破棄前提の婚約

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花言葉

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「ダリア・ルア・クレッセンチ!!!!」

 壮麗ながら、洗練され白で統一された神秘的な空間の中。怒声が響き渡る。その声の主は、この国の王子であり、ダリアの婚約者であるカンパニュラ・ソレイルだった。

「なんでしょうか殿下。」

ダリアは平然と、冷静に返した、カンパニュラの腕の中に自身とはあまり似ていない双子の妹が抱かれているのことを無視して。

「今宵!貴様との婚約を破棄する!!!!そして新しい婚約者にルピナス・ルア・クレッセンチを添える!!!」

カンパニュラは高らかに宣言した。彼はダリアの双子の妹であるルピナスに惚れたのだ。ルピナスはダリアとは対照的に、可憐で優しく、魔力もダリア以上に豊かであり、当時、齢十四にして国直属魔法師となった彼女をカンパニュラは自分のものにしたいと思った。そして、ダリアを捨てることに決めたのだ。

「カンパニュラ・ソレイル殿下。あなた、今この場がどういった場か分かっていてのその発言でしょうか?」

 この場は神聖な神と最も近い神殿であり、しかも貴族国民、種族や性別、出身問わずに成人を祝う場。そして、新しく国を治める者を発表する場でもある。
 そんな場で、王太子であるカンパニュラは婚約破棄と乗り換えを宣言した。

「もちろんだとも!父上と母上も了承をくださった!」

 現王と国母が了承した。つまり、ダリアに反論する余地はないということ。

 体を小刻み震わせるダリア。泣くのかと思った次の瞬間、

「ふ、ふふ、あはははははは!!!!あはははははは!!!!!」

 無邪気な子供のようにお腹を抱えて笑い出す。普段の彼女からは思いもよらない行動に周囲の人々は目を見開いた。

「はぁー……
 あぁ、失礼。はしたなかったですね。」

 扇子を広げ、口元を隠してもう一度扇子を閉じて、微笑んだ。
 それはまるで、女神がごとく美しく、白い、細身なドレスも相まって彼女の美しさと清楚さを引き立たせ、まさしく聖女のように見えた。画家がこの場にいるならばそれは幸せ者であろう。
 その振る舞いこそ、周りが周知している彼女だ。

「婚約破棄、承知いたしました。殿下の心が変わらぬうちに書面に署名致しましょう」

「それはこちらのセリフだ。」

「ルピナス。あなたとは縁を切るつもりでいるからそのつもりで」

「もちろんでございます。クレッセンチ小公爵」

 ダリアとルピナスは罵り合うでもなく、完結に互いの思いを伝えると礼儀正しく、互いにスカートを少し持ち上げて互いに頭を下げ、挨拶を済ませた。
ルピナスは浅く、ダリアは深く膝を曲げた。

これにはまたもや周囲の人々、特に貴族たちが驚いた。

貴族の挨拶には種類があり、深く膝を曲げて頭を下げるのは王族や神殿でのマナー。つまりダリアはルピナスを王族と認めたのだ。

「ダリアお嬢様・・・!」

「リナリア。邪魔するなら出ていきなさい」

「ッ!失礼、致しました・・・!」

 ダリアの護衛を言いつけられている騎士のリナリアが止めようと間に入るが、主であるダリアに一喝され引き下がるしかできなかった。

 その後は迅速だった。カンパニュラは何一つ書類を用意していなかったがルピナスが用意していた。目の前で繰り出される元婚約者と元妹とのイチャイチャを華麗に無視して絶縁状と婚約破棄に関する書類に署名した途端、上空にそれらの書類を浮かび上がり光り輝き、破れた。

絶縁と婚約破棄が完全に終了した証であった。

ダリアは少し寂しそうに、だが満足したようにその光景を眺めていた。
ダリアの隣に待機していたリナリアは王太子とルピナスを睨むことしかできなかった。

(ダリア様が許可してくだされば今すぐにでも斬り捨てたのに・・・!)

