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しおりを挟むネロにもらった薬のお陰か、翌朝には驚くほどオリヴィアの体調は回復していた。
頭がスッキリしている。思考もクリア。
加えてなんだか身体が軽い。
変な成分でも入っているのでは、と思いながら数粒の錠剤が残ったシートを眺めてみるも、用法容量の他には特に何も書かれていない。東の方の国にはまだ魔法使いが住んでいるなんて聞くから、もしやそういった関連だろうか。
「なんにせよ助かったわ……」
これでまた今まで通り働ける。
最近感じていた憂鬱な気持ちが風邪による体調不良ならば、納得できる。親切にも、即効性のある薬を届けてくれたネロに今回ばかりは感謝すべきだろう。
鏡の前で藍色のシャツを羽織る。襟元にはエーデルフィアの国花であるアイリスの刺繍が入っていて、オリヴィアは密かにその制服を気に入っていた。着慣れた制服であっても、やはり着ると気合が入る。
歯磨きや化粧を済ませて、肩より少し伸びた髪をゴム紐で一本に束ねた。料理人たるもの清潔感が大事。
昨日はデニスに気を使わせてしまって居残りの勉強会も早くに解散したから、今日は時間が許す限りは頑張りたい。近付きつつある夏に向けて、緑黄色野菜のジュレにサーモンを合わせたものがあっても面白いかも。
厨房への道のりを歩きながらオリヴィアは考え続ける。軽くなった頭は良いアイデアを出してくれそうだ。
「おー!オリヴィア!」
「イーサム先輩。おはようございます」
「おう!もう元気になったみたいだな!」
「はい、お陰様で!」
「昨日別邸で皇帝陛下とすれ違った気がするんだけど、お前何か知ってるか?結構遅い時間だったし、俺は便所に行く途中で眼鏡を部屋に忘れてたから、あんまり見えてなくてさぁ~~」
「き、気のせいでは?」
「そうだな!」
たはーっと笑って頭の後ろに手を回すイーサムに胸を撫で下ろした。ネロは「誰にも会わなかった」と言っていたけれど、どこに目があるか分からない。
使用人たちは皆部屋の前に名前が表示されているから、きっと皇帝はそれを頼りにオリヴィアの部屋を探し当てたのだろう。もしも名札が無かったら、と考えて、その辺に居る使用人たちに話し掛けるネロの姿を想像したら胃がキリキリした。
「はーい、おはようみんな」
料理長であるデニスの掛け声にオリヴィアたちは顔をそちらに向けた。
「パーティーまでもう一週間を切ってる。参加者たちのアレルギーのリストはすでに配ってるけど、念のため各自再確認して、担当する料理に含まれる食材をチェックしておいてほしい」
前に立つイーサムがオリヴィアとジャスミンを振り返る。
「ソフィア王女は卵アレルギーらしい」
「へぇ……」
「気の毒だよなぁ。プリンやケーキなんかも食べれないんだろう?人生損してるって思っちまう」
「今まで彼女が居たことがない先輩もだいぶ人生損してると思いますよ」
「ジャスミン!」
横から茶々を入れる同期に笑いながら、私は自分の持ち場へと移動する。
ポケットから事前に配布されたリストを取り出して、六ヶ国会議に参加する予定の要人たちの食の好みや控えるべき食材についておさらいしていった。確かにアデーレ王国のソフィア王女の名前の横には、卵のマークと大きな赤いバッテンが書かれている。
ソフィア・リングベリという名前と共に、こちらを見据える女性の顔が目に入る。
長く伸ばされた美しい金色の髪。
慈愛溢れる目元に気品が感じられる微笑み。
オリヴィアはハッとして、すぐに紙を折って再びポケットに仕舞った。朝食のために今日も適当な大きさの皿を用意する。テキパキと手を動かしている間は、余計なことは考えずに済むから。
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