に、全方位から矢が打ち放たれて来る。容赦なく次々と襲い掛かってくるそれは、まるで嵐のようだ。
「そんなっ!? 頭、俺達がまだっ! ぐぁっ!? 」
「がっ…!? 」
「ぎゃっ!? 」
ほお……、俺を仕留める為に、躊躇無く味方ごと攻撃させるとは……少し見直したぜ。判断もいいし、部下をよく訓練してやがる。
最低の屑には違い無いが。
しかし、無駄だったな。【覚】によって感覚を引き上げた俺には、飛んで来る矢の一本、一本、周りを取り囲んだ連中一人ひとりの動きが全て見えている。
仲間の男達が矢の嵐に曝され、針ねずみのように何本もの矢を体に突き立てられ絶命していくなか、ゆらりゆらりと身体を揺らす俺には、まるで一本の矢も擦りもしない。
周囲に動揺と怯えが拡がっていくのが分かる。ゆらゆらと身体を揺らすだけで、特に避けている様子も見えないのに、どれほど矢を放っても、まるで矢が俺を擦り抜けているかのように、たったの一本すら当たらないのだ。
まあ、これもプテラゴンの時と同じ、”俺がやらせている”んだけどな。拡げた感覚によって、俺には全ての動きが見えている。そこに【虚】による歩法 ーーこの場合は身体の動きのみだがーー で、狙いをつける瞬間に位置やタイミングをずらしてやる。つまり、奴等は最初から”何も無いところ”を狙わさせられている訳だ。全く気付いていないだろうが。
「化け物………… !?」
やがて全ての矢を撃ち尽くした連中のなかの誰かが、呆然として呟いた。
『アイ、モード【アサルト】弾種は9ミリ。背後の敵は任せる 』
『イエス、マイマスター 』
ーータタタッ!タタタッ!タタタタタッ!!ーー
ホルスターから銃を引き抜き、掃射。小さく空気の破裂するような音が響き、連続して【魔弾】が放たれる。
「がっ!?」「ぎゃっ!?」「ウッ!?」「ぐぁっ!?」
【魔弾】をその身に喰らい、次々と倒れて行く男達。もはや立っているのは頬傷の男ただ一人しかいない。
「馬鹿な……、俺達『墓場の風』が、一瞬で全滅? しかも、たった一人相手にだとっ!? 何なんだよ、テメェは!! 」
あ、そんな名前だったのね?まぁ、どうでもいいが。
ほんの数秒で一人残らず手下を失い、さっきまでの余裕をすっかり失って狼狽える頬傷の男。
「……悪いな、もう少し我慢していてくれ 」
「えっ!?」
喚き立てる男から視線だけは外さないまま、膝を折り、着ていた外套をラーナと呼ばれていた獣人少女に掛けてやる。と、少女は自分が助かったという状況がまだよく飲み込めていないのか、キョトンとした表情で俺を見上げ、小さく驚きの声を上げた。
「別にどうでもいいだろう、そんな事は。俺が誰であろうが、お前の運命は変わらない。……『詰み』だ 」
少女を驚かせないように、ゆっくりと立ち上がり、男に向かって歩を進める。
「ンだとテメェ!こんなマネをして、タダじゃ済まねェぞ!」
「御託はいい、無駄口を叩いてないで、さっさとかかって来いよ。それなりのレベルなんだろ? 」
俺の言葉で自分のレベルを思い出したのか、はっとした後に、急に態度がデカくなる頬傷の男。
「そっ、そうだ!? クハハハハハハハ! 俺様のレベルは「Lv63」だゼぇ?何人手下を倒そうと、テメェじゃ俺にはかなわねェ!……だが、まぁどうだ、お前なかなかヤるじゃネェか。俺の下に付かねェか? そうだっ!? 今ならこのダークエルフをお前の好きにしてもイイぜ!好い身体だろう?な!どうだ?」
「…………馬鹿だろ、お前?何でわざわざお前みたいなカスの下に付かなきゃいけないんだ?いいからさっさとかかって来い。時間のムダだ 」
もう話すことは何も無い、とばかりに、指だけでチョイチョイと手招きして見せる。全く……、人に言われてから自分のレベルを思い出して、急に態度がデカくなるって、本気で馬鹿か?それに、自分より10も高いレベルなのに、やっぱりコイツにも何の脅威も感じない。
「きゃっ!? 」
「クソがっ!くたばりやがれっ!! 」
俺の挑発に、顔を真っ赤にした頬傷の男は、羽交い絞めにしていたダークエルフを俺に向けて突き飛ばし、その手に持っていた大剣を振り上げると、上段から一気に振り下ろしてきた。
なかなかの斬撃だが……? 俺を相手にするには全然足りなかったな。
「なん……だと!?」
突き飛ばされてきたダークエルフのお姫様を、”優しく”受け止めながら、男の渾身の一撃であろう斬撃を、右手の親指、人差し指の二本であっさりと掴み取る。そしてそのまま手首の捻りだけで大剣を取り上げ、ポイッとゴミのように投げ捨てると、
ーータンッタンッッ!!ーー
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!足が!足がぁ!? 」
ホルスターに戻していた拳銃を再度抜き【魔弾】で、男の両膝を撃ち抜いてやった。
「あ…っ!? 」
そこで腕に抱き留めていたお姫様を解放してやると、悲鳴をあげながら痛みにのたうち回る男に近づき顔面に蹴りを一発喰らわせる。
「煩えよ、黙れ 」
「ぎやっ!? 」
鼻骨が折れ、ダラダラと鼻から血を流す頬傷の男の頭を踏み付けながら、拳銃を突きつける。
「さて…、覚悟はいいか? 」
「…!? 待へ!待っへふれ!頼むふぁら!金ふぁら、いふらでも出ふふぁら!」
「いらねえよ、金なんざ。……だが、そうだな?お前等に、このダークエルフのお嬢さんを攫ってくるように依頼したのは誰だ?それを話せば考えてやらんでもないぞ? 」
銃口だけは向けたまま、踏み付けていた足だけどけてやる。すると、男は目を輝かせてペラペラと情報を吐いた。
「わっ、分かっふぁ!ヒギンズ男爵の馬鹿息子ふぁ!ア、アイツに頼まれふぁんふぁ!」
ふがふが言ってて聴き取り辛いが、確か「ヒギンズ男爵の馬鹿息子」って聞こえたな? こちらを見つめているダークエルフのお姫様に、チラっとだけ視線をやり、確認をとる。
「今の名前に聞き覚えは? 」
「えっ!? …あっ!……ある。…いや!…あります。私に言い寄っていた男の一人だ…です。貴族であることをかさにきた、嫌な男です 」
突然自分に話を振られ、一瞬戸惑った声を上げるお姫様。だが、さっきの獣人少女に比べれば、まだ状況判断が出来ているのか、真っ赤になって、詰まりながらも俺の問いに答える。
ん?なんか顔が赤いな。慌てた姿を見せてしまったのが恥ずかしいのかな?だが、焦りながらも、一生懸命丁寧な言葉に言い直そうとするのが可愛いじゃないか。
視線を頬傷の男へと戻し、再度確認を取る。
「今の名前は嘘じゃないな? 」
「嘘ひゃ無い!頼ふ、助けてふれ!! 」
威圧を込めた俺の問いに、真っ青になりながら、頬傷の男が必死に懇願してくる。だが…。
「そうやって命乞いをして来た相手を、何人殺した?何人いたぶって来たんだ? ……もういい、黙れ… 」
「ひっ!? ひゃめ!助けて…!? 」
ーードンッ!!ーー
男の言葉が、まだ終わらないうちに引き金を引いた。額に穴が開き、後頭部が爆ぜ割れて男は絶命した。
最後だけは”本物”の実弾を使った。弱者をいたぶり悦にいる姿が、本当に気に入らなかったからだ。
こうして「墓場の風」は全滅し、自らがその名と共に、墓場へと吹かれて消えた。
俺達”零”とは比べるべくもないが、よく訓練されたであろう、中々に良い動きをしている。今も森のあちこちに散らばり、「追跡」「誘導」「待ち伏せ」と、完全に役割分担が決まっていて、上手く「獲物」を追い込んでいる。
誘い込んでいるな、コレは……。コイツ等の指揮官は、中々にデキる奴らしい。
案の定、反応へと追いついてみれば、少し開けた森の中、多数の男達が、追われていたらしき人物達を完全に包囲していた。そしてそこに居たのは……、