リナリアは誰にもバレないようにカンパニュラを睨みつけ、手を強く握った。

「神官!続きを始めろ!」

カンパニュラは隅にはけていた神官たちに声をかける。

神官たちは何やら少し話し合っていた。

「おい何をしている!」

「…皆様!」

ダリアが大きな声で叫び、その場でくるりと回り、スカートを持ち上げて頭を下げた。

「此度、成人おめでとうございます。私たちの個人的な問題に巻き込んでしまったこと、お詫び申し上げます。」

本来なら、中心人物であり王太子であるカンパニュラがやることなのだが。
体をひねり、神官たちのいる方を向く。

「神官さま。これも神の願いあってのことでしょう。」

両手を口の元で組み、祈るようにそれを告げる。

「私はそれを謹んで受け入れます。受け入れて頂けるよう、努力を致します。ですからどうか神官さま、月の女神さまと夜の女神さまのように、見守っては頂けませんでしょうか?」

 先ほど婚約破棄されたかと思えない毅然とした、信仰心深い、信者のような振る舞い。
そんな彼女の振る舞いに神官たちは皆、顔を見合わせて頷き、檀上へとあがった。

「皆様、此度ご成人おめでとうございます。皆様がこの日を迎えられたこと、心より喜ばしく思います。女神さまたちも大層に喜んでいることでしょう。さて、今宵は、新しい『女王』が生まれる日でもあります。」

「………………ん?女王?」

確かに国母となる人物は生まれるがそれは王妃。
女王では、国を治める女性ということになる。

ここでおかしいことに気付く。

カンパニュラはダリアの発言を自分に惚れていたからだと思った。それを受け入れるつもりなんてなかったから指摘しなかったが、『受け入れて頂けるように』?
自分が『受け入れられるように』ではなく?

それではまるで、

「ダリア・ルア・クレッセンチ様!!!!新しい女王の誕生です!!!」

 口元が隠されていた扇子の奥、ダリアの口角が上がったのが見えた。

「・・・は?」

 扇子を閉じ、近くいた騎士も一瞬驚いた顔してダリアを檀上下までエスコートすると、一歩一歩踏みしめて上へと上がっていき、その場に膝を付き、頭を下げると神官から赤いマントが、母上から杖が、また違う神官が父上からゆっくり冠を取り、ダリアに贈られる。

父上が立ち上がり、ダリアの近くに行くと手を取り、椅子を変わるようにダリアが国王の椅子へと座る。
母上も立ち上がり、父上の手を取って檀上を降りると膝を曲げ、深くお辞儀する。

それらがあまりにも美しくて、固まってしまった。

「ま、待て!!!おかしいだろう!!新しい国王は俺だ!!!」

「あなた、『契約』を忘れていたのですね?」

「お前、それでも王太子だったのか…」

国王の嘆きの声が会場に響く。

「………ごめんなさいあなた。私がもっと教育していれば…」

「落ち着きなさい。あなたのせいではないよ」

「どういうことですか!」

「私が説明しましょうか」

王座に座ったダリアがこちらを見下ろし、声をかけてきている。

「陛下、王妃、よろしいでしょうか?」

「えぇ、構わないわ。」

「すまないなダリア」

「お気になさらず。」

 騎士からワインを受け取り、一口飲んでから立ち上がる。

「私たちがちょうど七歳の時、王妃さまに『不適切な』噂が流れてしまいました。
もちろん、それらは事実ではありません。ですが、周りは簡単に了承しません。特にあなたの王位継承権について異議を唱える者が出てきてしまいました。そこで王家はこの国でただ一つの公爵家、つまり我がルア・クレッセンチ家に『神の契約』を持ち掛けました。」

