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第1章 異世界転移

プロローグ

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「何がどーして、こうなった…っ!?」
 険しい岩山を登り切り、その頂きから眼下を見下ろしながら、俺は今日何度目かのぼやきをこぼしてしまった…。

 視線の先には見渡す限りの大樹海が広がり、人工物などビルはおろか、掘っ建て小屋一つ見えやしない。
 更にその先には峻厳な山々が高い峰を連ねて霞んで見える。

「いったい、ここはどこなんだ…!?」

 肩を落とし、天を仰げば、これだけは見慣れた青空が広がっているが、そこには信じられない光景までが広がっていた。

「岩が…浮いてる…!?」

 そうなのだ、俺の頭上には、大小様々な岩塊が何の支えもなく、まるで当たり前のように浮いているのだ。いや、岩塊、どころの騒ぎではない、その上には欝蒼とした緑の木々が生え、もはや島としか表現出来ないほど巨大な物までが浮いていたのだ。

 俺はまるで、惚けた様にポカンと口を開けたまま、眼前に広がる光景を見つめるしかなかった。

 と、突然に空の岩塊から影が離れたのが見えた。まさか崩落か!?と、身構えたものの、一向にそれは落ちて来ない。

 改めて空を見上げれば”それ”は翼らしきものを広げ、まるで鳶のように上空を旋回しているのが見える。

「何だ?ありゃ…、鳥か?  しかし、ずいぶんとデカくないか?」

 ここから見ていても、小型の飛行機くらいの大きさはありそうだ。
 俺は”いつものように”頭の内側に向かって指示を出した。

「《アイ》、ズームだ 」

 途端に俺の視界いっぱいに空を舞う「鳥のような何か」の姿が拡大される。

「は……?鳥じゃない?……恐竜だと……っ!?」

 さっきからバカになったように保けた言葉しか出て来ない。
 空を飛んでいたのは、どう見てもプテラノドン…厳密には翼竜というらしいが、そんなことはどうでもいい。ともかく俺が驚いたのは、頭上高く空を飛んでいたのは鳥などではなく、何億年も昔に滅びたはずの生物そのものだったからだ。

 俺の見ている先では、空の浮島から次々と影が飛び立ち、その数は今や30匹?ほどの群れとなり、高く、低く旋回をしていた。

 見上げた空の眩しさに、僅かに目を眇めながら、呆然と見上げていると、その内の一匹が高度を落として旋回しだした。

 30メートル程の間近で飛ぶそいつをよくよく見れば、それ、は何と言うか違っていた。

 訳あって、子供の頃病院のベットで長い時間を過ごしていた俺のお気に入りの一つが、恐竜図鑑のライブラリだった。その為、俺は恐竜とかには結構詳しいんだが、今、目の前を飛んでいるモノは何だか違う。
 全体的なフォルムはプテラノドンによく似ているが、全く別物と言ってもいい姿形をしていた。

 実際のプテラノドンは空を飛ぶのに適した進化をした為に、思ったより手脚?は華奢な印象だ。
 そうだな、蝙蝠を思い出してほしい、あれによく似ているんだが、コイツは違う。
 巨体で岩にしがみつく為なのか、ゴツく逞しい手脚をしている。また、ほとんど無い筈の尻尾も太く長い…どころか、先端付近が瘤の様に太くなり、棘らしきものまで生えてやがる!?
 前脚、と言うか翼はまんま蝙蝠のようだし、一番違うのは頭部だ。形的にはプテラノドンそっくりなんだが、胴体とほぼ同じ大きさのデカめの頭部全体をまるでエビや蟹のような甲殻が覆っている。
 何というか、プテラノドンの胴体に、やや細長くしたトリケラトプスの頭をくっつけたかのような印象だ。
 以上を踏まえ、俺の出した結論は……。

 「ド…、ドラゴンっっ!?」

 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。だってさ、考えてみてくれよ?頭上を翼竜ってだけでも驚きなのに、ドラゴン(らしきもの)が飛んでるんだぜっ!?

