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第16章 冒険者な日々〈ヒロトのいない日〉
第111話 side セイリア
しおりを挟む「……えぇと、ノア様? ”セイリアが決闘”と仰った様に聞こえたんですけど?」
【上級闇精霊】が言い出した、トンデモない”妙案”に、学院長のイラヤは焦り気味に問い返す。
「その通りだが。何か問題でもあるのか?」
「……えぇとですねぇ……… 」
確かに貴族籍の生徒が多く在籍する【王立高等魔術学院】では、様々な諸問題に対して最終的な決着方法のひとつとして『決闘』を認めている。ただし、それはキチンとした手続きをし、完全に中立の”立会い人”を立てた上で、決闘場所を命の危険が無い様に特殊な魔術フィールドを展開した学院内の修練場での”模擬戦”に限定した場合に限りである。
だが、学院に通う学生達はまだ若く未熟な者が多い。それは肉体や技術だけでなく精神面に於いてもだ。
セイリアの入学当時の騒動の際には、自身の力に対する過信、危険に対する認知度の甘さに加え、貴族子弟というムダに高いプライドの所為でキチンとした手順を踏まぬまま、その場で突発的に決闘騒ぎを起こし、決して小さくない怪我を負うという事件も度々あったのだ。
こうした経緯から、セイリアについての各種問題については今後一切在学中の決闘等での解決は学院として禁止の通達が正式に出され、【セイリア親衛騎士団】によって陰で行われる事も規制、鎮圧される様になった。
中には高位貴族の嫡男などから不満の声も上がったりしたが、何と言っても”騎士団長”が統制会長であり、王太子のザインである。身分を楯に文句を無理矢理通す事も出来ず、理屈の上でも権力的にも最期には黙るより他は無かった。
と、セイリアの入学当時の状況などをノアに説明するイラヤ。さすがに学院から正式に通達した事を、セイリア本人にさせるのは如何なものか、と言ったところだろう。
「む…、そうなのか……っ! だが【氷結地獄】よ、今回はセイリアが全学院生徒に対して我が主の事を認めさせる必要があるのだ。特別措置として何とかならないか?」
「ですがノア様、それと決闘がどう結びつくのですか?」
「何、決闘とは、己の利害や誇りを賭けて行うモノだ。”何を賭けるか”が重要な訳だ。つまりだな……… 」
ノアの考えは突拍子も無いものではあったが、確かに納得出来るものであった。何より、 ーーー
「やらせて下さい、イラ叔母様! 統制会副会長として今後の混乱を防ぐ為にも、騒動を引き起こした張本人として、責任を持って事を収める為にも!! 」
セイリア自身が、そうイラヤに向かって強く訴えたのだった……。
ーー『全魔術学院の生徒の皆さんに、私学院長のイラヤ・マスコーニより大切な通達があります。……本日より三日後、学院内修練場にて、本魔術学院統制会副会長であり、三回生代表生徒でもある『セイリア・キサラギ』との”決闘”を行います。そして決闘への挑戦権は全学院生徒にあります。変則的ではありますが、「我こそは」と思う者”全て”との決闘をセイリア・キサラギ三回生は受け付けます。…この決闘にセイリア三回生が勝利した場合、敗北した生徒は今後一切彼女の選択についてとやかく言わない事。反対に、全学院中たった一人でも彼女に勝利した場合、セイリア三回生に対しての恋愛、婚姻の要求を除き何でも彼女は要求を受け入れます。…例えそれが”耳飾りを外すこと”であったとしてもです。以上が決闘の際の誓約となります。希望する生徒は三日後、第二限の授業の始まるのと同じ時間に修練場に集合して下さい。………繰り返します。本日より三日後……… 」ーーー
《風属性魔法》による拡声で増幅されたイラヤの声が、打ち拉がれている生徒達の鼓膜だけでなく心までを文字通り揺さぶった。
「……お、おい! 聞いたか今のっ!? 」
「あ、ああ、俺達の中の”誰か”がセイリア様にもしも勝つ事が出来れば……っ!」
「”耳飾りを外す”、つまりお姉様の婚約を白紙に戻せるって事……っ!? 」
「だ、だけど出来るのか、俺達に? セイリア様は【学院八傑衆】の”第五席”なんだぞ!? 」
「学院長は『挑戦権は全学院生徒にある』って言っていたわ。いくらセイリア様でも何百回もの連戦では魔力も体力も保たないはずよ!」
「そうか……、そうだな! 良し!皆んなで相談して戦略を練ろう、巧くセイリア様を疲弊させなきゃならないからな。いいな、皆んな!! 」
ーー『『『『『応っ!!!!』』』』』ーー
イラヤの精霊魔法を応用した”全校放送”を聞いた直後、打ち拉がれていた生徒達の目に輝きが戻り、各クラス毎に決闘に向けての活気に溢れた戦略会議が始まっていた。
まあ、現在は授業時間内であり、教壇には担当科目の教師が居るのだが、当然授業はそっちのけである。だが、教師達にしてみてもさっきまでの生徒達の様子を見るに、マトモな授業は不可能であると判断していた。それぞれが『さて、どうするか?』と頭を悩ませていただけに、学院長の全校放送は正に”渡りに船”であった事は間違いない。
