【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている

おのまとぺ

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第四章 初恋をもう一度

41 所詮

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 ワクワクと期待に胸を弾ませて待つこと数時間。下校する生徒たちを見送りながらマリベルはアーバンの元へと向かう。途中ですれ違った男子生徒の鞄が肩に当たって、勢いよく後ろへよろけた。


「わわっ……!」

 しかし、ぽすんと頭が当たったのは堅い壁ではなく、何か柔らかなもの。恐る恐る視線を上げればそこには随分と久しぶりに見るルシアンの顔があった。

「あっ、申し訳ありません、小公爵様!」

「大丈夫だよ。怪我は?」

「私の方は元気です。支えていただいて助かりました、急いでいたもので」

 頭が余計なことを深く考え出さないうちにと、いつもより早口で礼を述べてその場を去ろうとする。思っているけれど言わない方が良いこと、余計な口出しに当たるアレコレが口を突いて出てきそうで。

 ルシアンは無表情のままマリベルの言葉を流してただ頷いた。こんなに人通りの多い場所で長話をするような関係では無いから、それは至極真っ当な反応だろう。

 しかし、納得したのも束の間。踵を返して走り出そうとした腕がグンと引かれて、マリベルはまたルシアンの胸に頭をぶつけることになった。


「んぶっ!?」

 驚いた拍子に手に持っていたメモ用紙が落ちる。アーバンから待ち合わせ場所を知らせる内容が書かれた手紙を受け取ったのは昨日のことで、逸る気持ちで今日は一日中そのメモを眺めて過ごした。

「………旧校舎へ行くのか?」

 運悪くメモを拾ったルシアンが不思議そうな顔で尋ねる。マリベルは言い訳めいた風にならないように至って普通の顔で説明した。

「人と待ち合わせしているのです。この時間、登下校の生徒が多いですから、空いた場所で話そうということになって」

「へぇ。それは例の恋人と?」

「だ、だったら何か問題でも!?」

 思わず大きな声で食い気味に返してしまい、驚いた顔のルシアンを見て慌てて謝罪の言葉を述べた。彼の質問に特別な意味はない。こんな返事をしてしまうのは自分に余裕が無いからだし、ルシアンの前でこれ以上の痴態を晒すことは避けたい。

「マリベル、」

「すみませんが、今日はこのあたりで失礼します。約束に遅れてしまいそうなのでごめんなさい……!」

 何か言いかけたルシアンの言葉を遮るようになんとかそう告げて、マリベルは人混みに飛び込んだ。ガヤガヤと賑わう廊下で揉まれながら、頭の中では先ほどの会話を反芻する。

 誕生日を祝う言葉は、ルシアンの口からは何もなかった。

 なんだかんだいって記憶力の良い人間なので、毎年何かしらの形で祝ってくれていたけれど、それは単なる気まぐれに過ぎなかったのかもしれない。日頃のパシリへの感謝を込めて、ご機嫌取りをしてくれていたのだろう。

 マリベルが建前上は「ただの妹のような存在」に収まった今、会話の頻度はぐんと減った。このまま互いに見合った相手と結婚したら、デ・ラ・パウル公爵家とグレンシア男爵家の家族交流も無くなることだろう。

 寂しいわけではないけれど、胸の奥がザラザラする。所詮他人事、と言い聞かせてマリベルはぼんやりと浮かぶメリッサの顔を頭から追い払った。


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