「なっ…!」

神の契約は、それは昔。神と人間が使用した契約方法。

 神はこう言った。
『あなた方に知恵を授け、あなた方を愛し、守りましょう。』

 人々はこう言った。
『我々は信仰と愛、そして実った木の実や作ったジュースなどを捧げ物として捧げます。』

 互いの血を使用した、本来なら禁忌に近い契約。月夜の晩に一週間かけて祈りを捧げた銀色の紙と星空を閉じ込めたようなインクを使って行う契約。
 どちらかが契約を破れば破った方にはそれ相応の対価を支払うことになる。

「『カンパニュラ・ソレイルがダリア・ルア・クレッセンチと結婚した暁には国王に。ルア・クレッセンチ家には王家直属の魔法石を一生涯渡す。』」

 カツン、カツンとヒールの音がダリアの声と共に、静かな宮殿に響く。

「『カンパニュラ・ソレイルが死亡、もしくはダリア・ルア・クレッセンチと婚約破棄した場合。カンパニュラ・ソレイルは廃嫡。そして我が国の王には、ダリア・ルア・クレッセンチが着く』」

カンっと音が鳴り、真っすぐ、目を見られる。
これだ、この目が、恐ろしくて憎くて仕方なかった。
神の契約を覆すことは出来ない。ならば、

「る、ルピナス!」

強く、隣にいたルピナスの腕を掴む。

「君のお姉さんが王に着いた今ルア・クレッセンチ公爵家は君の…!「カンパニュラ」」

掴んで手を優しく包み、真っすぐ目を見てくる。
ダリアと違う、愛を含んだ優しい目。

「私はダリアお姉さま。いえ、女王陛下と絶縁した身。公爵家を継ぐことはできません。」

あっ…
気付いた。気付いてしまった。周りを見渡すと全員が非常識な、汚いものでも見るかのように見つめてきている。
もう一度ダリアの方を向く。
向いてはいけなかったのに、

「王になりたかったのなら、ルピナスではなく私を結婚する必要があったんですよ。王太子殿下。いえ、
カンパニュラ・ソレイル『元』王太子殿下。本来なら今すぐ、この国を出ていてもらうための準備をしてもらうのですが…

今宵は成人を祝う大切な日。今日が終わり次第、すぐにこの国を出ていく準備をしてください」

くるりっと踵を返し、王座に戻っていく。
それを、皆、慈しむように見つめている。
なぜ、それは、俺のものはずなのに、

「あ、あ、あああああああああああ!!!!」

近くにいた騎士の剣を奪い、ダリアに向かって走った。
檀上の階段で浮遊の魔法陣を発生させて、ダリアの心臓に向かって、剣を向けた。

「きゃーーーー!!!」

「カンパニュラ!」

観衆の悲鳴があがる、ルピナスが愛する人の名を叫び、ダリアに防衛の魔法陣を張ろうとしたがカンパニュラの剣に割られてしまった。
ダリアが振り返ると、リナリアがカンパニュラと剣を交え、剣を遠くへはじくがカンパニュラの魔法がダリアの脇腹をかすり、血が流れる。

「ッ!」

杖を着き、なんとか体勢を保っている。

「ッ!ダリア様!」

カンパニュラの腹を蹴飛ばし、檀上から突き落とす。

「おい何をしている!!早く捕らえろ!!!」

リナリアが怒鳴るとやっと周りの騎士がやっとカンパニュラを取り押さえた。

「離せ!離せ!!俺は王太子だぞ!!」

「その罪人を早く牢屋へ!!!」

カンパニュラは叫びながら引きずられていくのを見て周りは少し安心したが依然と混乱状態が続いた。

「医者を呼べ!!」

誰かが叫び、医学に秀でている者と落ち着きを取り戻した者から前に出て女王に近づき、傷を抑、介抱に向かった。騎士たちはダリアを守るように囲う人と会場の人々を安全に外に案内する組に分かれた。

