80 / 83
番外編※
ロカルド・ミュンヘンは分からせたい2
しおりを挟むなにやらロカルドの様子が変です。
家でも外でもやけに私にくっついて歩きますし、夜寝る時なんか、絞め殺す気なのかと疑うぐらいきつく抱き締めて眠るのです。こういった場合の相手の心理を予測できるだけの知能が、私にあれば良いのですが。
「で、君は僕に相談に来たと?」
肩まで伸びた茶色い髪を束ねて男は笑います。
彼は私が幼い頃、家の近くに住んでいたダニエル・パボワという幼馴染です。旧友の彼がヴィラモンテに戻ったと知ったとき、私は嬉しくなりました。
弟のニックは相変わらず王都で忙しそうにしていますし、父と母などとっくの昔に行方知れずなので、幼少期の思い出を共有できる人が近くに居るのは悪くありません。
「ええ。だってダニエルは私より賢いでしょう?」
「まぁ、君よりは成績は良かったけどヴィラモンテの学校なんてそもそもレベルが知れてるよ。気になるならミュンヘン男爵に直接聞けば良いんじゃないか?」
「それが……教えてくれなくって」
ロカルドの態度を思い出してしゅんとします。
私が理由を尋ねても「何でもない」の一点張りで、ロカルドはまったく話してくれないのです。突き放すような言い方には少し悲しくなりました。
「そういえば、貴方のことを私の初恋の相手だとか言ってたわ。もう随分前のことなのに、意地悪よね」
「なるほどね。僕だって貴族の妻に手を出すほどバカじゃないよ。それに彼はすごく嫉妬深そうだし……」
ダニエルの目が私の首元を見ます。
私はストールの下に咲いた赤い痕を彼が見抜いたのではないかと心臓が跳ね上がりました。そんなことはないと思うのですが。
小さい頃は優しくてぷくぷく太っていたダニエルが、こんなにシュッとした男に成長していて驚きました。私はあの、子豚のような体型が好きだったので少し残念です。
「さてさて、長話は終わりだ。今日はどんな花をご希望で?夏に向けて白い百合なんかも良いと思うけど」
「うーん、そうね……」
「向日葵も綺麗なのが入荷してるよ。ほら、アンナの顔よりも大きいんじゃないか?」
ふざけてダニエルが私の頭に花を近付けるので、くすぐったくて私はケラケラ笑ってしまいます。
「………噂をすれば、お迎えが来た」
「お迎え?」
ダニエルの視線を追うと、店の入り口にはロカルドが立っていました。何処かへ出掛けた帰りなのか、路上につけた赤い車の上では、アドルフが運転席に座ってひらひらと手を振っています。
奇遇ですね、と声を掛けようとして私は固まりました。
なんだかとても、ロカルドは怒っているようなのです。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる