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10 晩餐会の誘い
しおりを挟む友人が主催する晩餐会に一緒に参加してほしい、とセオドアから申し出があったのはデイジーが編み物に精を出す昼前のことだった。
その日は天気が悪く、窓の外には分厚い雲が立ち込めていた。侍女たちもデイジーと共にテーブルを囲んで各々の毛糸玉と葛藤しながら、編み棒を動かしていた。
「晩餐会…?いつですか?」
「今晩です」
「分かりました。準備をいたします」
頭を下げて部屋を出て行く執事長ジャイロを見送る。このように王太子の使いっ走りをさせられる彼のことを気の毒に思ったけれど、仕事なので仕方がない。
「デイジー様、主催者はバーミング小公爵と仰っていましたよね?お嬢様が幼い頃に泥を掛けてきたあのいじめっ子ですよ!」
「まぁ。セオドア様は幅広い交友関係があるのねぇ」
「そうではありません。また意地の悪いことを言われるのではないかと私どもは心配しているのです…!」
「一緒に行きましょう!お嬢様をお守りします!」
「ダメよ。少人数で集まると説明があったでしょう?」
「しかし……!」
心配そうな顔をするペコラの両手を握り締めて、デイジーは笑顔を向ける。
「セオドア様が居るから大丈夫よ」
「なんとも頼りないですっ!」
エミリーもまた隣でうるうると瞳を揺らした。
バーバラはデイジーの決定を重んじるしかないことを分かっているため、早々にドレスの選定に入っている。晩餐会ということで、あまりコルセットをキツくしすぎるのは良くないだろう。デイジーは視線をペコラに戻して再び「なんとかなるから」と微笑んだ。
◇◇◇
かくして、デイジーとセオドアを乗せた車はバーミング公爵家へと出発した。
いつもより少し華やかな化粧を施したデイジーを見てセオドアは目を見開いたが、取り立てて何かを言うことはなく、侍女たちからの鋭い視線を受けながら車に乗った。
「バーミング公爵家へ到着しました」
運転手の声と共に扉が開く。
自らが先に降り立った上でセオドアはまだ車内に残るデイジーに手を差し出した。王太子の婚約者に相応しい微笑みを見せて、デイジーは小さな手を重ねる。
セオドアの後ろには既に噂好きな女たちが連れ立ってヒソヒソと話を交わしていた。どんよりとした天気なのに、わざわざ出迎えてくれるとは有難い限り。
さてどこから片付けようかと面々を見渡しながら、デイジーは一人考えた。ルートヴィヒが言うには、セオドア・ハミルトンの婚約者は引きこもりの白豚であるという噂も出回っているらしい。なんとも面白い話だ。
(みんなにはこの手が蹄に見えるのかしら…?)
想像すると楽しくなってクスリと笑った。
何事かと振り返ったセオドアが「大丈夫か?」と問い掛ける。問題はないです、と答えながら握られた手に空いた手を添えると、王太子はわずかに顔を赤らめた。
視線を走らせると先ほどの令嬢たちはショックを受けた顔で忙しなく言葉を交わしている。彼女たちの内情が透けて見えるようで、デイジーは気分が良くなった。
しかし、平和な時間は長くは続かず。
デイジーは案内された部屋に入ってすぐに、かつて自分を侮辱したアルフレッド・バーミングを発見した。この晩餐会の主催者らしく、朱色のジャケットに白いシャツを着たアルフレッドは高慢な笑顔を浮かべている。
「やぁ、セオドア。久しぶりだな」
「………ああ。色々と忙しかったんだ」
「君が婚約したと聞いて令嬢たちから毎日のように悩み相談を受けるよ。失恋というのは時間が解決するのかな?」
「そういうことはよく分からない」
馬鹿真面目に答えるセオドアに対して含んだ笑みを見せると、アルフレッドは二人を席に案内した。わずか五分ほどの会話だったが、小公爵がデイジーを見ることはなかった。まるでそこには誰も居ないかのように。
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