「ダリア様!」

だんだんとダリアの美しい白いドレスが赤く染まっていく。
攻撃を受けた際に破れた箇所から一部がえぐれたような酷い傷が覗いている。

「ここまで酷いと…」

医師のそんな言葉が漏れる。
ダリアは脂汗をかき、顔色がどんどん悪くなっていく。

「いやっ!嫌ですダリア様!」

リナリアはハンカチで必死に傷の箇所を抑え、出血を抑えようとしている。
じわじわと、凄いスピードで真っ白なレースが施されたハンカチが"赤"へと染まっていく。

「女王陛下!失礼致します!」

いつの間にかルピナスが近づき、ダリアの傷に手を当てている。

「おい!」

騎士の一人がルピナスの腕を掴もうとするがダリアが止める。

「いい。好きにさせなさい」

息を荒くしながら、強い意思を持ってその言葉を告げる。その言葉が、どれだけ重いものか周囲は理解する。

 ダリアは傷口がだんだんと温かく、出血が引いていくのを感じた。
今のうちに、っと医師が傷の手当てをする。
周りがその姿と見た時、二人の幼い頃を知っている者は涙をこらえるのに必死だった。リナリアも、ダリアの体を支えつつ、涙を堪えている。

リナリアが護衛に着く前、幼いダリアは何度も誘拐された。
ある時、誘拐未遂が起きた時、ダリアはルピナスを庇って右肩から左脇腹までの大きな傷を負った。
医師が到着するまでルピナスはダリアの傷を抑え、必死に治癒魔法をかけ続けた。
医師が到着した時には脂汗をかいて倒れるほど。必死にやっていた。
今は昔と違い、そんなことになることも医師の到着が遅くなってもいない。
今は、姉妹でもない。
だから涙を堪えるのに必死になっていた。

その場は一旦お開き。
後日、貴族のみで王室にて糾弾会が行われた。

「ルピナス。私を助けてくれたお礼に、あなたに選択権を差し上げましょう。私と姉妹に戻るか、愛する人との死かどちらがよろしいでしょうか?」

王座に座るダリアに対し、ルピナスは床に膝を着いていた。
卑怯ともいえる、そんな内容にルピナスは頭を下げながら答えた。

「愛する人が犯した罪は私の罪でもあります。女王陛下、どうか私とカンパニュラに、死をもって償う機会をくださいませ」

この国が信仰している神たちによれば、『死は救済であり、贖罪である。』
ルピナスの願いもまた貴族として、この国の国民として、正しいものであった。

「………分かりました。三日後、夜明けと共に死刑を行います。衛兵。今すぐこの者を牢へ」

少し、悲しそうにすると騎士に指示を出しルピナスが牢へと連れていかれる。

ーー・・・

「! ルピナス」

牢の隅で爪を噛んでいるとルピナスが牢にやってきた。
あの時是が非でもダリアを斬ったのはそうすればルピナスはダリアを助け、妹思いなダリアは助けてくれたルピナスを自分と姉妹に戻るように言うだろうと思った。
もちろん、俺は何かしらの処罰を受けるだろうがルピナスが伝えて最低限の情状酌量は着くだろう。
だから斬ったのだ。

