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第五章 アルトピアの春
54 台風再来
しおりを挟むさて、これはグレンシア男爵家の家族と使用人のみに共通する解釈だが、姉のカレンはしばしば台風に例えられることがある。彼女の類を見ない強気な性格と周囲を巻き込んで物事を進める姿からそう呼ばれているわけだが、年を重ねてもそれは変わらず。
「あら~~お帰りなさい、マリベル!ちょうど良かったわ、今そこでミーシャと出会って貴女たちの社交界デビューの日のことを写真で振り返っていたの。石段で躓いておでこにたんこぶを作ったままアルバムに残ってるなんて忘れてたわ~」
「マリベルのたんこぶ!いたそう!」
母親そっくりの顔でふっくらとした頬っぺたを赤く染めるのは今年九歳になるカレンの息子オータムだ。この騒がしい親子がまたもや知らせなしに実家に帰っているのは、もはや驚くべきことでもなかった。
「マリベル、お邪魔してるわよ。今日は双子をお母様が見てくれる日でね、久しぶりにゆっくりできるから遊びに来てみたらカレンお姉様と会って……」
「昔話に花を咲かせてたのよね!」
「………左様で」
きゃいきゃいと話す三人の傍で、母は嬉しそうに目を細めている。長女であるカレンが時折このような形で屋敷を訪問するのは、母にとっては当然だが嬉しいことのようだ。父グリフィンはまだ仕事なのか、姿が見えない。
ミーシャは学生時代伸ばしていた髪をバッサリと切って、彼女が愛読していた美男子学園とも一旦距離を置いたようだった。曰く「とにかく自分の時間がない」そうで、趣味はしばらく封印とのこと。
子育てに追われる二人のもっぱらの興味の矛先はというと。
「マリベル~!フィルと別れたって本当?」
「あらあらまだそれは聞いちゃダメよ、ミーシャ!別れて二週間も経ってないから傷が浅いわ」
「あっ、すみませんお姉様!だけど原因は向こうの浮気なんですよね?」
「そうよ。それも四人も!」
「まぁ! 器用だこと……」
絶句するミーシャと得意げに話すカレンの間の席を引っ張って、マリベルはどしんと腰を下ろした。すぐに隣からメイドのトリスがお茶を差し出してくれる。
「お二人とも。他人の恋愛事情で盛り上がるのは控えてくださいませんか?ハッキリ言って悪趣味です!」
「盛り上がってないわ。客観的な視点から分析してるの。高尚な趣味と言って頂戴な」
「お姉様………」
楽しげに笑うカレンを見据えて、少し迷った結果マリベルは口を開いた。
「今日、ルシアンと会いました」
「えぇ~~!隣国に居るはずのルシアンと会うなんてまるで運命、」
「お姉様」
強く嗜めると、姉は降参したように目を閉じる。
「ごめんなさいってば。別に隠していたわけじゃないの。ただ、ルシアンが貴女には自分から話したいって」
「え、ルシアン様がどうされたんですか?」
驚いた顔で目を見開くミーシャにマリベルは簡潔に今日の出来事を説明する。ルシアンとの再会、そしてどうやら一時的な帰国ではない様子であったことについて。
ミーシャは短い簡単の言葉を交えながら目をクルクルさせてその話を聞いていた。黄色い瞳が好奇心で輝くのを見て、嫌な予感を覚える。
「なるほどね、なるほど…… それでルシアン様はマリベルに話があるって言ったのね。それも渡月会の夜に……!」
「んふふっ、どんな話があるのかしらね?ちょうど私も来週の金曜日はまだここに居る予定だし、オータムを預けてミーシャと母校訪問をキメても良いわねぇ」
「お姉様、ミーシャ」
低い声で注意を促すと、四つの目がウルウルとこちらを見つめる。
「そんな目をしてもダメです。お姉様の口から事情が聞けないのは分かりました。ルシアンとの対話には応じますが、何度も言っているように私たちの関係に期待しないでください!」
ぐいっとカップを傾けて紅茶を飲み干すとマリベルは着替えるために自室へと向かった。背中に刺さったカレンの「頑固よねぇ」という声は、とりあえず聞こえないフリをして。
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