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第17章 強制レベルアップ祭り in 魔の森
第132話 間話 とある若侍の恋 前
しおりを挟むーー カンッ!カッ!カカッ!カンッッ!! ーー
ロードベルク王国首都 「グランベルク」、新市街と旧市街を隔てて聳える旧防護壁、通称"大壁"の内側、旧市街の一角にある貴族街の屋敷の中庭から、硬い木を打ち合わせる硬質な音が小気味良く響く。
時刻はまだ夜も明けて間もない早朝、特に朝の早い職人などの各家々から朝餉の支度をする竃の煙がやっと立ち始めた時間だが、この屋敷ではほぼ毎日、決まった時間にこうした音が響き始め、静まりかえった閑静な街中へと響いていく。近くの屋敷の使用人達などは、この音を合図に身支度を整えて仕事を始める者までいるくらいだ。
ーー カカッ!カンッ! カツンッ!! ーー
音の出所は、周囲に建ち並ぶ貴族達の屋敷とは少々趣きが異なった、"救国の英雄"と名高いダークエルフ、「ジェイーネ・ラル・キサラギ」が初代である辺境伯の王都屋敷、王都に住まう者達からは『秀真の武家屋敷』と呼ばれる屋敷からだった。
硬質な音の正体は、二人のダークエルフの青年達。ともにエルフ族らしく美形であるが、ひとりはやや背が高く細身ながらガッシリとした体型で、引き締まったその表情は、いかにもマジメで謹厳実直といったタイプ。対してもうひとりはどこか軽薄そうな、所謂"チャラ男"的な雰囲気のある青年である。
青年達の名前は「カークス・サンダンス」並びに「スケール・サーキ」という。彼等は親友であり良きライバルであり、何より背中を預け合う相棒として、もう百年以上に渡って切磋琢磨し、互いに武を高め合って来た若侍達であった。
二人はダークエルフの特徴である褐色の肌に汗を滲ませながら、日課である朝の鍛錬を行なっている最中である。あまりにも息の合った淀みのないその動きは、まるで最初から決められた殺陣のようで、打ち合わされる木刀の音はゆったりとリズムを刻むように規則性を持って、またある時にはビートを打ち鳴らすかのように激しく響く。だが、今朝は少々いつもとは様子が違っているようだ。
ーー カッ! カカカッ!カァーーンッ!! ーー
カークスが逆袈裟に跳ね上げた一刀が、スケールの木刀を弾き飛ばしてしまったのだ。
「おいおい、どうしたんだスケさん?今朝は何だか稽古に身が入ってないんじゃないか?」
トントンと手に持った木刀で肩を軽く叩きながら怪訝な顔でスケールに問いかけるカークス。
それもそのはず、同年代のサムライ達に比べれば腕前は上だが、本来カークスが得意とする得物は槍だ。だが、スケールはそのカークスが得意とする本気の槍捌きと、刀で互角に渡り合える実力を持っているのだ。
"槍"というと多くの人が戦国時代の合戦などで、雑兵である足軽などが装備している武器だというイメージの方がが強いかもしれない。確かに"日本刀"は自由自在に振るうには技術が必要だ。それに比べ、最も原始的な武器のひとつとして、古来より狩猟にも使用されてきた槍は、遠い間合いからでもただ突くだけで充分な殺傷力を発揮する為、戦いに不慣れな者が使うには最適な武器だろう。だが、そんな不慣れな者ですら一定の威力を発揮できる槍を熟達した達人が振るえばどうなるか?
