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第二章 アルカディア王国編
49.ナターシャからの手紙
近況を知らせる簡単な手紙に、ナターシャが返事を送って来たのは一週間ほど後だった。達筆な文字が並ぶ絵葉書をノアと共に覗き込みながら読む。
「お金って何のこと?」
「あ、それは…」
ナターシャの手紙には『指定の住所へお金を届けた』という記載があり、ノアはその部分に疑問を持ったようだ。
「短い間ですが娼館で働いていたので、お部屋代や設備費を引いて残ったお給料を、アストロープ子爵宛に送ってもらったんです」
「……どうしてそんな、」
「アストロープ子爵は義理ですが、育ててくれた恩があります。婚約破棄をされて離縁を言い渡されましたが、せめてもの恩返しをしたくて…」
「リゼッタ、君は……」
ノアは呆れた様子で何か言おうとしたが、そのまま頭を横に振って口を閉じた。王族と結婚した際に支給される祝い金5000万モンドにはまったく足りないが、少しは気持ちとして受け取ってくれるのではないかと思う。
べつに恨んでなど居ない。水を撒かれても、塩を撒かれても、彼らが今まで私を家族として養ってくれたという事実には感謝を示したかった。
「そういえば、最近アリスさんを見ないですね?」
「どうだろう。しばらく来ないんじゃないかな?」
「え、どうして…?」
「君に悪いことをして申し訳なく思っているんだと思うよ。ロビンソンくんと反省中なのかも」
「……そうなのでしょうか」
反省して欲しいというよりは、私としては話し合いをして解決したかったけれど、ノアの言葉を信じると今ままでのように気軽に宮殿内で会うことは難しいようだ。
「うん、だからもうそんな話は止めよう」
ノアの腕がふわりと後ろから私を抱き締める。
表情こそ見えないものの、おそらく彼はまた例のニコニコした笑顔を浮かべているのだと思う。何も考えなくて良いと私に言いながら、ノア自身がその笑顔の裏で何を考えているのか、私はまだ掴めずにいた。
ずっしりと重たいノアを引きずりながらソファまで歩いて行く。座るように伝えると彼は渋々といった風に私から離れて腰を下ろした。
「貴方の頭の中が見れたら良いのに、」
「……?」
「ノアは狡いです。私も馬鹿じゃないから、貴方が微笑みながら何か別のことを隠しているのは分かります」
「困ったな、どこでそんな勘繰りを覚えたの?」
「ふざけないでください。ノア、貴方アリスさんと…」
一瞬、口元の笑みが消えた気がした。
「アリスさんと、喧嘩したんでしょう?」
「……っはは!」
「どうして笑うんですか?」
「やっぱり君はリゼッタだ。変に心配して損したよ」
涙すら浮かべて笑い転げるノアを睨んだ。
私は今、怒っているのだ。真剣な顔をして怒っている人間を前にして手を叩いて大笑いできるノアの神経が分からない。
「そんな顔をしないで」
ノアは私の眉間に指を当てて諭すように言った。
「君に頭の中を覗かれたら嫌われちゃうだろうね。俺は善人ではないし紳士でもない。知らない方が良いよ」
「……でも、恋人になったからには、」
「恋人!いいね、やっぱり心を通わせた相手っていうのは唯一無二の価値がある。リゼッタが俺のことを好きだなんて夢みたいだよ、幸せだ」
手を取って踊り出しそうなほど上機嫌のノアを見ながら、また逃げられたと苦い気持ちになる。
好きだから知りたいのに、ノアはまるで手品師のように話をはぐらかしている気がする。丸裸の私の前で、コートを着込んでマフラーまで巻いたようなノアとどのように対峙すればいいのだろう?
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