「ルピナス・ルア・クレッセンチ及び、カンパニュラ・ソレイルに処罰を言い渡す。」

文官が紙を見ながら言い放つ。

「カンパニュラ・ソレイル。廃嫡。」

廃嫡だけで済んだのなら安い。

「ルピナス・ルア・クレッセンチ、カンパニュラ・ソレイル。罪状、不倫及び女王陛下殺害未遂のより、

死刑に処す。」

「は、?」

その言葉に体が固まった。

「女王陛下のお心とルピナスの言葉により、貴殿らには死をもって償う機会が与えられた。感謝し、女神さまたちに祈りを捧げ、執行の時を待て」

そう告げて、騎士たちを連れて出て行ってしまった。
ガシャンと重い扉が閉まる音が響く。

「カンパニュラ。大丈夫ですか?」

「なんでダリアに助けを求めなかったんだ!!!!チャンスを作ったのに!!!」

「作ったじゃないですか。『救い』」

そんなのただの昔の馬鹿たちが作った戯言じゃないか。
何が救済だ何が贖罪だ。

「俺は悪くない!!!」

抱きしめてくるルピナスを振り払い、立ち上がるとルピナスはよろけて後ろに尻もちをついた。

「…あぁ、愛してます。カンパニュラ。私だけの安らぎ」

恍惚とした表情でこちらを見上げ、いつの間にか立ち上がり、首に腕を巻かれる。

「ッ!は、離せ!!」

振り払えない。さっきは簡単だった柔らかく、細い腕と体を振り払うことが出来ない。

「離したりしませんよ。もう二度と、ね?」

美しい紫の色が光り輝くのが恐ろしく感じながら意識がどんどん遠くなっていく。


ーー・・・

「ルピナス。カンパニュラ。」

ダリアが二人を訪ねた時、カンパニュラは青色の顔でルピナスに膝枕されて眠っていた。

「女王陛下。」

「少し、この子と話します。全員扉の前で待機していてください。」

「しかし!」

「『妹』と話す、最後の機会だから。お願い」

「…かしこまりました。」

懐から懐中時計を取り出し、時間を確認する。

「次の業務もありますし、時間は十分だけです。それ以上は許容できません。」

「…ありがとう。」

宰相さいしょうさま!」

「リナリア。女王陛下の命です。我々は下がりますよ」

この宰相は二人の幼い頃を知っている。二人の教育係も務めた人だ。
この二人がどれだけの苦労をしてきたのか、どれだけ互いを愛していたのか、どれだけ、心を通わせていたか知っている。
だからリナリアをひっぱって宥めつつ、地下牢から出て扉の外に待機した。

出ていったのを見送って、近くに置いてあった汚い箱にハンカチをひいて座って足を組んだ。

「…………それで、首尾は?」

「上々です。お姉さま、私のお願いを聞いてくださって、ありがとうございます」

「まさかあなたにあんな提案をされるなんて驚いたわ。」

時は遡って婚約破棄をする二週間前。

「ねぇお姉さま。聞きたいことがあるのです。」

「あら、どうしたの?あなたが私に質問って珍しいわね。」

「お姉さま、女王になる気ある?」

「こら、我が家に防音魔法が張ってあるからってそんなこと言わないの。」

にやりと口角をあげながらそう話すのは肯定の意だろうと受け取り、そんな顔さえも美しいダリアにルピナスはうっとりしつつ、紅茶を手に取り一口を飲んで平静を装った。

「ねぇお姉さま。もし、万が一。お姉さまが女王になったらあの王太子はどうなるの?」

「そうね、そうなったら契約では廃嫡ね。あぁ、でも他のご令嬢と遊んでいるようだし去勢もあるわね。あと、『邪魔』にならないように遠い場所に流刑か、私に危害を加えるようなら死刑ね」