"槍の又左"と呼ばれた「前田利家」や豊臣の"五人衆"「後藤又兵衛」など、誰もが知っているであろうメジャーな戦国武将でも槍の使い手とされる武将は数多い。元々『剣道三倍段』と言われ、槍を相手にするには更に高い剣の技量が必要と言われているのだから、秀真武士団の若手の中でも随一、と言われたカークスの槍と互角に渡り合えるスケールの剣の腕前は、カークスよりも遥かに高い事になる。
事実、いつもならば段々と速くなる打ち合いに徐々に付いて行けなくなり、最後に木刀を弾き飛ばされてしまうのは、むしろカークスの方なのだ。いったいどうしたのか?と、カークスが訝しげな顔になってしまうのも仕方のない事だろう。
そんなカークスに問われたスケールといえば……、木刀を弾き飛ばされたことで、僅かに痺れてしまった手をニギニギと開いたり閉じたりしていたが、その手をグッと握り締めた後カークスの方を向き、フッと切なそうに微笑んだ後でこう呟いた。
「カクさん……、運命って…、信じるかい……?」
元が美形なだけに、非常に絵になるその儚げな微笑み。この微笑みを女性達が見れば、それだけで「きゃぁぁぁぁぁっ!」っと黄色い悲鳴が上がるだろう。逆にモテない冒険者の野郎共が見れば、「イケメンは爆ぜろ!!!!」と、血の涙を流しながら怨嗟の声を上げるのだろうが……。
ーー 『ただしイケメンに限る』ーー
そんな条件など楽々と飛び越してしまう、そんなスケールの微笑みを見たカークスの反応と言えば、がっくりと脱力して肩を落とし、ハァ~~~~~~~~~~ッと長々とした溜め息を吐くというものだった。
「………またか……、いったい何度目だ、スケさん………?」
やれやれと首を振り、ジトッとした目でカークスは相棒を見やる。
「スケさん、お前さんは少々悪ノリが過ぎるのが玉に瑕だが、根は優しい良い奴だし、いつもの態度とは裏腹に、誰よりも真摯に剣と向き合う奴だということは、この俺が一番よく知っているつもりだが……、その女癖の悪さだけは何とかならんのか……?」
ここ最近、この二人はヒロトから聞いた( 実は大嘘の)英雄譚、"異世界版「水戸〇門」"に感動し、自分達の名前にそっくりな登場人物「スケ」と「カク」になぞらえて、お互いを「スケさん」「カクさん」と呼び合っているのだが、二人のそんな様子を見て、ヒロトが必死に吹き出しそうになるのを堪えているということを二人は知らない……。
まあ、そんなことはともかく、相棒からジト目で睨まれたスケールは、慌てて弁解を始めた。
「いや、いやいやいやっ!? 違う、違うんだカクさん!あの女性は、今までとは全然違うんだ…っ!」
「いや、そうは言うがな?今までだって何度お前さんからその言葉を聞いたことやら……。毎度毎度そう言っては、ひと月持たんじゃないか?」
スケール・サーキ…、道中のウッガとの掛け合いでも分かるように、ノリも軽く、セイリア一行の中ではお調子者の部類に入る。見た目通りやや軽薄な性格をしてのは否めないが、朗らかで明るく、また情に厚いという基本"良い奴"である。またその一方では真剣に剣の道に打ち込み、その腕前は若手のサムライ達では、既に敵うもの無しという剣の使い手でもある。が、唯一と言っていい欠点が、惚れっぽいのだ、もの凄く。
一応スケール自身にも決め事があって、既にパートナーのいる相手や人妻、所謂"NTR"と呼ばれる行為は絶対にしない、嫁に貰うのでなければ、深い仲になるのは、相手も完全に遊びと割り切っている女性だけ、とは言っているのだが……?
勿論、カークスとてまだ二百歳にも満たない未婚の若い男、スケールに誘われて色街へと繰り出すもあった。本当ならば人の恋路に口を出し、"馬に蹴られる"ようなことなど言いたくはない。けれど、根がマジメなカークスとしては、こうも毎回毎回別の女の話しを聞かされるのはどうか?と思ってしまうのだ。
「いや、カクさん!今度こそ、今度こそ違うんだって!まずは話しを聞いてくれよ、実はな………… 」
必死になって今回の"恋"が、如何にマジメで、本当に心からのものかを語り始めるスケールに、ゲンナリとしながらも、耳を傾けてやる付き合いのいいカークスだった……。
二日ほど前 ーーー 。
「すいません、キサラギ家の用向きで参りました。最高ギルド長様にお取り次ぎ願えますでしょうか?」
レイナルドからの使いで王都冒険者ギルド本部へとやって来たスケールは、"これは!"と目を付けた受付嬢のいるカウンターに近付くと、ニッコリと笑いながら声を掛けた。
今のスケールは長い銀髪を首の後ろでひとつに纏め、ビシッと執事服を着た姿の為、非常に様になっている。オマケにイケメン。
普段は荒くれ強面の冒険者相手でもまったく動じず、営業スマイルを崩さない受付嬢も、そんな非の打ち所がない美青年に対してはまるで免疫が無かったようだ。
「は、はいっ!? た、只今確認致しますので、しょ、少々お待ちくだひゃいっ!」
一瞬で真っ赤になった受付嬢は、しどろもどろで噛みかみになりながら、逃げるように奥へと引っ込んで行った。
