【完結】婚約破棄された娼婦を隣国の王子が溺愛するなんて聞いたことがありません!

おのまとぺ

文字の大きさ
33 / 83
第二章 アルカディア王国編

31.イーゼンハイム家との食事



勇ましい獅子の叩き金が付いた扉の前でノアは立ち止まった。中から聞こえてくるカチャカチャという音から、おそらくここが食堂ではないかと考える。

「じゃあリゼッタ、今日は恋人らしくね」
「……はい」

緊張で手に汗を握りながら頷く。
私はノアの恋人、ノアの恋人…と頭の中で何度も繰り返していたら、なんだか妙に彼の視線や繋がれた手が気になってきてしまった。変に意識しては不自然になると分かっているものの、ドクドクと心臓が騒ぎだす。

ノアはそんな私の心境など知る筈もなく、勢いよく扉を押し開けた。


「おお!ノア!」
「ちょうど今私たちも来たところなの、座って!」

部屋の中央には大きな円卓が置いてあり、隣り合って国王と王妃が座っていた。このような食事の場であまり円卓が採用されているのを見たことがなかったため、驚きつつノアの後ろを追ってテーブルに近付いた。彼を真似て、恐る恐る手前の椅子に着席する。

「聞きたいことは山ほどあるが、夜は長い。とりあえず乾杯と行こうか…!」

国王の呼び掛けで、メイドがシャンパンを運んで来た。既に並べられたグラスを手に取って注いでもらう。琥珀色の液体が並々とグラスを満たし、爽やかな葡萄の香りがした。

「そうだな……では、ノアとその恋人リゼッタ嬢に!」

乾杯の音頭が取られ、国王は私の方へグラスを向けてきたので慌てて下から自分のグラスを差し出した。チン、とガラスが触れ合う軽やかな音がする。その後、上機嫌の国王は王妃やノアともグラスを合わせてようやくガブガブとシャンパンを飲み干した。

礼儀として少し口を付けてみたが、あまり飲み過ぎると思考が鈍るので、私はテーブルにグラスを戻した。次々と豪華な食事が円卓の上に並んでいく。

「アストロープ家というのはあまりこの辺りで聞かない家柄だが、ルーツはどちらになるのかな?」
「ええっとですね……」

答えに困っていると、ノアが隣で「リゼッタはこの国の出身ではありません」と答えてくれた。国王はそれを聞いて一瞬表情を変え、唸りながら私の顔を見つめた。

「………待て、どこかで君の顔を見たことがあるような…」

心臓が跳ね上がる。
シグノーの婚約者として過ごした一年あまりの間、国外への訪問などはしていない。しかし、国が外交のために送った手紙や挨拶状に自分のことが書かれていない保証もない。

冷や汗をかく私の隣でまたもやノアが涼しい顔をして口を挟んだ。

「それはそうでしょうね。彼女はカルナボーン王国の第二王子の元婚約者ですから」
「……なんだって!?」

驚いた国王の手がテーブルに当たり、近くにあったナイフやフォークが床に落ちた。直ぐにメイドが駆け寄って来て新しいものと交換する。国王は動揺を隠せないといった顔で、隣に座る王妃の顔を見た。王妃も同じく呆然としている。

私は何か言うべきか迷ったが、テーブルの下でノアが手を握ってくれたので、とりあえず様子を見守ることにした。

「ノア、お前は隣国の王子の婚約者を寝取ったのか!?」
「人聞きが悪いことを言わないでください。リゼッタはシグノー王子から婚約を破棄されたのです」
「……ちょっとお待ちなさい、ルーシャ家の第二王子と言えば最近自死した方じゃないの?」

王妃が叫ぶように言って立ち上がった。

「母さん、彼が死を選んだことはリゼッタに関係ありません。彼女は婚約を破棄された被害者です」
「そんないわくつきの女…!」
「こらマリソン!客人の前だぞ!」

混沌とする食事の場で、私は泣き出したくなる。婚約破棄された令嬢というだけで、これだけの混乱を生むのだ。そこにさらに娼館で働く娼婦なんて付いてきたら、彼らは発狂しかねない。

それもそうだろう。大切に育ててきた息子が連れて帰った恋人が娼婦。順当にいけばノアが国王になった場合、その恋人は王妃になるのだ。娼婦上がりの王妃なんて未だかつて聞いたことがないし、歴史を遡っても居ないはず。

心配になってノアの横顔を見つめたが、何ら気にする様子はなく、出された肉料理にナイフを入れている。

「今すぐ認めてくれとは言いません。しかし、どうか彼女の滞在中は失礼がないようにして頂きたい」
「……どのくらい滞在されるんだ?」
「二ヶ月を予定しています。リゼッタは身体が弱いので、アルカディアで先進医療を受けさせたい。ウィリアムのツテで良い病院が見つかりそうなので」

顔を青くする王妃の隣で国王は大きく咳払いをした。

「お前の意思は尊重したいが結婚は今の状況では認め難い。宮殿に滞在するのは自由だから好きにしなさい」

ノアが答えるより先に深く頭を下げて御礼を述べると、国王は困ったような顔でおずおずと頷いた。食事が冷めてしまう、という王妃の言葉掛けで皆は各々の皿に向き直る。

恋人の振りをしていることは頭では分かっているものの、ここまでハッキリと拒否を示されると、私の心も沈んだ。これならばまだ、友人だとか知人程度と紹介してくれた方が余程明るく迎え入れて貰えたのではないだろうか。


感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜

まりー
恋愛
   ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。  でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。    

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり
恋愛
ある日、私は殺された。 歩道橋から突き落とされた瞬間、誰かによって手が差し伸べられる。 気づいたら、そこは異世界。これは、私が読んでいた小説の中だ。 私が転生したのは、悪役令嬢ベアトリーチェだった。 しかも、私が魔王を復活させる鍵らしい。 いやいや、私は悪役令嬢になるつもりはありませんからね! 悪役令嬢にならないように必死で努力するが、宮廷魔術師と組んだヒロイン聖女に色々と邪魔されて……。 魔王を倒すために、召喚された勇者はなんと転生前の私と関わりの深い人物だった。 やがて、どんどん気になってくる魔王の存在。前世に彼と私はどんな関係にあったのか。 そして、鍵とはいったいーー。 ※毎日6時と20時に更新予定。全114話(番外編含む) ★小説家になろうでも掲載しています。