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第二章 アルカディア王国編
25.白雪の丘
「……っわぁ、雪が見えます!」
私は車の窓に両手を付けて外の景色に目を輝かせた。本の中では読んだことがあるものの、実際に目にしたことはない白銀の景色に息を呑む。触れるとどんな感触なのだろう。食べたら舌の上で溶けるのだろうか。
娼館セレーネから移動するために車に乗る、と聞いた時も私は驚いた。カルナボーン王国での主な移動手段は馬車だったので、車なんて初めての経験だったのだ。丸い四つの車輪が本当に私たちを無事に運ぶのか、しばらくの間は不安で手が震えていた。
「外に出てみる?」
嬉しい提案に頷くと、ノアは運転手に車を停めるように伝えた。
娼館から出る際に、流石に下着同然のベビードールやバスローブはおかしいと思ったので、唯一残していたドレスを着て来たが、雨に濡れたせいか少し縮んでしまったようで、見兼ねたノアが国境の近くで新しい服を買ってくれた。「質素でごめんね」と言われたけれど、重たいドレスと異なる軽やかなワンピースに私は大満足だった。
車のドアを開けて恐る恐る雪の上に足を置く。そのままズポッと嵌ってしまった私の身体をノアが引き上げる。手渡された厚手の毛布を被ったけれど、かなり寒い。
「寒さが厳しいでしょ?車に戻ろうか」
「あ……少しだけ、」
言いながら手を伸ばすと柔らかな白雪が指先に触れる。ひんやりと冷たいそれは口に含むとやはり、瞬時に舌の上で溶けた。
「すごい…!魔法みたいですね」
「こんなもので良いならいつでも見られるよ」
「私、かき氷というものが食べてみたいです」
「王宮に着いたらすぐ用意する」
雪の上にしゃがみ込む私の側に、同じようにノアも屈んだ。
「可愛いリゼッタ、俺はいつまで約束を守れるかな?」
「約束……?」
「ナターシャと、君に無理はさせない約束をしてる」
「皆さんが思っているより私は頑丈ですよ」
心配されてばかりの自分が情けなくて、笑顔を作った。外気に触れて冷たくなったノアの手が私の頬に触れる。あ、と思った時にはもう唇が重なっていた。吐息まで凍ってしまいそうな雪景色の中で、ノアの舌が私を惑わす。突いた左手は上手く機能せず、バランスを崩して雪の上に尻餅をついた。
「……ごめん、つい」
「私の方こそ…」
車の中で待つ運転手の方が気になって振り返った。どうやら、中からこちらの様子は見えていないようで少し安心する。
「結構きついね。頑張れると良いんだけど」
「何がですか?」
「うーん、こっちの話だよ」
困ったように笑いながら、ノアは私を起き上がらせる。スカートに付いた雪を払い落として再び車に乗り込んだ。アルカディア王国の国内にはもう入っているから、王宮までもそう遠くはないだろう。
まだ見ぬノアの家族に思いを馳せながら、緊張する胸に手を添えた。
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