おおっ!? 銀髪に長い耳、褐色の肌!ファンタジー界のアイドル、ダークエルフさん!! そしてこちらも鉄板!ケモミミ娘!!………しかしもう一人、ダークエルフの男性は胸に矢を受けていて、かなりの重症のようだ。
やはり、というか、中々に訓練された一団らしい。全周囲を取り囲んでいるが、一人として弓矢の射線が重なっていない。傭兵か軍属か?とにかく足手まといの怪我人を抱えたままでは、どちらにせよ逃げることは叶わなかっただろう。
『マスター?助けてあげないのですか? 』
気配を完全に殺し、事の成り行きを見守る為に体勢を低くした俺に、アイが問いかけてくる。
「まあ待てよアイ。俺達は異邦人だ。 ーー『本当に幸せでした、御達者で…』ーー もしかしたら彼女達の方が悪人 ーー『約束が違うっ!?姫様ぁぁぁ!』ーー の方で、捕縛されようとしている ーー『馬鹿だなぁ!クハハハハハハハッ!!』ーー ……場面なの…かもしれない…! ーー『ラーナ!ラーナァァァァ!!』ーー ………………」
『あのぅ……、マスター? 』
「分かった。俺が悪かった…… 」
俺は気配を殺したまま、気まずい雰囲気を誤魔化すように即座に駆け出し、獣人少女を組み敷いている男達の背後へと移動した。
どっちが良いとか悪いとか、女の子を無理やり力ずくでどうこうしようとしてる時点で、決まったようなもんだ。
コイツ等、悪人、大・決・定!!
「なンだぁ?テメェは!どっから現れやがった! 」
頬傷の男の弟分らしき、下卑た顔の男が俺に凄んでくる……が、さっき「鑑定」でこの場の全員のステータスを確認してみたんだが、周りの弓矢を構えている連中が、およそLv30台、ここに居る男共が大体Lv40~50。頬傷の男だけは少しレベルが高くて、Lv63だった。
ちなみにダークエルフの女性はLv37、この獣人少女がLv34、ダークエルフの男性だけLv125と格段に高かった。
しかし、何故だろう?俺の今のレベルがLv52、レベルだけで言えば殆ど変わらないか、俺の方が低いんだが……、全く脅威を感じない?
「何とか言いやがれ!ブッ殺されてぇのか! 」
自分に自信があるのか、それとも周囲の全員が味方だからなのか、ますます田舎のヤンキーのように、俺に凄んでくる下卑男君。
こちらに向き直っていることで、少女を穢そうと丸出しにしていた”ナニ”が丸見えだ。
汚いモノを見せんな、あと口が臭い!
ーーパンッ! ゴギンッ!!ーー
ノーモーションで、無言のまま裏拳を振り抜く。すると、瞬時に下卑男から”物理的”に表情が消える。……比喩では無い、下卑男の顔だけが真後ろに向き、後頭部しか見えていないからだ。
「あぇ?」
何が自身の身に起きたのか、理解出来ないまま崩折れる下卑男。
残りの男共は、さすがにそこはLv40台という事か、得物を抜き、即座に切りかかってきた。やはり、よく訓練されているようだな? だが……、当たらない。
実は既に、【覚】も【虚】も発動、展開済みである。
男達にとっては、一体何が起きているのか、理解すら出来ていないだろう。理解出来ない現象に、怯えを感じ始めているのが有りありと判る。何せ、自分の剣が、自ら避けているように感じているのだろうから……。
「テメェ等!何遊んでやがる!さっさと殺せぇっ!! 」
首魁である頬傷の男からの戟が飛ぶ。その声に意を決したのか、三人は目配せを交わし、一斉に切りかかって来た。
ーーガッ!バギンッ!バギンッ!ーー
「「「っ!?」」」
男達の顔が驚愕の表情に染まる。今の一瞬で、俺が男達の剣を三本共へし折り、砕いたからだ。
ただし、一本は蹴り砕き、二本は握り潰しで、だが。
「チィっ!?」
それを見ていた頬傷の男が、舌打ちと共に片手を振り下ろし、周りを取り囲んでいる連中に合図を出すのが見えた。
「撃て!撃て撃て撃て!ぶち殺せぇぇぇぇっ!! 」
ーーヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ーーーー
頬傷の男の合図と共に、全方位から矢が打ち放たれて来る。容赦なく次々と襲い掛かってくるそれは、まるで嵐のようだ。
「そんなっ!? 頭、俺達がまだっ! ぐぁっ!? 」
「がっ…!? 」
「ぎゃっ!? 」
ほお……、俺を仕留める為に、躊躇無く味方ごと攻撃させるとは……少し見直したぜ。判断もいいし、部下をよく訓練してやがる。
最低の屑には違い無いが。
しかし、無駄だったな。【覚】によって感覚を引き上げた俺には、飛んで来る矢の一本、一本、周りを取り囲んだ連中一人ひとりの動きが全て見えている。
仲間の男達が矢の嵐に曝され、針ねずみのように何本もの矢を体に突き立てられ絶命していくなか、ゆらりゆらりと身体を揺らす俺には、まるで一本の矢も擦りもしない。
周囲に動揺と怯えが拡がっていくのが分かる。ゆらゆらと身体を揺らすだけで、特に避けている様子も見えないのに、どれほど矢を放っても、まるで矢が俺を擦り抜けているかのように、たったの一本すら当たらないのだ。
まあ、これもプテラゴンの時と同じ、”俺がやらせている”んだけどな。拡げた感覚によって、俺には全ての動きが見えている。そこに【虚】による歩法 ーーこの場合は身体の動きのみだがーー で、狙いをつける瞬間に位置やタイミングをずらしてやる。つまり、奴等は最初から”何も無いところ”を狙わさせられている訳だ。全く気付いていないだろうが。
「化け物………… !?」
やがて全ての矢を撃ち尽くした連中のなかの誰かが、呆然として呟いた。
『アイ、モード【アサルト】弾種は9ミリ。背後の敵は任せる 』
『イエス、マイマスター 』
ーータタタッ!タタタッ!タタタタタッ!!ーー
ホルスターから銃を引き抜き、掃射。小さく空気の破裂するような音が響き、連続して【魔弾】が放たれる。
「がっ!?」「ぎゃっ!?」「ウッ!?」「ぐぁっ!?」
【魔弾】をその身に喰らい、次々と倒れて行く男達。もはや立っているのは頬傷の男ただ一人しかいない。
「馬鹿な……、俺達『墓場の風』が、一瞬で全滅? しかも、たった一人相手にだとっ!? 何なんだよ、テメェは!! 」
あ、そんな名前だったのね?まぁ、どうでもいいが。
ほんの数秒で一人残らず手下を失い、さっきまでの余裕をすっかり失って狼狽える頬傷の男。
「……悪いな、もう少し我慢していてくれ 」
「えっ!?」
喚き立てる男から視線だけは外さないまま、膝を折り、着ていた外套をラーナと呼ばれていた獣人少女に掛けてやる。と、少女は自分が助かったという状況がまだよく飲み込めていないのか、キョトンとした表情で俺を見上げ、小さく驚きの声を上げた。
「別にどうでもいいだろう、そんな事は。俺が誰であろうが、お前の運命は変わらない。……『詰み』だ 」
少女を驚かせないように、ゆっくりと立ち上がり、男に向かって歩を進める。
「ンだとテメェ!こんなマネをして、タダじゃ済まねェぞ!」
「御託はいい、無駄口を叩いてないで、さっさとかかって来いよ。それなりのレベルなんだろ? 」
俺の言葉で自分のレベルを思い出したのか、はっとした後に、急に態度がデカくなる頬傷の男。
「そっ、そうだ!? クハハハハハハハ! 俺様のレベルは「Lv63」だゼぇ?何人手下を倒そうと、テメェじゃ俺にはかなわねェ!……だが、まぁどうだ、お前なかなかヤるじゃネェか。俺の下に付かねェか? そうだっ!? 今ならこのダークエルフをお前の好きにしてもイイぜ!好い身体だろう?な!どうだ?」
「…………馬鹿だろ、お前?何でわざわざお前みたいなカスの下に付かなきゃいけないんだ?いいからさっさとかかって来い。時間のムダだ 」