思っていた通りの返事が返ってきて面白みがないという感情、そして苛立ちを隠し、足を組みなおす。

「……………ねぇダリアお姉さま。可愛い妹のおねだり、聞いてくださらない?」

「今日はとことん珍しいわね。何かしら」

「あの人、私にくださらない? というより、返してくださらない?」

ダリアは流し目でルピナスを見つめた後、睨みつけた。



時は戻って牢屋の前。

「あなたがその人に惚れていたのは知っていたけれど、ここまでするとは……」

「お姉さまも昔は彼を可愛がっていたでしょう?」

「昔は可愛いと思っていたからね。」

「あのね、お姉さま。私、お姉さまの妹であることが自慢だったと同時に、嫌だったのよ?」

「……えぇ、知ってるわ」

カンパニュラは本来、ルピナスの婚約者であった。
ダリアが奪ったわけではない。

カンパニュラとルピナスの顔合わせの際、カンパニュラはダリアに一目惚れし、我がままを言って乗り換えたのだ。

ニ人の両親は王族と婚約できるなら娘二人どちらでもよかった。欲を言うならルピナスがよかったが、それを言ってせっかくの婚約を逃したくはないと二つ返事で了承した。

そこにルピナスとダリアの意思は存在しなかった。

 そして婚約が開始した三年後、ニ人の両親はこの世を去った。

馬車が事故を起こし、そのタイミングで盗賊に狙われた。不運に不運が重なった。助かったのは一緒にいたダリアと護衛のリナリアのみだった。

当時、ルピナスとダリアは十二歳。突然の死により遺言も何もない状態、当主はどうするかと話になり、二人の叔母である人物が名乗りを上げた。

だがダリアが『ルア・クレッセンチ公爵家の当主は私です』と親戚たちの話に割って入り、当主のみが座れる椅子に腰を下ろした。

もちろん反論はあった。だがダリアは当主であった両親の最期まで一緒にいた子、その子が『両親より、家を私に任せると言われております。証拠はこちらに』いつの間に首にかけていたのだろう、当主の証の指輪を首から下げていた。

それには誰も反論できず、ダリアは齢、十二歳にして国の重鎮、ルア・クレッセンチ公爵家の当主となった。

「彼は私にとって、安らぎの場所だったの。だから欲しいって思ったらどうしても欲しくてたまらなかった。でも無理やり奪えばルア・クレッセンチ家当主と対立するでしょう?それはしたくなかったの。」

今はしているけどね。にこやかに笑いながら檻から手を伸ばしてきた。
床に膝を付き、その手を重ね、指を絡めて檻越しに額を合わせる。

「ダリアお姉さま。愛してるわ。ありがとう。私、幸せになるわね」

「私もよルピナス。私の可愛い妹。幸せになってね」


三日後、二人の処刑が完了した。
いつの間に手続きを終わらせていたのか、二人は法的にも夫婦であったため死後、同じ墓に入れられた。
その時、ルピナスは心地よさそうな顔して、カンパニュラは苦痛で、まるで助けを求めるかのような顔しながら眠った。

カンパニュラがめちゃくちゃにした成人の儀や処刑の後始末をしながら情報屋からもらった書類に目を通す。


「想像通りだな……」

メイドを呼びつけ、前王妃であるバーベナを呼び出した。

「王妃殿下。いきなりお呼びしてしまい申し訳ありません。」

「いいえ、構わないわ。もうあなたは私の娘当然なのですから。それでどうしたのかしら?」

「王妃さまには、お話すべきことがございまして……」

ダリアが自ら紅茶を淹れて王妃をもてなす。

「ありがとう。頂くわ」

紅茶を一口飲むとダリアは微笑んで大きめな茶封筒を取り出す。

「こちらをご覧ください。」

「あら何かしら」

茶封筒の中には一枚の絵が入っていた。

紫がかった白い髪、淡い紫色の瞳。美しい女性、それは亡くなった親友の肖像画であった。

ダリアとルピナスは『双子』と言われているが恐ろしいほどに似ていない。いや、もう似ていなかったと言うのが正しいのだろうか。
ダリアは燃えるような、深い紅色の瞳に色素が薄い、紫がかった白色の髪。
対してルピナスは淡い紫色の瞳に、常闇のような黒い髪だった。

二卵性だとよく言っていたが、

ダリアはどちらかと言えば、カンパニュラと国王と似ていた。

カンパニュラは鮮やかな赤い髪に色素が薄い、金色のような瞳。
国王、カンパニュラの父親は深い紅色の瞳に、今ではもう白髪が混じっているが鮮やかな金色の髪を持っている。