教師である自分を無視、勝手に集まって相談を始めた生徒達だが、”強敵を倒す為に戦略を練る”という事自体は学院の教育方針のひとつとして間違ってはいない。教師達は熱心に意見をぶつけ合う生徒達に やれやれと苦笑を溢しながら、黒板に大きく『自習』の文字を書くのだった。ーーー
「聞きましたわ!やりましたわっ!! これであの悪辣非道、最低最悪のペテン師野郎の魔の手から、お姉様を取り戻すことが出来ますわっ!」
ここにもひとり、全校放送を聞いて絶望から一転、狂喜乱舞する生徒が居た。彼女の名は『ヘレスティーナ・ブロウム』ロードベルク王国でも名門と名高いブロウム伯爵家令嬢でありながら、セイリアを愛するあまりセイリア使用済みの様々な物は疎か、床に落ちて居る銀髪まで回収して持ち帰る程の変た……いや、もはや完璧にストーカーと呼ぶべきであろうか?
「本来なら一対一では絶対に敵わないお姉様でも、有象無象共との連戦で疲れたところならば、充分勝機はありますわ!もしもお姉様に見事勝利出来たならば、本当はお姉様と正式な恋人に成りたいところですが、今回はそうした個人的な事は一切禁止。ですが、ここはあのゴミ屑からお姉様を奪い返せるだけで良しとしましょう 」
”悪役貴族令嬢”そのものの笑顔を浮かべるヘレスティーナ。この辺り、絶対にセイリアには見せない裏の表情である。
「ただ、勝利をより確かなモノにする為に、”あと一手”何か欲しいですわね……?」
口元に指を当て、勝利を確実にする為の方策を思案するヘレスティーナに、ラーナのように校内に入る事を許可されている彼女の専属侍女がそっと耳打ちをする。
「お嬢様、よろしいでしょうか?」
「……何ですの?」
「先程の通達ですが、場所が学院の修練場との事でした。でしたら特殊フィールドがありますので、使用する武器、装備の制限は無いはずでございます。ならば、御屋敷の宝物庫であれば、”魔剣”や”魔導具”など、何らかの形でお嬢様が役立てる事の出来る物があるのでは無いかと…?」
「それですわっ!! 貴女、さすが私の専属侍女だけありますわ!」
「……お褒めに与り光栄に存じます」
侍女を誉めているようで、その実”自分の侍女であるからこそ凄い”と自画自賛するヘレスティーナ。何気に酷いが、こんな事はいつもの事なのか、若干の間はあったものの侍女の表情にヒビ割れは無い。この平常心、長年貴族などという面倒臭い相手に仕える侍女、さすがである。
「そうと決まればこうしてはいられませんわ!馬車を用意なさい、屋敷に戻りますわよっ!」
「お嬢様、授業は如何なさるのですか?」
「そんなモノは早退ですわ!どうせ学院中マトモな授業など出来てはいませんし。急ぎなさいっ!! 」
「畏まりました 」
「ゼルド会長! 今の学院長の通達をお聞きになりましたか!? 」
ここは四回生の教室、あれから自分達も教室に戻らなければならない事に、唐突に気付いたゼルド達【セイリア親衛騎士団】の面々は急いで解散、少々バツの悪い思いをしながらも、それぞれの教室へと帰って来ていた。
だが、教室まで至る廊下を通っていても、マトモに授業など出来ているクラスはひとつも無く、すすり泣く声や全員では無いものの無気力な顔で放心している者が多く、一生懸命に呼び掛ける教師の声にも殆んど反応は無いようだった。
教室に戻ってみてもそれは同じで、例えゼルドが声を張り上げて静かにさせたとしても、結局授業になどならなかっただろう。
あの屈辱的な敗北をした日、レイナルドからヒロトの本来の実力は〈神話級〉と言われる〈ランクSS〉だと聞かされていたが、ゼルド自身もセイリアのピアスには少なからず衝撃を受けていた。割り切る努力はしていたつもりだが、やはり直接目にすると胸が痛い。
自分ですらそうなのだから、これ以上はクラスメイト達を叱るつもりは無かった。
「(まったく、どうしたらいいんだよ、この状況はよぉ……?)」
だが、彼は魔術学院の統制会会長、生徒達を纏める立場の人間である。そうした個人的な事とは別に、どうしたらこの混乱を納める事が出来るのか?を思案している最中であった。そこに来て先程のイラヤの放送である。今や、この教室だけで無く隣や階下、つまり学院中の教室から快哉の声が上がり、ゼルドの居る教室内も一気に騒がしくなっていた。
そうした中で、統制会役員であり、”親衛騎士団のひとり”でもある男子生徒が、席を立ち上がりゼルドの座る場所まで話しかけに来ていた。
「(セイリアと全学院生徒達の決闘!? イラ叔母さん、なに考えてやがんだ!? ……いや?巧い考えなのか? 信じられんが聞けばセイリアのレベルはもうLv75らしいし、生徒達の平均レベルはだいたいLv20~30程度。少々力技ではあるが、セイリアが自分の事を公に認めさせる為に、例え全学院生徒と戦っても負けは無ぇか?)」
見れば、今話しかけて来ているクラスメイトも、先程までよりも表情が明るくなっている。ヒロトの事は『ザインより強い』とは明言したが、セイリア本人であればまだ勝つ見込みがあると夢想しているのだろうか?
