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第一章 魔法学校のポンコツ先生
09 メゾン・ド・ミロワ
しおりを挟む「がーはっはっは!こりゃ傑作だ!」
「マダム、笑い過ぎだよ。みんなで笑ったらコレットが可哀想だ。ただでさえ彼女は学校でポンコツ先生なんて呼ばれて揶揄われたんだから。パンの早食い競争でもあれば、コレットは一位なんだけどね」
「…………」
長かった初日を終えて、夜。
コレットが住んでいるアパートメントはシェアハウスのようになっていて、キッチンや浴室は住人が共同で使う仕組みになっている。メゾン・ド・ミロワと名付けられたこの建物は、もともとはマダムの両親の持ち物で「メゾン・ド・ポメージュ」と名付けられていた。この春にマダムの両親が他界したのを機に、改名されたのだ。
二階建てのアパートメントには上下で六つの部屋があり、現在は空室である一部屋を除いて五人の住人が住んでいる。
先ず、二階の一番日当たりが良い部屋はもちろんオーナーであるマダム・ミロワの部屋。そしてその隣がコレット。コレットの隣は空き部屋なので入居時からずっと誰も住んでいない。
続く一階はマダムの下の部屋にデパートの清掃として働くジョセフが、真ん中には化粧品の売り子をするオリーブが、そして残る最後の部屋にはカメラマンを目指すハインツが住んでいた。
住人たちはタイミングが合えば一緒に食卓を囲む。
この日はマダムが大鍋でシチューを作ったということで、コレットとハインツがそのお溢れに預かっていた。何かと小言が多いマダムだけれど、こうやって貧乏な住人に分け与えてくれる精神は有難いことこの上ない。
「マダム、笑わないでください!ハインツもぜんぜんフォローになってないから!」
コレットはスプーンを口から離して意義を唱える。
それを見てまたマダム・ミロワは腹を抱えた。
「だって……あんた!あのプリンシパル王立魔法学校の先生が!魔力ゼロだなんてっ……!」
「良いんです!副校長は前例が無いからこそ面白いって言ってくれました!」
「魔力は献血で注入するんだっけ?」
「………そうだけど」
ハインツはパンを千切ってシチューに付けながら「ふぅん」と言う。
ミドルセン校長と養護教諭であるレイチェルの話によると、サポート組合に登録したコレットは今後、週に一回程度魔力の供給を受けることになるらしい。何よりも嫌なのは、それが注射という手段で自分に注入されることだった。
サポート組合は魔力を持て余す協力者から献血という形で魔力を含んだ血を回収する。そして回収された魔力は「魔力バンク」という場所で保管され、必要なタイミングで必要な人に分け与えられるらしい。
「それってでも、コレットの血はどうなるの?」
「んー?」
「つまり輸血されるわけだろう?輸血って血が足りてない人を対象に行われるから、健康なコレットにそれをしようとしても無理な話じゃないか?」
「ああ、それね……」
コレットはげんなりとした顔を作って、再びレイチェルから伝えられた話を口にする。
魔力の供給を輸血で受ける以上、確かに一定量のスペースが必要となる。そのためにコレットは、輸血を行う前に別の注射器で自分の血液を抜くことになるのだ。説明するだけで吐きそう。
「あんた……大変ね……」
先ほどと打って変わって同情のような感情を示すマダムに向かって頷くと、コレットはズズッとシチューを啜った。すぐに嗜める声が飛んでくる。
もっとこう、良い感じの供給方法は無かったのだろうか。握手をすれば魔力が流れ込むとか。なんならキスすれば魔力がもらえるとか。
(いや、やっぱり無理だわ………)
魔力のみなぎっていそうな魔獣生態学のアーベルのことを想像して大きく首を振る。とりあえず借りは返したはずだし、もう明日からは平和だろう。
「そうだ、コレット」
コレットはハインツの声に顔を上げた。
「週末は一緒に買い物に出ない?ちょっと探してる本があってさ。近くの本屋には置いてないんだ」
「良いわよ。ちょうど服が見たかったことだし。また写真の関係?」
「うん」
質問に対して恥ずかしそうに一つ頷くから、コレットは「分かったわ」と了承した。ハインツはカメラマンを目指していて、現在は結婚式の写真を撮るバイトをしているらしい。いつかは風景画を専門とするプロのカメラマンになりたいと聞いている。
この黒髪の青年はコレットと同年齢ということで、アパートメントの中でも比較的二人は仲良しだった。性別こそ異なるけれど、一緒に居ると楽で。
「ありがとう。週末のために頑張るよ」
「よーし、私もあと四日働くわ!」
「はいよ~あたしは家から応援してるわ」
気の抜けたマダムの声に苦笑いを溢しながら、コレットは食べ終えた皿をシンクへと運んだ。
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