容姿は若干違う。だが、似ているのだ。彼らは、目の前にいる彼女と。

「待って、まさか、あなた、」

それに気付いた時にはもう遅かった。
早く、気付かなればいけなかったのに。

ダリアは、国王と亡くなった親友に、似ている。

ごぽっと音が鳴ると口から血が溢れる。

「この国を頂くことにしました。いえ、元々私のものですから違いますかね?」

「げほっ!ごほっ!」

手足がしびれて、目の前が歪む。

「王妃陛下。私の本当の娘のように接してくださったこと感謝いたします。本当に『母』との親友ならば、もっと早く気づいて欲しかったですけどね。」

「き、きょう…」

私は、なんという過ちを犯したのだ。


こと切れた王妃。もとい『母の親友であった』バーベナを見下ろす。
淡いピンクの瞳にはもう、光が籠っていない。

立ち上がり、国王であったイキシアの元に向かう。

「前国王陛下」

「ん?あぁ、ダリアか。どうした?」

「キキョウ・ルア・クレッセンチを知っていますよね?『お父様』」

「は、」

カンっと踵が鳴り、悪趣味で、無駄な装飾がある執務室から薄暗くて汚い、レンガの部屋が移る。
イキシアはバランスを崩して床に座り込んでいる。
その機を逃がさず、氷の刃が空中に浮かんだかと思えばイキシアの肩と足首を貫く。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

「静かにしてくださいよ。手足の健を切っただけなんですから。」

パチンと指を鳴らせば、氷の刃が炎へと変わり、傷口をふさぐ。ただし、そこにはまだ刃がある。
刃に貫かれ、動けなくなっているイキシアを踏みつける。

「ッ、あ」

「この場所、どこだか分かりますよね?あなたが酒に酔った勢いで手を出した王妃のメイド、そしてルア・クレッセンチ家三女。キキョウ・ルア・クレッセンチが、あなたたちに幽閉された場所です」

「なぜ、「知ったのか?」」

冷たい、ゴミでも見るかのようにイキシアを見つめる。

「ルア・クレッセンチ家の奥底に保管されている肖像画に私そっくりな方が描かれていたんです。そこから、少しずつ調べて知りました。


私が本来の王位継承権第一位であること。キキョウ・ルア・クレッセンチが王妃の親友で、侍女であったこと。あなたに襲われた彼女は私を孕み、ここに幽閉されて、殺されたこと。」

真っ赤に、燃えるような赤色の瞳がイキシアをみつめる。

「簡単に死ねると思わないでくださいね」

「っ!すまなかった!謝る!貴殿の母を幽閉し、殺したこと…!全て謝罪するっ、だから、」

「何か勘違いしていませんか?」

「は、」

「私は別にキキョウ・ルア・クレッセンチがあなた方に殺されたからこんなことしてるわけではありませんよ」

「では何故…」

「裏切りが許せなかっただけの話だ」

壁に血しぶきが飛び、悲鳴が狭い部屋の中でこだまし、響き渡る。




「次は、3人…」







ダリア・ルア・クレッセンチ
人を狂わせるほど美しく、気品に溢れ『一つ目の復讐』終えた子。
カンパニュラの父親であるイキシアが酒に酔った勢いでメイドに手を出し、生まれた子供。しかもそのメイドが不運なことにルア・クレッセンチ家の三女であった。本来ならば彼女が王位継承権第一位。
両親だと思っていた人は両親ではなかったし、妹だと思っていた子は妹ではなかった。似ていないのはそのせい。
最初はそれで満足していた。愛してくれていると思っていたから。でも、実の母親を調べていくうちにその母親を殺したのは両親と国王、そして自分が愛されてなどいないことを知った。母を気にしてないと言うと嘘になる。
まだまだ復讐は続く。

「どうしても、その裏切りを許せなかった。」

【優雅】【気品】【英華】【裏切り】

愛されたかった。


ルピナス・ルア・クレッセンチ
人を操れるほど賢く、愛する人と安らぎを手に入れた子。
現実的だけれど想像力がちょっとばかり欠けている。ある意味、一番幸せになった人。
ダリアと血が繋がっていないことも自分が本来長女の立場であることも、自身の両親がダリアに殺されたことも知っている。それでも美しいダリアを愛しているそれと同じくくらい憎んでいる。自分の愛する人を奪われたのが最大の理由。両親のことは別に。自業自得だなっと思っている。
最後、呪いを使用しもう『二度と』カンパニュラと離れることのないようにした。カンパニュラを心の底から愛している。