「(ああ、そういやコイツ等はまだ今のセイリアのレベルの事を知らねえのか……!今のセイリアは元々のキサラギ流剣術に加え、”超一流”と呼ばれる『銅級冒険者』と同等の実力になっている。正直【学院八傑衆】”第一席”の俺でも勝てる気がしねぇ、コイツ等じゃあ……まず絶対に勝てねえだろうなぁ……) 」
【学院八傑衆】とは、白兵戦闘、魔法戦闘なんでも有りの”学内ランキング戦”における上位八名に対しての別称である。
ここまでの醜態でお忘れかもしれないが、本来この【王立高等魔術学院】に通う生徒達は皆エリートである。その優秀さを見込まれ、国内各地から集められた有望な人材として将来を嘱望されている彼等は、その多くがもう既に卒業後は国に仕える事が決まっている。特に【近衛騎士団】や【宮廷魔法師団】を目指している生徒達にとっては、この”学内ランキング戦”の順位は非常に重要なアドバンテージとなってくるのだ。
と、言う訳で、つまり【学院八傑衆】とは、その戦闘スタイルは違えど”学院最強の八人”という事になるのだが……、現在”第一席”、ランキング一位であるゼルドでも現在のレベルはLv57。Lv75のセイリアとは二十近い差が着いているのだ。勿論、ヒロトが言う通りレベルとは表面的な強さの基準でしかないのだが、元々の剣技に加えて、レベルアップによる攻撃力や防御力、俊敏性が格段に向上したセイリアには、最早校内の誰も、それこそ教師陣であっても学院長であるイラヤぐらいしか敵う者は居ないであろう。
「ゼルド会長!これは千載一遇のチャンスです、全学院生徒達に加え、学院最強の八傑衆のゼルド会長達の力があれば……っ!? 」
暗く閉ざされた雲間から差した一筋の光明を見出したように、明るい声を上げる男子生徒。だが、ゼルドからの返事はその希望にそぐうモノでは無かった。
「……いや、俺は参加しない…… 」
「えっ!何故ですかゼルド会長!? 」
「訳は……、さっき話した通りだ。すまないが、セイリア副会長を除く全統制会役員を招集してくれ。各自の決闘参加への可否は問わないが、俺は有志を募って当日の運営に回る。役員会は昼食後、第一会議室で行う。では、俺は詳細を聞きに学院長の所へ行ってくる。頼んだぞ 」
落胆し、困惑した表情の男子生徒にそう言い残し、素っ気なく席を立つゼルド。
「何でっ!? 何故なんですかゼルド会長!いや、団長ぉぉぉぉぉっ!」
「(無理、なんだよ。セイリアの気持ちもそうだが、さっきの放送を受け入れちまった時点で、もう”詰み”だ。セイリアが帰って来た時点でもう手遅れだったんだよ、もうどうにもならねぇ。……気持ちは分かるが……な? さて、これは本格的に暫く授業にはならねえな、まったく……、俺だってヘコんでるってのに、難儀なこったぜ…………) 」
三日後、多くの生徒達が先日の自分と同じ様な落胆を味わうだろう。いや、希望をチラつかされてから再度突き落とされるのだから、もっと酷いかもしれない。その時の事を思い浮かべて気を重くしながら、学院長室を目指すゼルドだった……。
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すいません~~~~っ! 結局更新遅れました(泣)
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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