【完結】婚約破棄された娼婦を隣国の王子が溺愛するなんて聞いたことがありません!

おのまとぺ

文字の大きさ
70 / 83
第三章 氷の渓谷編

67.渓谷の底



時間にしてはほんの数秒程度。

ただ唇が重なっただけ。驚きと緊張で心臓の鼓動が速まるのを感じながら、ルネの目を見つめた。

「……何…するんですか、」
「味見だよ。ノアの女がどの程度か気になった」
「ふざけないで!」
「強国の王子がその身を投げ打ってまで愛する女だ。結婚する気はないにしても、面白みがあるのかと思って」

普通すぎて拍子抜けした、とルネは溜め息を吐いた。

「貴方…ぜんぜんノアに似てないです」
「そう?一卵性だからそっくりなはずだけど」
「見た目の話じゃありません」
「………、」
「ノアは貴方みたいに故意に人を傷付けない。相手を思いやる優しさを持っているんです」
「なるほどね、君が如何に無知かを教えてくれてどうもありがとう」

ルネは冷ややかに私を見下ろす。
その視線に屈しないように暫くの間、睨み合った。

渓谷を案内してくれるというから、ルネに言われるがまま付いて来たけれど、こんな風に啀み合うぐらいなら部屋に居ればよかった。しかし、ノアよりも感情の変化が分かりやすいルネを前に、私自身も自分を曝け出して喋ることが出来ているのも事実。

シグノーの前でも、アストロープ子爵夫妻の前でも、自分の気持ちを強く表すことはなかったので、それは私にとって新鮮な経験だった。

「……何笑ってるの?」

いぶかしむようなルネの言葉に顔を上げる。

「ごめんなさい。あまりこんな風に気持ちを人に対してぶつけたことがないので、おかしくって…」
「なにそれ…変なの」
「ルネのことは好きになれそうにないですが、ルネと話していると素の自分になれます」
「………調子狂うなぁ」

ルネは一転して困ったような表情を浮かべて、また廊下を歩き出した。建物の外に繋がる扉を開けて、私を先に通してくれる。

上空を見上げると、遥か遠くに渓谷の入り口があった。今私が居るこの場所は渓谷の底、つまり本来川が流れている部分になるが、かつて川面であったと思われるそこは氷に閉ざされて冷気を放っていた。この様子では生き物の生息も難しいだろう。

「氷の渓谷では、食糧などはどうしているのですか?」
「時々は外へ買い物に出るよ。ジゼルが本土の馬鹿ども相手に何でも屋みたいなことしているから、それで金は手に入るんだ」
「……何でも屋?」
「君の義両親が頼んだ呪いとかだよ。世の中魔法を信じない人間は多いけど、誰かを呪いたい人間は多いみたいでね」
「………、」

私は今だにルネの言葉が分からなかった。
アストロープ子爵夫妻がそんなことを自分に対してするとは思えない。だって私がシグノーと婚約するまで、つまり25歳まで私は彼らと共に居たのだ。

「信じられないだろうけど、君が思うより人間はもっとずっと汚いよ。それはノアだって同じだ」
「……そうでしょうか」

街灯の光を受けて、キラキラと輝く凍てついた川面を見ながら私はぼんやりと返事をした。







◆お知らせ

最後まで書き終えたので更新スピードをあげます。
本日は20:20、21:20、22:20にアップします。
明日の更新時間は後ほど概要欄に上げておきます。

明日で連載開始して二週間なのでキリがいいかなと…
全部で78話で本編は終了します。
どうぞ宜しくお願いいたします。

感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜

まりー
恋愛
   ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。  でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。    

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。

Y.ひまわり
恋愛
ある日、私は殺された。 歩道橋から突き落とされた瞬間、誰かによって手が差し伸べられる。 気づいたら、そこは異世界。これは、私が読んでいた小説の中だ。 私が転生したのは、悪役令嬢ベアトリーチェだった。 しかも、私が魔王を復活させる鍵らしい。 いやいや、私は悪役令嬢になるつもりはありませんからね! 悪役令嬢にならないように必死で努力するが、宮廷魔術師と組んだヒロイン聖女に色々と邪魔されて……。 魔王を倒すために、召喚された勇者はなんと転生前の私と関わりの深い人物だった。 やがて、どんどん気になってくる魔王の存在。前世に彼と私はどんな関係にあったのか。 そして、鍵とはいったいーー。 ※毎日6時と20時に更新予定。全114話(番外編含む) ★小説家になろうでも掲載しています。