【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている

おのまとぺ

文字の大きさ
55 / 60
第五章 アルトピアの春

55 渡月会:Re1

しおりを挟む


 柄にもなく緊張していた。

 アルトピア王立学園の恒例行事となっている渡月会にマリベルが参加するのはこれで七度目。教師になってからは三度目なので、もう当日の人の多さや普段とは違う校舎の雰囲気には慣れたと思っていたのに。

「ごきげんよう、グレンシア先生」

「あ……ごきげんよう、」

 控えめな挨拶を背中で受けて初めて、自分がぼけっと廊下の真ん中に突っ立っていたことに気付く。女子生徒たちは綺麗に着飾った姿で連れ立って広間へと入って行った。

 マリベルが選んだ大きなカボチャたちは、指定した位置にどしんと積み重ねられており、カラフルなリボンを巻かれたことでより一層パーティーらしさを感じる仕様となっている。

(なんで今更緊張なんて………)

 主役はあくまでも生徒で、自分たち教師は監視役に過ぎない。若い少年少女たちが煌びやかな時間を楽しむ様子を見守るために今日はここに来たのだ。

 つまり、仕事。
 今日という日は勤務に集中せねば。


「マリベルー」

「ひゃい!」

 まったく意思の伝達が出来ていない身体は、突然頭上から降ってきた声に驚いて飛び上がった。飲み物のグラスを持っていなかっただけ、いくらかはマシだろう。

「そんなにビックリするなよ…… 学長が今年も招待してくれたのは良いけど、やっぱり退学した僕がこんな場に居るのは気が引ける」

「あ、アーバン……」

 声の出どころを目に入れて心はホッとする。体型こそ違えど、コロコロ変わる表情は若い頃のままで、マリベルは少し安心を覚えた。彼のしでかした悪行は許されることではないが、しっかり反省して罪を償った人間をこれ以上責める気にはなれない。

 白いプレートの上に食べ物を載せつつ、目を泳がせるアーバンを見て、マリベルは学生時代を懐かしく思った。

「にしても昨日は驚いたよなー。まさかルシアン・ド・ラ・パウルがガルーアに帰国してたなんて。噂じゃあ隣国の令嬢と結婚したんじゃなかったか?」

「………知らないわ」

「マリベルはああいう人気者に興味がないんだな。ま、そういうところは僕は歓迎だね。なんせ女ときたらみんなルシアン、ルシアンってさぁ。寝ても覚めても同じことばっかりで」

 マリベルが何も返事をしないことを同意と受け取ったのか、アーバンはワインのグラスを片手にペラペラと言葉を重ねる。

「そんなに良い男だと思うかい?こう言っちゃなんだが、正直顔だけが取り柄だと思わないか?僕だってあの顔に生まれていたら、そりゃあ上手く立ち回って大いに躍進しただろうさ」

「アーバン、」

 マリベルは視線を上げて、わずかに酔いの回った赤い顔を見つめた。

 どういうわけか、アーバンは肉付きの良い大きな右手をマリベルの腰に回す。これから一曲踊るとでも思っているのだろうか。改心した彼とは友人として関係を築きたいだけに、今回の失言は訂正しておくべきだろう。

「あのね、小公爵は貴方の言うような方ではないわ。よく知らない相手のことをそんな風に決め付けて話すのはどうかと思う」

「はぁ?」

「不快にさせたらごめんなさい。だけど、貴方のお家のお花は好きだから、言っておきたかったの」

 アーバンは唇を震わせて、何かを言おうと口をパクパクさせた。しかし、明確な音が飛び出す前に、二人の間に一本の腕が割って入った。


「なるほど、どうもありがとう。卒業してもう何年も経つけど、まだこうして僕のことを噂してくれる人間が居ることに感動しているよ」

「………?」

 憤るアーバンの双眼がゆっくりと上に動く。
 そして、ハッとしたように止まった。

「アーバン・スコットくん、知性ってものは頭の良さとは別らしい。君が転校先の学校を主席で卒業したと聞いた時は嬉しかったけれど、こういう低俗な話を好む点は変わらないね」

「ルシアン!」

 驚いて叫んだマリベルの口を片手で塞いで、ルシアンは話し続ける。

「昔から君の軽薄なところが羨ましかった。俺も君みたいな性格だったら、六年も掛からなかっただろうから」

「へ?」

 素っ頓狂な声を上げるアーバンに「飲み過ぎには注意して」と言い添えると、ルシアンはにこりと笑って歩き出す。その右手はしっかりとマリベルの手首を掴んでいて、招待客の間を縫って進みながら、現状を理解しようと試みた。

 分からないことが多すぎる。
 だけど、今のマリベルは分かりたいと思っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています

鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。 伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。 愛のない契約、形式だけの夫婦生活。 それで十分だと、彼女は思っていた。 しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。 襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、 ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。 「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」 財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、 やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。 契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。 白い結婚の裏で繰り広げられる、 “ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

姉妹のお相手はわたくしが見つけますわ ー いき遅れ3姉妹の場合

葉月ゆな
恋愛
「フェリシアが結婚して、フェリシアの子供が侯爵家を継げばいい」 女侯爵である姉が言い出した。 3姉妹が10代のころに両親がなくなり侯爵家の建て直しで、この国では行き遅れと呼ばれる部類に入っているシャルロッテ(長女)、フェリシア(次女)、ジャクリーン(三女)の美人三姉妹。 今日まで3人で頑張って侯爵家を建て直し、落ち着いたからそろそろ後継者をと、フェリシアが姉に結婚を薦めれば、そんな言葉が返ってきた。 姉は女侯爵で貿易で財を成している侯爵家の海軍を取り仕切る男装の麗人。 妹は商会を切り盛りする才女。 次女本人は、家内の采配しかできない凡人だと思っている。 しかしフェリシアは姉妹をけなされると、心の中で相手に対して毒舌を吐きながら撃退する手腕は、社交界では有名な存在だ(本人知らず)。 なのに自慢の姉妹は結婚に興味がないので、フェリシアは姉妹の相手を本気で探そうと、社交に力を入れ出す。 フェリシアは心の中で何か思っているときは「私」、人と喋るときは「わたくし」になるのでご注意を。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

処理中です...