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第二章 思い悩む男爵令嬢
15 交流
しおりを挟む予想はしていたことだけど、マリベルが届けた手紙にルシアンからの返答はなかった。
しかし、学内で見かける彼の姿から察するにおそらく以前より容態は良くなったのだろう。相変わらず愛想良く令嬢たちに微笑んでいるようだし、一緒に歩く王太子アレスターにも変わった様子はない。
(リリスが言っていたほど大病ではなくって、ただの風邪程度だったのかも……)
マリベルは少しほっとして視線を隣で喋るミーシャへと移す。熱心に美男子学園の考察を今日も繰り広げてくれるこの友人は、目前に迫りつつある王子とルシアンのことが目に入っていないようだった。
「それでね、主人公のレイが授業中に具合が悪くなったときにガトーは彼を背負って保健室に向かうわけなの。そんなの小説みたいって思うでしょう?でも良いのよ、実際に小説だから」
「ガトーって誰だっけ?」
「ガトーはレイのお友達よ。ほら、ルシアン様にそっくりな愛らしい天使みたいな見た目の……」
そのとき、タイミングの悪いことにまさにミーシャの真横を通り抜けようとしたルシアンが、突然呼ばれた自分の名前に反応した。
「誰が天使だって?」
「ひゅっ……!!ルシアン様……!!」
ミーシャはわたわたと大袈裟に顔を両手で覆い隠して、助けを求める目をこちらに向ける。ルシアンの表情から彼が怒っているわけではないと分かっていたから、マリベルは小声で「大丈夫よ」と言った。
「す、すみません、読んでいる小説の話なんです。殿下とルシアン様によく似た登場人物が居て……」
「へぇ、それは面白そうだね。アレスターも興味があるんじゃないか?どう思う?」
「ぼっ、僕は!僕は、えっと……」
何故かミーシャよりも緊張を示す王太子はロボットのようにギクシャクと手足を動かした挙句、故障したみたいに黙り込んでしまった。ルシアンはクスクスと俯いて少し笑うと、慣れた様子でその背中を叩く。そして、真っ赤になったアレスターの耳に顔を寄せた。
「これも練習の一貫だ。話してごらん」
「あ、うっ……うぅ~~!」
「ごめんね、ミーシャ嬢。殿下は少しばかりあがり症なんだ。だけど二人のときは饒舌だし、彼にしかないユーモアだってある。時間は大丈夫?」
「は、はいっ!この後は昼食を食べに行く予定だったので、まったく用事はないです!」
マリベルは、三人の会話をただ眺めていた。
内心、いつもみたいにルシアンが自分に話を振ってくるだろうと傍観していた節もある。しかし、この日のド・ラ・パウル家の令息はそんな素振りを見せず、ただミーシャとアレスターの間に入って会話の仲介役を果たしただけだった。
ルシアンの助けを借りて王太子はミーシャと短い言葉のやり取りをして、満足した顔でその場を去った。内容は彼女が読んでいた小説に関してではなく、何故か今朝の朝ごはんの話だったけれど。
「き、緊張したわ……!」
ふーっと息を吐く友人の隣で、マリベルは去って行く二人の背中を見つめる。
ルシアンは結局、一度もマリベルの方を見ることはなかった。まるでマリベルなどその場に存在しないように。もしくは、彼の世界にはマリベルがもう必要なくなってしまったのかもしれない。
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