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第一章 女王とその奴隷
18.運転手とネクタイ※
しおりを挟むロカルドの風邪が完治し、私がオデットへの接し方を少し弁えてきた頃、ミュンヘン男爵家に新たな使用人が雇われました。その男はルーベンという名前の中年の男で、免許を持っているため運転手としての役割も兼任することになりました。
「見たかい?私たちのこと見下してたね」
ルーベンとの顔合わせを終えるや否や不機嫌そうにそう言うオデットを嗜めようと、私は口を開きます。
「そんなことはありません。ルーベンさんは目が少し悪いと聞いていますから、顔が見ずらいのでしょう」
「相変わらず阿呆だね、アンタ。あの脂男が若いアンタの脚を舐めるように見ていたのに気付かなかったかい?きっと私の着替えも覗くに決まってる!」
とんでもない被害妄想が始まったので、私は呆れて仕事に戻ります。もう十分に年を取ってしまったオデットの性格矯正はやはりかなり困難だと最近判明しました。
今日は業務後に居残り作業がある日です。
手早く厨房の拭き掃除を終えて、着替えようと廊下へ飛び出したところでロカルドと鉢合わせました。隣にはルーベンが立っています。頭を下げると、深く刻まれた皺の寄った目がわずかに細められて、ルーベンは笑顔のようなものを見せました。
「アンナ、もう帰るのか?」
「はい。また明日よろしくお願いいたします…旦那様」
「ああ、ご苦労」
また少ししたら顔を合わすのに、ルーベンの手前このような挨拶をするのは嘘吐きになったような気持ちです。私が更衣室でダラダラと着替えをしている間にオデットも部屋に入って来て、俊敏な動きで「お疲れ様」とすぐに出て行きました。
私は使用人が捌けて誰も居なくなった静かな屋敷の中を歩きます。二度のノックのあとで、ロカルドはいつものように私を迎えました。
何やら書き仕事をしていたのか、ベッドサイドの机の上には書類の束とペンが置いてあります。ベッドから立ちあがろうとしたロカルドを、私は制止しました。
「そのままで構いません」
「………?」
ゆっくりと歩み寄ってロカルドの隣に立つと、自分より大きな身体を抱き締めます。驚いたようにこちらを見る青い目を見据えながら、私は持っていた包みを差し出しました。
開けてください、という指示に頷いてロカルドの長い指がリボンを紐解きます。中から出て来たのは濃紺の布地にヴィラモンテの町のシンボルが小さく刺繍されたネクタイでした。
「貴方にいただいた物には及びませんが」
「そんな気を使わなくても、」
「付けてみますか?」
そう言って私はロカルドの手を取ります。するりとネクタイを回せば、あっという間に手首を拘束することが出来ました。やはりネクタイにして正解です。
「アンナ……?」
「言ったわよね。名前を呼んではダメ」
焦りの浮かんだ顔を包んで頬に口付けると、私はロカルドをベッドに座らせたまま、自由の効かない彼の代わりに服を脱がせてやることにしました。
品のある香水の香る首筋に唇を押し当てて、下から上へと舐め上げるとくすぐったいのか身体が震えます。彼が自分で慰めることが出来るように、ベルトを外してズボンの前を寛げてあげました。私は優しい女王なのです。
情けないほどに硬くなった自身に縛られた手を導くと、耳まで赤くなったロカルドは「動かしずらい」と駄々を捏ねました。
「その方が良いでしょう?多少不便な方が好きなくせに」
「君は俺を誤解している!俺はべつに……!」
「誤解?私たちの出会いを忘れたの?」
ツンと張った桃色の突起を指で弾いてみます。
甘い声が漏れ出てロカルドは仰け反りました。
「こうやって胸を弄られて気持ち良くなってしまうなんて、女の子みたいね。でも、可愛くないものをぶら下げてる」
下着ごと大きな手に握り込まれた剛直は、すでに先走りを垂れ流しています。私がどんな誤解をしているというのか分かりませんが、昂る自身を鎮めようとしている時点で、ロカルドだって自分の性癖を理解しているはずです。
カリカリと胸の頂に刺激を与えながら、首元から鎖骨に向けて口付けを落としていきました。
「……んぁっ……それ、もっと…」
「もっと何?」
「胸、ぎゅって、」
「こうかしら?」
可愛らしい飾りを指先で引っ張ると、涙目になったロカルドが大きく震えました。縛られた手で必死に扱かれた肉塊はもうはち切れんばかりに膨張しています。
「どう?気持ち良い?」
「ん、きもちぃ……ッ」
そろそろ限界が近そうなトロンとした双眼を見下ろして、楽にしてあげようと胸元に顔を近付けた時、室内にノックの音が響きました。
勢いよく顔を上げたロカルドと目が合います。
私は返事するように頷きました。
「………どうした?」
「あ、旦那様?すみません、ルーベンです。車の鍵を返し忘れていまして。明日まで私が持っていると困るかと思いますので…」
「悪いが今は手を離せない。扉の前に置いて帰ってくれ」
「承知いたしました」
ホッとしたように息を吐く形の良い唇を見て、何かがプツンと切れました。
停止したままのロカルドの両手を押し除けて、私は下着の中に手を差し込み、ピクピクと震える肉棒を握り締めます。驚いた彼の声が漏れないように口を塞ぎました。
「んっ………!?」
溢れる粘液を絡ませて手を上下させれば、ロカルドの焦りとは裏腹に彼の分身の吐精欲は上がって来ているようで。唇を離して大きく見開かれた双眼を一瞥し、私は胸の突起を舐めてみました。
私の手の中で、我が主人は一際大きく跳ねます。
生温かい液体が放出されるのが分かりました。
手を広げて白濁した欲を見つめました。荒い息を繰り返すロカルドの視線を痛いほどに感じます。「何を…」と聞こえたところで、私は被せるように口を開きました。
「あの、間違えました」
「え?」
「今日はもう遅いので帰ります。さようなら」
踵を返してバタバタと部屋を去り、家に着くまでのことはよく覚えていません。放置した主人の両手が縛られたままだったことを思い出したのは翌朝になってからで、私は自分の愚かさに頭が痛くなりました。
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