『ふふん♪ 掴みはOKかな?帰り際に名前と食事の約束でも取り付けようか~~ 』などと考えていたスケールだったが、その出逢いは突然訪れた。
「失礼します、最高ギルド長様に御用件があるとお聞きして参りました。キサラギ辺境伯様のお使いの方でよろしかったでしょうか?」
「ああ、はい。私が……っ!? 」
後ろからかけられた声に返事をしながら振り返るなり、雷に打たれたような衝撃を受け、息を呑み絶句してしまったスケール。
「( ……………母、上…!? )」
「あ、あの……、何か?」
声をかけたはいいが、振り返るなり無言で固まってしまったスケールを前に、ひとりの女性が困惑したままもう一度声をかけてくる。
「あっ!? い、いえ!申し訳ありません、キ、キサラギ家の使いの者で、スケールと申します。失礼ですが…、貴女は…?」
「あ、はい!こちらこそ失礼致しました。私はセイレン最高ギルド長様の秘書補を務めさせて頂いております、「シイラ・ラバルナ」と申します。スケール様、宜しくお願いしますね 」
「は、はい!よ、よろしくお願いしみゃ!……す 」
「ぷふっ!…ご、ごめんなさい、スケールさんって、面白い方なんですね」
「……!!!!!?!? 」
もしも、スケールをよく知るカークスなど近しい者達がこの場面を見たら、きっと我が目を疑うことだろう。いつもは余裕たっぷりで、女性に対しては微笑みを絶やさないはずのスケールが、さっきの受付嬢のように真っ赤になってしどろもどろになってしまっているのだ。
結局その日はそのまま碌に話しも出来ず、セイレンも所用で出かけてしまっていた為、レイナルドから託された手紙をシイラに預けて帰って来たのだが……、スケールの心は、すっかりシイラに鷲掴みにされてしまっていたのだった。
「………と、言う訳なんだ……っ!」
「なるほど、……分からんっ!!」
「なっ!? いいか、カクさんっ!シイラさんはな…………っ!! 」
その後もあーだこーだと、シイラの事を熱っぽく語るスケール。その姿には、いつものような恋愛をゲームのように語るスマートさは一切見当たらない。が、それだけに本人が言った通り今までに無い真剣さを感じさせるものだった。
「分かった、分かったよ!……しかし、どうしたんだ、お前さんらしくもない。まだ碌に話した訳でもないんだろう?」
「……ぐっ!? ……笑うなよ、カクさん?」
「ああ、約束するよ」
真っ赤になってそっぽを向きながら、ボソボソと恥ずかしそうにポツリポツリと話し出すスケール。
「カクさん、カクさんは俺の……母上のことは知ってるよな?」
「ああ、優しく綺麗な方だったな…。あんなに早く亡くなられたのは……残念だったな…… 」
遠い目をして、哀しそうに語るカークス。そう、スケールの母親は、まだスケールがたった十歳の時に病でこの世を去っていたのだ。千年以上を生きるエルフ族にしては、それはあまりにも早すぎる別れだった。
スケールの女癖の悪さは、もしかして今は亡き母への恋慕の情の裏返しではないか?ともカークスは思っていた。
「すごく……似ていたんだ、母上に… 」
「…!? それは…、シイラさんが…か?」
「ああ、どこか憂いを帯びた微笑みとか…な。瓜二つ、とかじゃないんだ。でも、似ていたんだ。それ以来、あの人の事が頭から離れないんだ…… 」
寂しそうに笑いながら、自分の正直な気持ちを吐露するスケール。その表情に、今までとは違う親友の本気の想いを感じたカークスだったが、だからこそ一点だけ、どうしても心に引っかかってしまう事があったのだ。
「そうか、今度こそ…、本気なんだな? だが、スケさん、その娘は…… 」
もしかしたら、本当の意味で女性に想いを寄せるのは初めてかもしれないスケールに、その事実を告げるのには非常に躊躇いがあったが、スケールが真剣であると分かるからこそ、この誰よりも優しい親友に後から傷付いて欲しくない。そんな思いから、たとえ嫌われようと"真実"を告げる決意をカークスが固めてスケールを見詰めたその時だった。
フッと、スケールが微笑んだのだ。
「知ってるよカクさん。シイラさんなんだろ、"『零』様"が助けた女の子って? 」
「知ってたのか…… 」
「ああ、けど、俺にとっちゃあそんな事は些細な事さ 」
いつものノリのいい、朗らかな笑顔に戻って、ニッコリとスケールは笑う。
「本気なんだな……。そうか、なら俺が言うことは何もない。頑張れよ、スケさん 」
「でな?カクさんに折り入って頼みがあるんだが……?」
「『頼み』…?」
「ああ!こんなことは、カクさんにしか頼めねぇ!頼むよ、カクさん!」
スケールがカークスに頼んだこと、それはーーーー 。
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いつもお読み頂きありがとうございます!更新遅くなって申し訳ありません。難産の上、長くなってしまったので、二話に分けました。
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