「やっと手に入れた、私の安らぎ」

【貪欲】【想像力】【いつも幸せ】【あなたは私の安らぎ】

責任を持ちたかった。


姓はポルトガル語で三日月。歪だからこそ、美しい。


カンパニュラ・ソレイル
本来であれば国王の座に着けた、ダリアとルピナスに狂わされた被害者であり加害者。
ダリアとの婚約はカンパニュラの我がままが大半の理由。
ダリアが腹違いの姉だなんて知らない。ルピナスが従妹だなんて知らない。
この作中で一番の無知で、可哀そうな子でもあるけれど、無知が原因でダリアを傷つけた回数はいざ知らず。
彼にカンパニュラとソレイル(ひまわり)の名前を付けたのは半分皮肉。
きちんと約束を守っていれば、覚えていれば、無知でなければ、死ぬことも囚われることもなかった。

「なんでこんなことに、」

【後悔】【守れなかった命】【感謝】【誠実】
【私はあなただけを見つめる】【憧れ】【偽りの愛】

無知でさえなければ、


リナリア
ダリアの狂信者であり、誇り高き眼帯騎士。
孤児で本来なら十歳にもならずに死んでいた。
六歳の時にダリアに拾われた。その時はすでに左目は使い物にならなくなっていたが、耳が異常に良かったため左目が使えなくても剣を扱えた。というよりダリアのために扱えるようにした。ダリアが考えの根本。
ダリアが白を黒と言えば黒。右を左と言えば左。
ダリアを心の底から愛していて、許されるなら結婚したい。ダリアに幻想と言えるほどのキャラを着けている。ダリアを否定されたり傷つけたら怒り狂う。ダリアがダリア自身を傷つけたり、(リナリアにとっての)解釈違いな行動を起こしても怒り狂う。
ダリアに頼まれたら何でもする。ダリアの命により、ルピナスの両親を殺す手伝いをした。
男性なのに可愛らしい名前なのはダリアが適当につけたから。

「ダリア様の妹君?誰のことです?ダリア様は一人っ子ですよ。」
(ダリアがルピナスを可愛がっていた頃は同様に愛していたけど今回のことで敵判定からのもういない人判定)

【幻想】【この恋に気付いて】【乱れる乙女心】

愛しています。だから愛して、


キキョウ・ルア・クレッセンチ
心痛めた成仏できぬ気品溢れたルア・クレッセンチ『本来の』当主。
ルア・クレッセンチ家三女であったが、姉と兄(ルピナスの父親)より優秀で賢く、魔力も潤沢。当時当主であった父親の遺言通りであれば彼女が本来の当主。だが、姉と兄が遺言を書き換え、親友であったバーベナな侍女へ。
そこで酒に酔ったイキシアに襲われた。体格差と力の差には勝てず、孕んでしまって幽閉された後、殺された。
ダリアの母親。ずっと、ダリアの傍にいる。止めたかった。抱きしめたかった。愛してあげたかった。

【変わらぬ愛】【信頼】【気品】【清楚】

望まなくても愛している。


王妃バーベナ・ソレイル
夫に裏切られ、己も過ちを犯した『悲劇のヒロイン』皇后。
キキョウと親友だった。心の底から信頼していた。
ダリアを本当の娘のように思っていた、自身の息子もきちんと愛していた。身分問わずに愛を与え、気品を持った人だった。この人がもっと早く、ダリアの目的と容姿に気付いてダリアを受け止めていれば何かが変わったかもしれない。『噂は』真実。
【後悔】【私はあなたに同情します】

同情されるまで、泣き続ける。


国王 イキシア・ソレイル
己の欲に負けた愚かな名王。
どういう人かどうかは置いておいて国にとっては名王ではあった。

【浮気】【誇り高き】【団結】

欲にさえ勝てば平穏だった。
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