 「おおぉぉっ!?すっげーー!!  カッケェーーーー!!マジでドラゴンじゃんっ!?」

 最初の驚きはどこへやら、俺は大感動でプテラノドンモドキドラゴンを見上げていた。

 プテラノドンモドキドラゴンは、時折バッサバッサと翼をはためかせ、スィーーっとグライダーの様に滑空して旋回している。
 翼と前腕が一体になってるから、どっちかと言えば飛竜というべきかもしれないが、どっちでもいいや、そんな事!
 漫画や小説なんかの物語、空想の中でしか会えなかったステキ生物が今、俺の目の前で飛んでいる!!
 その姿を見て、スゴイ、スゴイと子供の様に歓声を上げて大はしゃぎの俺だったが…。

 「あっ…!?目が、合っ…た?」

 キュロロロロロッッ!!

 プテラノドンモドキドラ…長いな、もうプテラゴンでいいか、プテラゴンは一際大きな声で鳴き声を上げると、その嘴の先端を下に向け、翼を小さく畳むと次第に俺に向かって…、降ってきやがったっ!?


 ドッゴオォォォオンッ!!!!!!

 「おおおおぉぉっ!?」


 間一髪、咄嗟にその場を飛び退いた次の瞬間、さっきまで俺のいた場所へとプテラゴンが落下してきた。
 その威力は凄まじい限りで、轟音と共に土砂と粉塵を巻き上げ、まるで砲弾が着弾したかのような衝撃だった。
 体勢を立て直し落下地点に目をやれば、地面は大きく抉れ返り、その衝撃の凄まじさを物語っていた。
 プテラゴンはといえば、その中心で頭部を完全にめり込ませ、逆立ちの状態で地面に突き刺さっていた。
 まるで某犬神家の様なやや間抜けな光景だが、もし、あのままあの場所に立ったままだったら…と思うとゾッとする。
 俺は思わず込み上げてくる寒気に、まさに冷や汗が止まらない思いだった……。
 
「……!?  何だってんだよ……、いったい?  まさか墜落…ってんじゃないよな? 」


『ーーマスターっ!?、緊急警報! 直上より敵性体多数接近!!ーー』


 呆然と突き刺さったままのプテラゴンを見つめていた俺の”頭の中”で、突然アラートが鳴り響く!

「直上……、真上っ?……まさかっっ!? 」


 ヒュルルルルルルルルルル……


 戦場で、いやってほどよく聞いた「 何か 」が落下してくる時の風を切る音……。
 恐る恐る見上げれば、無数のプテラゴン達が一斉に俺めがけて落下してきていた……!!

 ドッゴオォォォォォンッ!!!!

「うおおぉぉぉぉっっ!? 」

 ズッガァァァァァァンッ!!!!

「ぬあぁぁぁぁぁぁっっ!? 」

 ズドオォォォォォォンッ!!!!

「ぎゃあぁぁぁぁあっっ!!?? 」

 次々に地面へと激突してくるプテラゴン。轟音と衝撃波が連続して襲いかかってくる。
 それだけじゃない、間断のない激突で生じる衝撃のあまりの凄まじさに、まるで地震のように地面が震え、普通ならまともに立っている事さえ出来ないだろう。
 更には散弾のように砕けた岩肌が飛び散って、僅かでも気を抜けば、あっという間に致命傷を喰らいそうになる。
 
 もはや空爆にも等しい状況で、それでも俺は悲鳴を上げながらも必死に避ける!避ける!!避ける!!!!
 こんなの俺じゃなかったら軽く10回は死んでるぞ……っ!?

 息つく暇も無く逃げ惑いながら、俺はもう何度めになるかもわからない愚痴を、また一つ叫ばずにはいられなかった。

「だから…っ!いったい何がどうしてこうなったぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっ!? 」
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