魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第四章 二つの卵と夢

67 鶏と卵◆双子視点

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 僕らは双子、二人で一つ。



「エドム様、ジェイク様。オリアナ様は体調を整えるためにこれより二時間ほどお部屋に篭られるとのことです」

「へーそう。父様は?」

「ガイツ様は週末の舞台に向けて準備を進められております。集中したいので食事もお部屋で取ると伺っています」

 そう言ってクイッと赤い縁の眼鏡を押し上げると、女は「何か質問はありますか?」と聞いた。エドムとジェイクは顔を見合わせて、首を横に振る。

 大女優の母と、鬼才と謳われる演出家の父親の間に生まれた二人は、幼い頃から家族というものの在り方を知らなかった。


 否、その言い方は適切ではないかもしれない。

 アカデミーの初等部に通い始めた頃、デ・ロサ伯爵家の兄弟は自分たちが「こういうものなのだろう」と思っていた家族像が、実は一般から大きくかけ離れたものだと知った。

 母とは、通常家に居ない者。
 父とは、子と会話をしない者。

 エドムとジェイクの認識ではそうだった。物心がついた頃から母は仕事でほとんど家を空けていたし、たまに帰って来ても自室に引き篭もって出て来なかった。父は父で多忙を極めていたので、二人の授業参観や保護者会にはいつも伯爵家の使用人たちが代わる代わる駆り出されることになった。


「スカーレット、学校の者たちに母様の舞台の話をしてみたよ。かなりの人数が来てくれるみたいだ。参加予定者の名簿を渡すから、受付の際は身分証と参照してくれ」

「かしこまりました」

 女は深々と頭を下げる。
 出来過ぎたお辞儀はまるでロボットのようだ。

 スカーレット・バッハは母オリアナの仕事を管理する立場にある者。感情の薄い彼女がいったいいつからデ・ロサ家に出入りしているのか知らない。エドムとジェイクの一番古い記憶にも登場することからして、おそらく相当長い付き合いなのだろう。

「これから母様の部屋に行くの?」

「はい。その予定です」

「いつもいつもご苦労なことだね。大女優様の付き人も大変だ。伝達係まで任されて、気の毒だよ」

「仕事ですので。エドム様とジェイク様も就寝の前に採血に伺います。デ・ロサ伯爵家のお二人の健康管理は、ガイツ様からのご希望ですから」

 宝石のような赤い瞳を伏せると、もう一度お手本のような礼をしてスカーレットはその場を去って行った。カツカツと音を立てて遠去かるハイヒールを見つめる。等しい長さで一直線に切り揃えられた黒髪は、実に彼女らしい。



「………鼻が曲がりそうだ」

「或いは頭がおかしくなったか、だね」

 ジェイクがうんざりして言った言葉に対して、兄のエドムが被せるように返す。双子は互いのエメラルドの瞳を覗き込んで、同じ気持ちを有していることを確認した。

 いつだって、二人で一つ。
 卵の時からそうだった。

 大抵のことは、言葉で表すまでもなく分かる。「何を考えているか」「何をしたいか」といった思考は手に取るように理解出来る。お互いがお互いにとって、一番の理解者。


 デ・ロサ伯爵家に自由に出入りするスカーレット・バッハという女が、父とまったく同じ香水を身に纏うようになったのはいつからか。

 奥ゆかしいシダーウッドの香りに甘ったるいバニラを加えた低俗な匂い。金のない貧乏貴族が女とデートをするためだけに買った安い香水みたいな。

 双子は溜め息を吐いて、変わらない現実を嘆くように首を振る。美しく輝くものが、実際のところ唯のまやかしであることを二人は知っていた。

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