魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

文字の大きさ
75 / 105
第四章 二つの卵と夢

67 鶏と卵◆双子視点



 僕らは双子、二人で一つ。



「エドム様、ジェイク様。オリアナ様は体調を整えるためにこれより二時間ほどお部屋に篭られるとのことです」

「へーそう。父様は?」

「ガイツ様は週末の舞台に向けて準備を進められております。集中したいので食事もお部屋で取ると伺っています」

 そう言ってクイッと赤い縁の眼鏡を押し上げると、女は「何か質問はありますか?」と聞いた。エドムとジェイクは顔を見合わせて、首を横に振る。

 大女優の母と、鬼才と謳われる演出家の父親の間に生まれた二人は、幼い頃から家族というものの在り方を知らなかった。


 否、その言い方は適切ではないかもしれない。

 アカデミーの初等部に通い始めた頃、デ・ロサ伯爵家の兄弟は自分たちが「こういうものなのだろう」と思っていた家族像が、実は一般から大きくかけ離れたものだと知った。

 母とは、通常家に居ない者。
 父とは、子と会話をしない者。

 エドムとジェイクの認識ではそうだった。物心がついた頃から母は仕事でほとんど家を空けていたし、たまに帰って来ても自室に引き篭もって出て来なかった。父は父で多忙を極めていたので、二人の授業参観や保護者会にはいつも伯爵家の使用人たちが代わる代わる駆り出されることになった。


「スカーレット、学校の者たちに母様の舞台の話をしてみたよ。かなりの人数が来てくれるみたいだ。参加予定者の名簿を渡すから、受付の際は身分証と参照してくれ」

「かしこまりました」

 女は深々と頭を下げる。
 出来過ぎたお辞儀はまるでロボットのようだ。

 スカーレット・バッハは母オリアナの仕事を管理する立場にある者。感情の薄い彼女がいったいいつからデ・ロサ家に出入りしているのか知らない。エドムとジェイクの一番古い記憶にも登場することからして、おそらく相当長い付き合いなのだろう。

「これから母様の部屋に行くの?」

「はい。その予定です」

「いつもいつもご苦労なことだね。大女優様の付き人も大変だ。伝達係まで任されて、気の毒だよ」

「仕事ですので。エドム様とジェイク様も就寝の前に採血に伺います。デ・ロサ伯爵家のお二人の健康管理は、ガイツ様からのご希望ですから」

 宝石のような赤い瞳を伏せると、もう一度お手本のような礼をしてスカーレットはその場を去って行った。カツカツと音を立てて遠去かるハイヒールを見つめる。等しい長さで一直線に切り揃えられた黒髪は、実に彼女らしい。



「………鼻が曲がりそうだ」

「或いは頭がおかしくなったか、だね」

 ジェイクがうんざりして言った言葉に対して、兄のエドムが被せるように返す。双子は互いのエメラルドの瞳を覗き込んで、同じ気持ちを有していることを確認した。

 いつだって、二人で一つ。
 卵の時からそうだった。

 大抵のことは、言葉で表すまでもなく分かる。「何を考えているか」「何をしたいか」といった思考は手に取るように理解出来る。お互いがお互いにとって、一番の理解者。


 デ・ロサ伯爵家に自由に出入りするスカーレット・バッハという女が、父とまったく同じ香水を身に纏うようになったのはいつからか。

 奥ゆかしいシダーウッドの香りに甘ったるいバニラを加えた低俗な匂い。金のない貧乏貴族が女とデートをするためだけに買った安い香水みたいな。

 双子は溜め息を吐いて、変わらない現実を嘆くように首を振る。美しく輝くものが、実際のところ唯のまやかしであることを二人は知っていた。

感想 5

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。