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第三章 ベルトリッケ遠征

32 予期せぬ再会

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 ベルトリッケ地方にある合宿場に到着したのは日没間際で、意外にも距離があったことに驚いた。

 聞いた話では、早々に寝落ちしてしまった私と対照的なプラムは移動中ずっと起きていたらしく、夕飯まで持つか疑わしいほどに眠そうだ。


「あんたの能天気さは遺伝してないみたいだな」
「………どういう意味かしら?」
「俺を枕にスヤスヤ気持ちよさそうに寝てたから」
「はいはい悪かったですねぇ。おかげさまでとっても良い夢を見ることが出来ましたとも」

 売り言葉に買い言葉でついつい張り合ってしまう私の後ろを、穏やかな笑みを浮かべたフィリップが通り過ぎる。

 こんな場所まで来て仲の悪さを見せつけるわけにもいかないので、私は咳払いをして荷物を降ろしに掛かった。二週間の合宿ということで、皆それなりに色々と用意して来ているようだ。

 プラムと私のアレコレでパンパンに膨らんだトートバッグを持ち上げていたら、横からフランがひょいと奪って行った。愛想はないけれどそういう気遣いは有難いと思う。


「ママ……プラムねむい」
「あ、そうよね。お部屋もうすぐ着くから…」

 背中をさすりながら、なんとか宥めていると、すでに合宿場の入り口に立っていたフィリップが皆に声を掛けた。部屋割りを発表するとのことで、私は慌ててプラムを抱いてそちらに走って行く。

 第三班のメンバーが揃ったことを確認して、フィリップが口を開いた。

「それでは皆さんお待ちかねのお部屋ですが……」

 誰かのお腹がキュルッと鳴る。
 メナードが恥ずかしそうに小声で謝罪した。

「良いんですよ、お腹が空きましたものね。今回は皆さん一人部屋になります。ローズさんはプラムさんと同室ですが、これは問題ないですね?」
「ありがとうございます……!」
「あとは早い者勝ちとしましょうか。中庭に面した部屋が良いか、湖が一望できる眺めの良いお部屋が良いか、はたまた曰く付きの窓のない部屋か……」
「私は湖のやつで!」
「バカ、俺だってそこが良い!」

 クレアとダースが血眼で鍵束に飛び付くのを見て私は思わず笑ってしまった。メナードもオロオロと困った顔をしている。

「冗談ですよ。曰く付きはありません。どの部屋番号がどんな眺めかは運なので、ご自分を信じて選んでください」
「なによ~焦っちゃったじゃない」
「各自部屋に荷物を置いたら食堂に集合しましょう。本格的な訓練は明日の朝からになります」
「あ、フィリップ!八人目の紹介はいつだ?」

 その時、建物の中から人が出て来た。
 沈みゆく夕陽を背に黒い小さな影が伸びる。


「はっはっは!アンタら変わんないねぇ」
「ラメール………!」
「会いたかったかい、ダース?」

 魔術師ラメールは変わらぬ陽気な声で尋ねた。

 黒いマントに高い鷲鼻、人の良さそうな丸顔。クレアやダースたちも口々に再会を喜ぶ言葉を発した。メナードは初めて会う老婆に自己紹介をしている。

 しかし私は、ラメールの後から出て来た白衣の男に気を取られていた。皆の声が遠退くぐらいには、意識がそちらに持っていかれた。


「久しぶりだね、ローズ。僕を憶えているかい?」

 驚いて息を呑む。
 プラムを抱いたままで、その広い胸に飛び込んだ。


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