もう話すことは何も無い、とばかりに、指だけでチョイチョイと手招きして見せる。全く……、人に言われてから自分のレベルを思い出して、急に態度がデカくなるって、本気で馬鹿か?それに、自分より10も高いレベルなのに、やっぱりコイツにも何の脅威も感じない。
「きゃっ!? 」
「クソがっ!くたばりやがれっ!! 」
俺の挑発に、顔を真っ赤にした頬傷の男は、羽交い絞めにしていたダークエルフを俺に向けて突き飛ばし、その手に持っていた大剣を振り上げると、上段から一気に振り下ろしてきた。
なかなかの斬撃だが……? 俺を相手にするには全然足りなかったな。
「なん……だと!?」
突き飛ばされてきたダークエルフのお姫様を、”優しく”受け止めながら、男の渾身の一撃であろう斬撃を、右手の親指、人差し指の二本であっさりと掴み取る。そしてそのまま手首の捻りだけで大剣を取り上げ、ポイッとゴミのように投げ捨てると、
ーータンッタンッッ!!ーー
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!足が!足がぁ!? 」
ホルスターに戻していた拳銃を再度抜き【魔弾】で、男の両膝を撃ち抜いてやった。
「あ…っ!? 」
そこで腕に抱き留めていたお姫様を解放してやると、悲鳴をあげながら痛みにのたうち回る男に近づき顔面に蹴りを一発喰らわせる。
「煩えよ、黙れ 」
「ぎやっ!? 」
鼻骨が折れ、ダラダラと鼻から血を流す頬傷の男の頭を踏み付けながら、拳銃を突きつける。
「さて…、覚悟はいいか? 」
「…!? 待へ!待っへふれ!頼むふぁら!金ふぁら、いふらでも出ふふぁら!」
「いらねえよ、金なんざ。……だが、そうだな?お前等に、このダークエルフのお嬢さんを攫ってくるように依頼したのは誰だ?それを話せば考えてやらんでもないぞ? 」
銃口だけは向けたまま、踏み付けていた足だけどけてやる。すると、男は目を輝かせてペラペラと情報を吐いた。
「わっ、分かっふぁ!ヒギンズ男爵の馬鹿息子ふぁ!ア、アイツに頼まれふぁんふぁ!」
ふがふが言ってて聴き取り辛いが、確か「ヒギンズ男爵の馬鹿息子」って聞こえたな? こちらを見つめているダークエルフのお姫様に、チラっとだけ視線をやり、確認をとる。
「今の名前に聞き覚えは? 」
「えっ!? …あっ!……ある。…いや!…あります。私に言い寄っていた男の一人だ…です。貴族であることをかさにきた、嫌な男です 」
突然自分に話を振られ、一瞬戸惑った声を上げるお姫様。だが、さっきの獣人少女に比べれば、まだ状況判断が出来ているのか、真っ赤になって、詰まりながらも俺の問いに答える。
ん?なんか顔が赤いな。慌てた姿を見せてしまったのが恥ずかしいのかな?だが、焦りながらも、一生懸命丁寧な言葉に言い直そうとするのが可愛いじゃないか。
視線を頬傷の男へと戻し、再度確認を取る。
「今の名前は嘘じゃないな? 」
「嘘ひゃ無い!頼ふ、助けてふれ!! 」
威圧を込めた俺の問いに、真っ青になりながら、頬傷の男が必死に懇願してくる。だが…。
「そうやって命乞いをして来た相手を、何人殺した?何人いたぶって来たんだ? ……もういい、黙れ… 」
「ひっ!? ひゃめ!助けて…!? 」
ーードンッ!!ーー
男の言葉が、まだ終わらないうちに引き金を引いた。額に穴が開き、後頭部が爆ぜ割れて男は絶命した。
最後だけは”本物”の実弾を使った。弱者をいたぶり悦にいる姿が、本当に気に入らなかったからだ。
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気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
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