48 / 63
第四章 奥様、その恋全力で応援します!
48 土曜日
友人であるデミルカ・ブラウンから奇妙な手紙を受け取ったのは、ラッセルとの食事会を終えた土曜日のことだった。いつものように朝食を終えて自室に戻り、ゆったりとお茶を飲んでいたとき、メイドのユミルが何やら焦った顔でやって来たのだ。
「あの、奥様!急ぎの郵便です……!」
「急ぎ?」
誰かの訃報か、見知った友人が事故にでも遭ったのか。はたまた、まだ諦めきれていないシンプソン兄弟からの新たな挑戦状か。
そんな気持ちで封筒をひっくり返して差出人を見たら、よく知った名前で驚いた。
「デミルカから……?」
「はい!」
こくこくと深く頷くユミルに急かされるようにレミリアは封を開く。真紅の封筒の中には、白い便箋が一枚だけ入っていた。意を決して、書かれた文字を追う。
内容はいたってシンプルだった。
どうやら、彼女の大切な友人が明日国外から来る予定なのだが、デミルカ本人の体調が優れないということで、代わりにレミリアにグスタフの街を案内してほしいと。
(随分と急な頼みね………)
自身が医者でもある夫のブラウン伯爵から何かの風邪を貰ってしまったのだろうか。その可能性は大いにある。去年の夏だってデミルカは咳が長続きする流行りの病気に罹って寝込んでいたから。
「ユミル…… 明日出掛けることになったの。悪いんだけど洋服を選ぶ手伝いをしてくれない?」
「もちろんでございます!」
「……? どうして貴女が嬉しそうなの?」
「えっ?それは…… それは、やはり、奥様に頼っていただくとメイド冥利に尽きるといいますか……」
「素晴らしい心構えね。シンプソン公爵家は貴女たちの努力で成り立っているから、本当に感謝しているわ。明日は何かみんなに甘いものでも買って来るから、期待して待っててね」
「ありがとうございます、奥様!」
嬉しそうに笑みを溢すユミルを見て、レミリアも自然と笑顔になる。
やっと戻って来た穏やかな日常の中で、このままでも十分に幸せなのだと分かっている。欲を出してはいけない。幼い頃からいつだって、弁えて生きてきたのだ。大切な人を困らせるぐらいなら、自分が身を引けば良いだけ。
「明日はどのようなお召し物になさいますか?」
「……控えめで良いわ。初めてお会いするお客様だから、相手を引き立てるようなものを」
「あの、ですが………」
何か言いたそうに目を泳がせるユミルが気になって、レミリアは「どうしたの?」と尋ねた。
「差し出がましいのですが、最近の奥様は大変な問題続きで大層お疲れだったと思います。せっかくのお出掛けなので、少しお洒落を楽しまれても良いかと……」
「あらまぁ……そうねぇ」
一生懸命に伝えてくれた彼女なりの言葉を、真っ向から却下するのは忍びない。レミリアは少し考えたあとで、小さく頷いた。
「分かったわ。明日の服装は貴女に任せても良いかしら?春に向けて、気分が明るくなるものをお願い」
「承知いたしました、奥様……!」
こうしてレミリアは、久方ぶりの楽しい予定に向けて準備を進めることになった。有難いことにレストランの予約などはデミルカの方で済ませておいてくれたようで、あとは隙間時間の話題を考えるなどしておけば良いだろう。
女性であればショッピングを二人で楽しんでも良い。グスタフは絹製品が有名な街なので、繊細な刺繍が入ったショールなどを買い求めに他の国から来る人も少なくない。頭の中でいくつかの店をリストアップしながら、どの順番で回ろうかと考える。
(不思議ね…… 少し前までは不安で堪らなかったのに)
こんな日常に戻ることが出来たのはすべて、支えてくれた人たちのお陰。ホークスやラッセルはもちろんだが、マーサやユミル、料理長など。感謝はきっと、どれだけしても足りない。
あなたにおすすめの小説
夫は家族を捨てたのです。
クロユキ
恋愛
私達家族は幸せだった…夫が出稼ぎに行かなければ…行くのを止めなかった私の後悔……今何処で何をしているのかも生きているのかも分からない……
夫の帰りを待っ家族の話しです。
誤字脱字があります。更新が不定期ですがよろしくお願いします。
嘘の誓いは、あなたの隣で
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。
けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。
噂、沈黙、そして冷たい背中。
そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、
一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。
――愛を信じたのは、誰だったのか。
カルバンが本当の想いに気づいた時には、
もうミッシェルは別の光のもとにいた。
病弱な姉は、何でも許されると勘違いしている。だから、あえて婚約者を譲ってやった。が、姉は知らない。彼は「病弱な幼馴染」を最優先することを
ぽんた
恋愛
※全七話
ラン・ブラックバーン伯爵令嬢には、病弱な姉がいる。姉は、病弱をいいことにランからいろいろなものを奪っている。そして、今回は婚約者。ランの生まれながらの婚約者をよこせという。ランは、抵抗した。婚約者を姉にさしだすことを渋った。しかし、姉を愛する両親と兄からも譲るようきつく言われ、ランはついに了承する。しかし、ランの婚約者には「病弱な幼馴染」がいて、ランの婚約者はすべてにおいてその「病弱な幼馴染」を優先するのだった。はたして病弱な姉は、「病弱な幼馴染」に勝てるのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
もう、今更です
もちもちほっぺ
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。